ついにリリースされたGEZANのニューアルバム『狂(KLUE)』。前編インタビューでは本作に向かっていく過程をフロントマンのマヒトゥ・ザ・ピーポーに語ってもらったが、後半はいよいよ作品の内部に切り込んでいく。止まることなく蠢き、狂おしく暴走するBPM100のビート。最終通告を突きつけるようなアジテーションの鋭さ。その果てに待ち受ける名曲“東京”のリアリティーと、最後に花開く愛や優しさについて。マヒトの言葉は、扇情的ではあるが浮世離れした危うさがひとつもない。話せば話すほど、これこそが2020年オルタナティヴ・ロックの理想型、そして最終形態ではないかと思えてくるのだった。

GEZAN 狂(KLUE) 十三月(2020)

 

地に足の着いたBPM、100

――後編はアルバムについて詳しく訊いていきます。まずは、よくぞこの流れ、この尺で、バシッと一枚にまとめたなぁって、ちょっと震えましたね。

「それはやっぱりBPM100っていうひとつの制限があったから。自由になりすぎないというか、自分たちをBPMで縛ることがよけい良かったのかな。制限があるうえで、いくつかキーワードをキャッチして、その本質は何なのかって濾過していくときにしか出せないパワーがあったというか」

――なんで100だったんですか? テクノやハウスといったダンス・ミュージックの平均的なBPMがざっくり120~130として、かなり遅めだと思うんだけど。

「あ、それは“東京”が100だったから。最初は“東京”って曲ができて、その前に連なる背景を描いていくっていうイメージだった。いろんな背景を“東京”のために作っていくような作業だったんですよね。あと感覚的には120じゃ速いと思ってた。もうちょっと、ちゃんとステップを確かめながらリズム打っていきたい。で、ときに倍になって200で焦燥しちゃう感じが自分のメンタルに近かったのかな」

――BPMを揃えるのは大変でした?

「BPMにそぐわない曲は消しましたからね。録音はしたけど入れないでおこうって。あと録音する時期と実際のリリースってどうしても時間空くじゃないですか。これTwitterにも書きましたけど、〈いま現在のリアリティーを歌ってるようじゃダメだ〉って常々思ってるんですね。優れたポップスもそうだけど、SF的な、少し先の未来を予見したものになってないと、アウトプットされたタイミングで帳尻が合わなくなる。

“東京”のMVも先日出たばっかりだけど、この曲ができた一年半くらい前よりも、いまのほうが曲としての必然性が上がってる気がするし、歌詞の意味もあとあと深くなったり重くなったと思いますね。そういう意味でもSF的な感覚は大事に持っていたくて」

『狂(KLUE)』収録曲“東京”
 

――マヒトさんの言うSFって、別の言葉にするなら何になりますか?

「……抽象的に言うなら、優しさ。未来」

――“東京”は近い未来の歌であり、あと地に足のついた生活の歌でもある。

「そう。できるだけファンタジーでコントロールはしたくないと思ってて。たとえば〈NEO TOKYO〉とか〈ディストピア〉みたいな言葉。いまの世界をそういう言葉で仕上げようとするトレンドをなんとなく感じるから。俺、これはっきり言いたいんですけど〈NEO TOKYO〉なんて絶対ないですよ」

――ははははははは。

「〈NEO〉って、ここではないどこか、ほかとはちょっと違うってことを、すごく手っ取り早く表現することができる魔法の言葉だけど。でも魔法なんか使えちゃダメですよ。〈TOKYO 2020〉って言葉も、まるですべてのものが華々しく入れ変わったような打ち出し方だけど、実際は何も変わってないし」

――〈TOKYO 2020〉の連呼とか、モルヒネみたいですよね。

「そう。良くも悪くも何も変わらないし、新しくもなれないし。それが東京のだらしなくて潔くない街の正体だと思う。使いたい気持ちはわかるけどね。『AKIRA』の年になって渋谷PARCOも新しくなって、わかりやすいSF感も手っ取り早く出せちゃうし。でもそれって過去にすでにプロップスを得たSFのイメージですよ。ああいう未来が来る前に地球は終わります」

