(左から)渡辺祐、田島貴男
 

2019年11月3日、〈レコードの日〉に合わせてリリースされたオリジナル・ラブのライブ盤『slow LIVE at HONMONJI』。池上本門寺でのアコースティック・ライブの模様を収めたこの作品は、これまで田島と共に数々の歴戦を繰り広げてきた猛者たちから成る〈ORIGINAL LOVE ACOUSTIC SET〉としての初ライブ・アルバムでもある。そんな強力なアルバムをアナログ盤でもって味わいつつ、同時に田島貴男自身によるアルバム制作の裏話などが楽しめるトーク&リスニング・イベントがさる12月11日に、デンマークの高級オーディオ・ブランド、バング&オルフセンがオープンした旗艦店、バング&オルフセン銀座において開催された。

トークのお相手を務めるのは、J-WAVEの〈RADIO DONUTS〉のナビゲーターとしてもおなじみ、ラジオ・パーソナリティー&ライターの渡辺祐氏。イベントは新作のリスニング&トークだけでなく、ふたりが持ち寄ったおススメのライブ・アルバムを肴にアレコレおしゃべりをするというコーナーも設けられ、筋金入りのヴァイナル・ラヴァーふたりの音楽愛が大いに炸裂する場となった。

ちなみにこの日、彼らの両サイドには、〈BEOLAB90〉なるバング&オルフセンが90周年を記念して制作したデジタル・スピーカーが鎮座。レコーディング・スタジオのエンジニアが聴くサウンドを家庭で楽しめるというコンセプトで作られたこのスピーカー(重量は1本100kg以上)から流れてくる生々しい響きに何度も舌鼓を打ったことも記しておきたい。

 

ジャズこそ昔のダンス・ミュージック

渡辺祐「〈棚からひとつかみ〉で選んでもらったライブ盤より聴いていきましょう」

田島貴男「8時間ぐらい悩みましたよ。選曲というのが大の苦手で。DJとか絶対に無理(笑)。レコード選ぶんだったら楽器弾かせてくれ、って感じ」

渡辺「決められないんだ(笑)。ではまずは私からかけさせていただきますが、いいオーディオで聴くなら、楽器数の多いジャズのライブ盤がいいんじゃないかと思いまして、カウント・ベイシーを持ってきました」

田島「さすが! ジャズといえばベイシーですからね」

Count Basie And His Orchestra『Basie In Sweden』(62年)
“Peace Pipe”

田島「カッコいいっすね。踊っちゃいますね。これが昔のダンス・ミュージック」

渡辺「レコードの解説を見ると、カウント・ベイシー・オーケストラじゃなく、カウント・ベイシー楽団って書いてあって……」

田島「たまにおばあちゃんから言われることありますもん。僕、音楽やってるんですよ、っていうと〈あ、楽団の人ね〉って(笑)。で、この楽団のホーン・セクションはものすごくクォリティーが高くて、すごいテクニックを披露しているんですよ。それから楽団の看板ギタリスト、フレディ・グリーンの演奏。この人はソロをいっさい弾かないんですよ。つねにカッティングだけ。だけどこのリズムはフレディ・グリーンにしか出せない」

 

録音マイクの本数が少ないほど音質が良いんです

渡辺「田島さんにもジャズを持ってきてもらいました」

田島「50年代ぐらいのジャズ・アルバムって圧倒的に音質が良いんです。というのも、録音の技術が未発達で、未発達だから良いという逆説的な状況が生まれていたんですね。まずマイクの本数が少ない。そもそもマイクの本数が増えるほど音像は曖昧になっていくものなんです。音は波形で、空気の振動なんですが、そのサイン波のズレ、位相のズレがマイクの本数に比例して増えていくんです。で、今日持ってきたソニー・ロリンズの『A Night At The Village Vanguard』もおそらくマイクの本数が少ない」

Sonny Rollins『A Night At The Village Vanguard』(57年)
“A Night In Tunisia”

渡辺「クラブの狭い感じの雰囲気もいいんですよね」

田島「このライブ、コード楽器を弾くピアニストがいないんですよね。ただコード楽器がないのに、すげえコードを感じる。で、これはソニー・ロリンズに脂がのっているときのアルバム」

渡辺「ソニー・ロリンズの音はとにかく太いですよね」

田島「太い! ソウルパワー! この黒人っぽいスウィング感とグルーヴ感。ソニー・ロリンズのフレーズは踊れます。そして音質がいい。昔のジャズマンはおそらくマイクに対して何センチの距離で吹くとか、そこまで考えながら演奏していると思うんですよね。当時はドイツのノイマンの高性能なマイクで録音してるんですけど、マイクの説明書に、ソロ奏者はマイクから何センチ、ドラムは何メートルとか位置の指定が書いてあるんです。レコーディングで楽器奏者はソロを吹くときは定位置からマイクの前に出て、終わったら下がる」

渡辺「なるほど、自分のほうが動いて、音を調整してるんだ」

田島「使っているマイクは1本だから、位相のズレはゼロ。音はモノラルだけど、クォリティーはめっちゃ高い。マイルス・デイヴィスやビル・エヴァンスらの50年代のアルバムは本当にイイ音」

渡辺「今日はこちらが何も振ってないけどすごく喋ってる(笑)」

田島「いやいや、ちょっと思うところがあって(笑)」