撮影:三輪僚子

永遠のソール・ライターを探して――伝説の写真家との出会いがふたたび

 大盛況を博した伝説の写真家、ソール・ライターの回顧展〈ニューヨークが生んだ
伝説の写真家 永遠のソール・ライター〉が2020年初頭にグレードアップして帰ってくる。汲めども尽きせぬ魅力があるこの孤高の写真家について語ってもらうべく、本展の企画者である佐藤正子氏とソール・ライターの写真に感銘を受けた、写真家の平間至氏に対談を行ってもらった。

 

佐藤「元々画家をめざしてNYに出た彼は、表現の手段のひとつとしてに写真に関心を持ち、生活のためファッション写真の世界へ足を踏み入れるんですが、セッティングされたものを嫌い、野外で自由に撮り続けました。リチャード・アヴェドンのようなファッション写真家とは一線を画す存在ですね。やがて時代の変化で創造的な自由が許されなくなって仕事も減り、ならば自分のやりたいことを追求しようと決心、知られざる写真家としての長い道に入っていくのですが、彼は平間さんと対極にあると思う。平間さんは人を幸せにする理念のもとに写真を撮ってらっしゃるけど、ソールは写真で人とつながるという意識が希薄だった」

平間「メディアの世界で30年近く生きてきた僕が写真館をやり始めたことと、彼が自分らしい写真へと移っていった流れは、共通した部分かもしれない。彼のファッション写真には、洋服すら写ってなかったり、ストレートに撮らないという反抗心を感じます。あとキーワードとしてあるのは、〈そのままでいい〉ってこと。カフェでお茶をしていて向こうに気になるものを発見したとき、自分の立ち位置を変えることなく、ひさしやテーブル越しに撮ったりする。そこから、撮るときの孤独な気分に正直であることが伝わってくる」

佐藤「ユダヤ教の聖職者ラビの息子に生まれたけれど、跡を継がず、家出するようにNYへ向かった。その辺の事情も、彼と世界との距離感の測り方に関わりがあるんじゃないでしょうか」

ソール・ライター《無題》撮影年不詳 発色現像方式印画
©Saul Leiter Foundation

平間「グラフィカルな面が特徴的だから、色と構図の人だと勘違いされやすいけど、人間らしさを感じる写真が多い。あと、もっといいものを撮ろうといった欲がない。写真がヴィジュアル的にカッコいいのは、無欲さとどこかでつながっていると思う」

佐藤「映画『写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと』を観ると、褒められたいという欲求が感じられず、それがまったくいやらしく見えない。彼を知る人に話を聞いても、お金がなくてアパートの電気をしょっちゅう止められる生活なのに、焦る様子ももなかったそうです。ソールの写真のカラーとモノクロの違いについて平間さんはどう感じます?」

平間「カラーに移って自身が解放されていったんじゃないかな。僕は、モノクロ写真は〈存在〉、カラー写真は〈意識〉を表すと考えていて、自分が世界をどう見つめているかを伝えるのがカラーで、モノクロは存在そのもの、かつ撮影者の存在そのものを伝えると思う。ソールのカラー写真は、ある場所から世界をこんなふうに見ているというまなざしそのもの」

ソール・ライター《高架鉄道から》1955年頃 発色現像方式印画
©Saul Leiter Foundation

佐藤「ところでソールの写真は、本国よりヨーロッパで評判が良いんです。押しの強さを感じさせないところがヨーロッパに近いのかなと。今回の回顧展は、妹さんのポートレートなども並べて彼の人間像が浮かび上がる内容にします。あとニューヨークのアトリエの壁など彼のプライベート空間も再現するので、彼の背景も探ってほしい。展示する写真は、未整理な写真の山から掻きわけるように選び出したんですが、これでもういいかと思っても、財団から〈こんなものが発見されたよ!〉って連絡が来ちゃってもう大変。でも一度目にすると、どうにか組み込みたい気持ちに駆られてしまう」

平間「そういうライヴ感こそおもしろい。もう亡くなっているのに、まだまだ伸び盛りな人って感じもがするし(笑)」

 

 だからこそ〈永遠の~〉というタイトルが相応しい。そのタイトルを呟き続けるかぎり、ソール・ライターは何度でも発見されるはずだ。

 


平間至(Itaru Hirama)
1963年、宮城県塩竈市に生まれる。日本大学芸術学部写真学科を卒業後、写真家イジマカオル氏に師事。写真から音楽が聞こえてくるような躍動感のある人物撮影で、今までにないスタイルを打ち出し、多くのミュージシャンの撮影を手掛ける。2012年より塩竈にて、音楽フェスティバル 「GAMA ROCK」主催。2015年1月三宿に平間写真館TOKYOをオープン。

 


佐藤正子(Masako Satou)
上智大学文学部新聞学科卒業。PPS通信社入社後、写真展の企画制作に携わる。退社後、パリへ留学。2012 年、展覧会企画制作会社コンタクト設立。ロベール・ドアノーの日本国内での著作権管理、編集企画にも従事。これまでに、ロベール・ドアノー、ジャック=アンリ・ラルティーグ、植田正治、牛腸茂雄、ソール・ライターなどの国内巡回展企画に従事。

 


EXHIBITION INFORMATION

ニューヨークが生んだ伝説の写真家 永遠のソール・ライター
○2020/1/9~3/8
会場:Bunkamuraザ・ミュージアム
www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/20_saulleiter/