――断言しました(笑)。

「漫画とか映画が作ってきた未来、たとえば宇宙人が来たり車が空を飛んだり、あとは荒廃した終末観みたいな。そこに辿り着くより前に壊れていくと思う。そっちのイメージのほうがいまはSF的だと思うし」

 

10年先の未来を見据えてこそオルタナティヴ

――遠くない未来に来る崩壊、その光景はアルバム前半で怖いほど語られます。心や名前を失っても自分に振られたナンバーだけは覚えている人々の行列を描いた1曲目の“狂”、第三次世界大戦で同じ過ちを繰り返してしまう我々を、西暦2179年から見つめる視線で歌われた7曲目の“訓告”。なぜマヒトさんは未来のことをこれだけリアルに思い描けるんですか?

『狂(KLUE)』収録曲“狂”
 

「うーん……これ言うと胡散臭くなるかもしれないけど、俺ら、ほんと10年先の未来の話をよくするんですよ。〈10年先のイメージまで想定してオルタナティヴな存在を考えないと、絶対に間違える〉って言って」

――いまを追ってるだけではオルタナは存在できない?

「そう思ってます。目先の利益を求めて、一回ひとつの振る舞いを覚えちゃうと間違える。よくあるじゃないですか、笑顔で〈今日は来てくれてありがとう!〉。そのあと〈ライブ告知でーす〉みたいな。

一度あの嘘くさいパターンにはまっちゃうと、どう状況や時代が変わろうがステージ上での与える側と受け取る側のあの笑顔の交換、形骸化されたあざといテンションをなぞっちゃうんですよ。あれがひとつの正解とされてた時代が昔はあって、いまもその幻想を使って商売してる人がいるだけですよね。それは現在ですらない、過去に対してチューニングを合わせてる最悪の例だから 」

――じゃあ、未来にチューニングを合わせるっていうのはどういう考え方なんですか?

「うーん……いまはAIの進化もすごいけど、それがどんな結果をもたらすかってことも考えずに、新しいiPhoneが出たらみんな買うんですよ。で、これを買うってことは技術に対する投資だから、研究者たちにはお金が落ちるし、さらにAIの研究も進んでいく。(彼らは)人間よりも強く完璧な存在を作り上げようとしてる。

これはもうSFっていうより事実ですよね。フランスでは2030年の普及を目指したAIを軍事利用に使う方針がもう発表されてるし 。AIを積んだ無人のドローンが、通話記録から割り出したテロリストの家に突っ込んでいくとか、そんな光景もすでに約束されてて。それでも研究は止まらないし、自分たちはその流れに加担しちゃってるんですよ。そんな10年後って……まぁよく言われることだけどAIに仕事を取られてるなんて当たり前で」

――その程度じゃ済まない気がしますね。

「全然済まないと思いますよ。作曲だってAIができるし、人が快感を覚えるポップスのルールも解析されてる。だったらAIが作ったほうが早いですよ。需要に対して供給するなら人間より長けてるんだから。そんな世界で何が残るのかって、やっぱり体温だろうし、曖昧なささくれとか、揺れるノイズの部分だと思う。そういうことまで想定しないと。70年代のパンクとか90年代のグランジみたいな音を出そう、なんて話にはなーんの意味もないんですよ」

――確かに。『狂(KLUE)』の音はそんな次元じゃない。年代とかジャンルとか、考える余裕もなく脳と身体が揺さぶられていく。

「未来にもっともっと価値が上がっていくだろう、温度を持っているものの強さ。AIでは再現できない揺れ。『狂(KLUE)』の譜割りなんて絶対データ化できないし。そういうものを尊重すること自体がいまのオルタナティヴだと思う」

『狂(KLUE)』収録曲replicant”

 

俺は天使でないし、かといって悪魔でもない

――つまりGEZANのオルタナティヴは、バンド・シーンとか音楽シーンに向けたものではない。それよりは10年後、未来の危機や不安に向かってどう振る舞うかに主眼が置かれている。

「そうですね。だって音楽業界でグルグルやってても仕方ないっすよ。そんなたいしてパイもないのに、こっちがトレンドだ、次はあれがトレンドだって。誰も幸せになってない、誰も羨ましいような状況になってないのに、足の引っ張り合いしててもしょうがなくて。

