©Itaru Hirama

No Groove, No Life. 最高のグルーヴが体感できる場所へ

 90年代に写真集〈MOTOR DRIVE〉でセンセーションを巻き起こし、写真界の寵児と呼ばれて早幾年。〈NO MUSIC, NO LIFE.〉のメイン・フォトグラファーを長らく務め、手がけた著名アーティストのCDジャケットは数知れず、近年は三宿にある〈平間写真館〉の館主としての顔も持つ写真家・平間至。そんな彼の八面六臂な活躍ぶりを振り返る〈平間至写真展〉が4月2日から京都駅ビル内にある〈美術館「えき」KYOTO〉において開催されることとなった。タイトルには〈すべては、音楽のおかげ〉なるフレーズもみえる。耳を澄ませば写真から音楽が聴こえてくる、とは平間の作品を語るうえで長年用いられてきた常套句だが、ドライヴ感溢れる人物たちと同じ速度で走りながらシャッターを切り続けた〈MOTOR DRIVE〉の世界観と、写真館で撮られたアットホームな家族風景がどのように共存するのか。そんなチャレンジングな試みを行うにあたって〈音楽〉という装置がどのような働きを行うのだろうか。まだイメージが湧いてこない。

 「オルタナティヴな表現と出会ったのは1978年頃。パンク/ニューウェイヴ世代で、その意識がつねに根底に流れているもので、どうすれば正統派ではない表現ができるのかという命題といつも向き合ってきた。でも実家が写真館を営んでいて、自分は三代目であるという正統な出自がいつもつきまとって。技術的な部分でのしっかりとした裏付けがありながら、精神的にはオルタナティヴなものを志向するというなかで生まれた作品が〈MOTOR DRIVE〉。そのあたりのバランスが僕の個性のひとつを成立させているのかな」

 そんな絶妙なバランスのうえに成り立つ平間の写真世界のおもしろさを広く伝える任務を託されたのは、これまでにも彼の作品の展覧会に携わってきた写真展企画制作者の佐藤正子氏だ。今回は写真の選別をはじめディレクションなどすべて彼女に委ねているとのことだが、「リミックスを依頼したような感じ」と話す表情はどこか楽しげ。クライアントありきの商業写真、写真館の写真、そして自発的に撮った人物・風景写真を両輪としながら、どれだけ躍動感のあるストーリーを構築していくか。そんな作業を彼女が大いに刺激を感じながら進めているであろうことは想像に難くない。

田中泯 2007年
〈光景〉より 2010年

佐藤正子「平間さんの個性でいうと、デジタル以前からプリントにすごくこだわられていて、商業写真でもフィルムで撮って暗室作業をし、プリントしたものを印刷原稿として入れている。そういうこだわりって媒体が違ったとしても、作品全体に共通した何かが最終的に出てくるのかな。写真館育ちという出自もおもしろい。有名なアーティストを撮るときも、一般の人を撮るときも、平間さんはお客さんとどう接するべきなのかを考えていて、気遣いやサービス精神の働かせ方が尋常じゃない。その一貫したスタンスは写真館育ちならではのものだと。あと、どの写真からも、人に喜んでもらいたいって感じが伝わってくるというか、明るさを感じる」

平間至「音楽を始め、嗜好するものは暗いものが多いのに、表出の仕方がいつも不思議とポップになってしまう」

佐藤「そこもサービス精神が関係しているのかも。写真ってなんだろう?と私はいつもすごく考えているんですが、ひと言で語りきれない、様々な要素を包括しているものなんじゃないか?と平間さんの写真を見ていて感じるところがあって。そこの興味を深く掘る楽しみもあります」

平間「商業的なものから作品的なものまで写真の役割は広くて幅がある。その幅ってものすごく写真的だと思うし、そういう意味でも僕自身が写真的な人間なんだろうと思う」