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轟音クランジからポップな歌へ

比べればNITRODAYはまだ青い。デビュー作で〈高校生による轟音グランジ〉と騒がれ、鬱屈を溜め込んだ10代のイメージが先行、そこから逃れるように楽曲をポップに磨いていったのが2017年夏以降のストーリーだが、ようやく初期の印象を払拭できたのがいま現在だ。NOT WONKのオリジナリティーを前にすると、彼らの場所はまだスタートライン。これはおそらく曲を書いている小室ぺいがいちばんわかっていることだろう。

ただ、現状を知ったうえで、いまは何者でもないロック・バンドだけど、僕たちは歌を選択します、という主張が感じられた。1曲目から小室の歌声が強い。はっきりと一語一句を音符に乗せて届けている。初期こそカート・コバーンのように叫ぶか向井秀徳のように吐き捨てるか、ギザギザしたイメージを追っていたと思うが、彼自身の歌、彼自身のメロディーがだんだん形になってきたようだ。しかも、いまの声には不安定な揺れがない。疾走するギター・ポップ“ジェット”のあと、未発表の新曲“ジュニア・ハイ”が始まったが、ゆったりしたリズムに乗る歌声は、ほとんどまろやかと言える響きであった。

歌の進化は止まらない。中盤には最新作から“ヘッドセット・キッズ”と“ダイヤモンド・キッス”。松島早紀(ベース)のコーラスが爽やかな風を呼び込んで、心躍るようなムードも生まれてくる。全員が俯いたままの初期からは考えられない変化だが、演奏直後に小室がガッツポーズを見せたのも驚きだ。顔を上げた4人は自然にアイコンタクトを交わすし、そのぶん演奏に躍動感も出る。自然と上昇気流も生まれ、次の扉が開きはじめる。大好きな曲だと前置きしていた村下孝蔵の“陽だまり”カヴァーも印象的だった。87年発表のフォーク・ソング。ゴリゴリの爆音武装を必要としない、シンプルな恋の歌である。