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10年先の未来を見据えてこそオルタナティヴ

――遠くない未来に来る崩壊、その光景はアルバム前半で怖いほど語られます。心や名前を失っても自分に振られたナンバーだけは覚えている人々の行列を描いた1曲目の“狂”、第三次世界大戦で同じ過ちを繰り返してしまう我々を、西暦2179年から見つめる視線で歌われた7曲目の“訓告”。なぜマヒトさんは未来のことをこれだけリアルに思い描けるんですか?

『狂(KLUE)』収録曲“狂”
 

「うーん……これ言うと胡散臭くなるかもしれないけど、俺ら、ほんと10年先の未来の話をよくするんですよ。〈10年先のイメージまで想定してオルタナティヴな存在を考えないと、絶対に間違える〉って言って」

――いまを追ってるだけではオルタナは存在できない?

「そう思ってます。目先の利益を求めて、一回ひとつの振る舞いを覚えちゃうと間違える。よくあるじゃないですか、笑顔で〈今日は来てくれてありがとう!〉。そのあと〈ライブ告知でーす〉みたいな。

一度あの嘘くさいパターンにはまっちゃうと、どう状況や時代が変わろうがステージ上での与える側と受け取る側のあの笑顔の交換、形骸化されたあざといテンションをなぞっちゃうんですよ。あれがひとつの正解とされてた時代が昔はあって、いまもその幻想を使って商売してる人がいるだけですよね。それは現在ですらない、過去に対してチューニングを合わせてる最悪の例だから 」

――じゃあ、未来にチューニングを合わせるっていうのはどういう考え方なんですか?

「うーん……いまはAIの進化もすごいけど、それがどんな結果をもたらすかってことも考えずに、新しいiPhoneが出たらみんな買うんですよ。で、これを買うってことは技術に対する投資だから、研究者たちにはお金が落ちるし、さらにAIの研究も進んでいく。(彼らは)人間よりも強く完璧な存在を作り上げようとしてる。

これはもうSFっていうより事実ですよね。フランスでは2030年の普及を目指したAIを軍事利用に使う方針がもう発表されてるし 。AIを積んだ無人のドローンが、通話記録から割り出したテロリストの家に突っ込んでいくとか、そんな光景もすでに約束されてて。それでも研究は止まらないし、自分たちはその流れに加担しちゃってるんですよ。そんな10年後って……まぁよく言われることだけどAIに仕事を取られてるなんて当たり前で」

――その程度じゃ済まない気がしますね。

「全然済まないと思いますよ。作曲だってAIができるし、人が快感を覚えるポップスのルールも解析されてる。だったらAIが作ったほうが早いですよ。需要に対して供給するなら人間より長けてるんだから。そんな世界で何が残るのかって、やっぱり体温だろうし、曖昧なささくれとか、揺れるノイズの部分だと思う。そういうことまで想定しないと。70年代のパンクとか90年代のグランジみたいな音を出そう、なんて話にはなーんの意味もないんですよ」

――確かに。『狂(KLUE)』の音はそんな次元じゃない。年代とかジャンルとか、考える余裕もなく脳と身体が揺さぶられていく。

「未来にもっともっと価値が上がっていくだろう、温度を持っているものの強さ。AIでは再現できない揺れ。『狂(KLUE)』の譜割りなんて絶対データ化できないし。そういうものを尊重すること自体がいまのオルタナティヴだと思う」

『狂(KLUE)』収録曲replicant”

 

俺は天使でないし、かといって悪魔でもない

――つまりGEZANのオルタナティヴは、バンド・シーンとか音楽シーンに向けたものではない。それよりは10年後、未来の危機や不安に向かってどう振る舞うかに主眼が置かれている。

「そうですね。だって音楽業界でグルグルやってても仕方ないっすよ。そんなたいしてパイもないのに、こっちがトレンドだ、次はあれがトレンドだって。誰も幸せになってない、誰も羨ましいような状況になってないのに、足の引っ張り合いしててもしょうがなくて。

それ以上に巨大な敵――敵というか目に見える危機的なものがいっぱいあって、自分でも知らない間にそれに飲まれてる自覚もあるし。本気でオルタナティヴってことを考えたら、最新のリズムの組み方を考えて、そこに〈ポスト○○〉って名前が付けられて……っていう世界は関係ないかな。ほんと知ったこっちゃない感じ」

――アルバムの最初にその宣言がありますよね。〈この音楽は大人の玩具にはならないが、時代の玩具になることを要求している〉と。

「うん。そうですね。その時代に本気で一生懸命存在してたものって、後から見てもちょっと笑えて可愛いんですよ。〈ダンス・ダンス・レボリューション〉とかプリクラとか(笑)。なんかいま見てもいいですよね。中途半端なものは笑えない。

いまを生きるってやっぱり恥ずかしいことだし、いっぱい傷を作ることだと思うけど、その時代なりの切実さもあって。俯瞰で見れば〈時代の玩具〉なのかもしれないけど、それは俺、受け入れようと思って。〈すぐ消えちゃうだろうなこいつら〉みたいな、刹那的に見えるものも好きですね」

――刹那と言っちゃうには、この音はだいぶシリアスですけどね。

「いや、言葉の面ではすっごい具体性が高いけど、サウンド面には最初に言ったヤケクソ感とか開き直りがあって。もう楽しんじゃってる。実際笑いながらミックスしてたし、内田さんだって座って頭で考えるんじゃなくて、もう立って踊りながらミックスしてたわけ。なんか〈流行りなんて知らないよ!〉って感じ。もう少しヴォーカル上げてピッチ調整とか、そんなのどうでもよくて、俺らしかいないミニマムな世界を夢中で楽しんでて。それと同時に社会に対する問題提起が共存してるから、ちょっと変なアルバムだとは思うんだけど」

――社会的な警鐘と、自分たちだけの熱狂が共存していた。

「そういうのは常にある。別に俺は天使ではないし、かといって悪魔でもないし。どっちも混在してる。はっきりいえば被害者の面も加害者の面も持ち続けてると思うんですね。たとえばLGBTQを正しく理解できてないかもしれない危うさ、自分が男尊女卑みたいなものに加担してるんじゃないかって自問自答する。絶対の完璧などないっていう自覚がけっこう強くあって」

――GEZANって自由にブッ飛んでるように見えるけど、こうして話してると違いますよね。ただ好き勝手に振る舞ってるわけじゃない。

「うん。不自由さがわかってないと絶対自由は表現できないですよ。優れたお笑いもそうで、本当の意味ではブッ飛んでないですよね。常識がわかってるから、いかにこれが非常識でおもしろいことなのかをわからせてくれる。ほんとにブッ飛んじゃってて、だからおもしろい人もいるよ、そりゃ。でも自分たちが自由に見えるのなら、反対側の気持ちもすごくわかるからだと思う。自分の中にも〈周りなんて知らないよ!〉っていう感覚と〈自分の言葉に責任持てなくてどうする〉って感覚がピッチャーとキャッチャーみたいに共存してる」