それ以上に巨大な敵――敵というか目に見える危機的なものがいっぱいあって、自分でも知らない間にそれに飲まれてる自覚もあるし。本気でオルタナティヴってことを考えたら、最新のリズムの組み方を考えて、そこに〈ポスト○○〉って名前が付けられて……っていう世界は関係ないかな。ほんと知ったこっちゃない感じ」

――アルバムの最初にその宣言がありますよね。〈この音楽は大人の玩具にはならないが、時代の玩具になることを要求している〉と。

「うん。そうですね。その時代に本気で一生懸命存在してたものって、後から見てもちょっと笑えて可愛いんですよ。〈ダンス・ダンス・レボリューション〉とかプリクラとか(笑)。なんかいま見てもいいですよね。中途半端なものは笑えない。

いまを生きるってやっぱり恥ずかしいことだし、いっぱい傷を作ることだと思うけど、その時代なりの切実さもあって。俯瞰で見れば〈時代の玩具〉なのかもしれないけど、それは俺、受け入れようと思って。〈すぐ消えちゃうだろうなこいつら〉みたいな、刹那的に見えるものも好きですね」

――刹那と言っちゃうには、この音はだいぶシリアスですけどね。

「いや、言葉の面ではすっごい具体性が高いけど、サウンド面には最初に言ったヤケクソ感とか開き直りがあって。もう楽しんじゃってる。実際笑いながらミックスしてたし、内田さんだって座って頭で考えるんじゃなくて、もう立って踊りながらミックスしてたわけ。なんか〈流行りなんて知らないよ!〉って感じ。もう少しヴォーカル上げてピッチ調整とか、そんなのどうでもよくて、俺らしかいないミニマムな世界を夢中で楽しんでて。それと同時に社会に対する問題提起が共存してるから、ちょっと変なアルバムだとは思うんだけど」

――社会的な警鐘と、自分たちだけの熱狂が共存していた。

「そういうのは常にある。別に俺は天使ではないし、かといって悪魔でもないし。どっちも混在してる。はっきりいえば被害者の面も加害者の面も持ち続けてると思うんですね。たとえばLGBTQを正しく理解できてないかもしれない危うさ、自分が男尊女卑みたいなものに加担してるんじゃないかって自問自答する。絶対の完璧などないっていう自覚がけっこう強くあって」

――GEZANって自由にブッ飛んでるように見えるけど、こうして話してると違いますよね。ただ好き勝手に振る舞ってるわけじゃない。

「うん。不自由さがわかってないと絶対自由は表現できないですよ。優れたお笑いもそうで、本当の意味ではブッ飛んでないですよね。常識がわかってるから、いかにこれが非常識でおもしろいことなのかをわからせてくれる。ほんとにブッ飛んじゃってて、だからおもしろい人もいるよ、そりゃ。でも自分たちが自由に見えるのなら、反対側の気持ちもすごくわかるからだと思う。自分の中にも〈周りなんて知らないよ!〉っていう感覚と〈自分の言葉に責任持てなくてどうする〉って感覚がピッチャーとキャッチャーみたいに共存してる」

 

GEZANを殺せ

――言葉に関しては、今回特に強烈ですよね。さっき言ったように具体性が高いし、かつてないほど直接的なアジテートが多い。

「まぁ最後の曲で〈ファンタジーに逃げ込むのはやめた 現実はここだよ〉って歌ってて、それはそのとおりで。綺麗で肌触りのいいものにして逃げるのは嫌だったんですよね。あとさっき言った〈ディストピア〉みたいな言葉でいまの社会をまとめるのも違うなって。ダークなイメージだけ作りあげて、ほんとに矢面に立つ覚悟もないのは嫌だし。そこは自覚的に作った気がしますね」

――覚悟がないと〈レヴェル・ミュージック以外の音楽をプレイリストから消去せよ〉(“
訓告”)って言えないですよね。

「酷いこと言ってるよね(笑)」

――さらには、宗教という言葉がはっきり出てきたのも驚きでした。この音や言葉は〈教祖も階級もない宗教〉(”赤曜日”)だと。

『狂(KLUE)』収録曲“赤曜日”
 

「そう。基本的に宗教って言葉にはそんなにいいイメージ持ってないけど、音楽って限りなく宗教と近いところにあるもので。その言葉を再定義する意味で自覚的に扱って、アジテーションする意味で表に出したかな。そして最後に〈GEZANを殺せ〉って言ってるのもそうですよね。誰のことも信じるなっていうことの果てに、俺がここで言ってる言葉すら信じるなっていう。長いスパンで特定の誰かを妄信的に信じることを否定している」

――信じてほしくないですか。

「だって俺だって信じてないもん(笑)。3年後にこのインタビューを読んでゲラゲラ笑ってるかもしれないし。でもそれってプリクラの話と一緒で、けっこういいなと思うんですね。これが俺のすべて、この最新作がすべて、だから間違いは許されない、みたいな感覚はない。その曖昧さも許容しようと思ってるんですよ。このアルバムで書いたことを俺が全部実践して、なんの疑いもなく完璧にやっているかって、全然そんなことはなくて。だからある意味虚構ですよね。マヒトゥ・ザ・ピーポーなんて俺じゃないし」

――誰なんですか(笑)。

「なんかミッキーマウスみたいなものですよ(笑)。映画のなかの登場人物の振る舞い。映画のなかなら人を殺せるし、空だって飛べるし。これはファーストを出した頃に友川カズキさんに言われた言葉だけど〈GEZANの音楽は、空虚から花を掴み取ろうとしている〉って。それはまさに俺がやりたいことで。虚構、何もないノイズから花を掴みたい。それがいまやってるドキュメントなんだと思う。

正しいかどうか、帳尻合ってるかどうか考えるよりも〈俺はいまこう思ってるんだ〉っていうアティテュードを示すほうが大事で。その瞬間に自由さとか軽快さを持ってないと、言葉って空を飛ばないから。〈これが本当のわたしの言葉なのか、俺の考えか〉って考えていくと、重力みたいなものを持っちゃう。もちろん俺にも切実さや覚悟はあるけど、それと同じくらい開き直りがあって」

 

誰もが自分の人生を取り戻し、幸せになっていい

――アルバムで〈行動を要求する ガラスを叩き割れ〉(”赤曜日”)ってアジテートしてるのはマヒトゥ・ザ・ピーポーだけど、ここにいるマヒトさんは本気でゲバ棒持ってみんなを従えて立ち上がりたいわけじゃない。

「盆踊りの円を描くってことには加担したい。でも、すべてのものを従えてトップを進みたくはないんですよね。〈ガラスを叩き割れ〉って言いながらも〈GEZANを殺せ〉って言って終わってるわけで。煽ってはいるけど、列が進みだしたら俺は逆走をはじめる、みたいなところもあるから」

――その話、このアルバムをどう理解するかにおいて重要な気がします。ものすごい暴動、革命が始まる予感に溢れているんだけど、結論としては〈ちゃんと笑うんだよ〉(”I”)と。あなた個人として生きなさいっていう内容だから。

『狂(KLUE)』収録曲“I”
 

「うん。そうですね。数と数をぶつかりあわせて戦わせるのは自分のやり方じゃない。いまの世の中、誰も観察者や傍観者じゃなくて、全員が当事者なんだっていう意識は必要で。そのうえで、ほんとに個人個人がいい感じに踊っていることができれば、違う次元で名前がなくなっていく」

――前編で話していた、ジャケに使ったひょっとこ踊りの境地ですね。

「そう。俺がめざしたいのはそこです。もっと、一人ひとりが自分の人生を取り戻していいと思うし、幸せになっていい。そのうえで、ほんと肩書もプロフィールもいらないくらい自由になれたらいいなと思ってる」


LIVE INFORMATION
GEZAN 5th ALUBUM「狂(KLUE) 」release tour 2020

2020年2月13日(木)北海道・札幌 BESSIE HALL
2020年2月17日(月)青森・弘前 Mag-Net
2020年2月19日(水)山形・酒田 hope
2020年2月20日(木)宮城・仙台 enn2nd
2020年3月18日(水)大阪・梅田 UMEDA CLUB QUATTRO
2020年3月19日 (木)名古屋・新栄 APOLLO BASE
2020年4月1日(水)東京・恵比寿 LIQUIDROOM
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