Photo by 水谷太郎

圧倒的な声のアルバムだ。踊りの概念を覆す前作『狂(KLUE)』(2020年)のあと、GEZANが辿り着いたのは声による共同体の再定義『あのち』だった。メンバー4人+トロンボーン+パーカッション+総勢15名のコーラス隊Million Wish Collectiveで織りなす爆音と声の大洪水。最初は怒り・反戦の叫びとして始まるそれは、真ん中に配置された名曲“萃点”を挟み、祈り・共鳴を込めた言霊になり、最後は美しい円を描いていく。旗を振るリーダーは不在。引きずり下ろす敵もいない。バラバラのまま共生する豊かな理想郷。それをただの理想論にしないヒントが、この作品にはたくさん散りばめられているのだ。マヒトゥ・ザ・ピーポーに話を聞く。

GEZAN with Million Wish Collective 『あのち』 十三月(2023)

 

バンドは俺のものではない

――時系列を追っていきますが、前作以降の大きなトピックはベースの交代です。カルロスさんの脱退が2020年の年末。かなりショックな出来事でした。

「はい。……ああいうのって慣れないですね。人間、〈さようなら〉に対して学習できないようになってるんですかね? 脱退だけじゃなくて」

――お別れって、いつでも悲しいです。

「それこそカルロスも、前のドラムのシャーク(安江)もそうだけど。昔は一緒の安いアパートに住んでて、テレアポのバイトも一緒、そのあとに行くライブハウスも一緒だった。別に示し合わせたわけでもないのに(笑)。

でも、そうやってずっと同じものを見てきたのに全然結果は違っていくんですよね。それは当たり前のことで、そこに生きてきた息遣いがあるんだけど」

――3人になり数ヶ月後には、公募でヤクモアさんが加入しました。

「うん。大事に出会いたいときはいつも公募、手放しで運命を試すというか。能力の高い知り合いのベーシストを入れるとか、そういう考えはなくて」

――彼に決めた理由とは?

「なんか最初から輝いてましたね。明確な意思があって。〈俺、“I”って曲が好きなんで、これやりたいです!〉みたいな。

さっきのメンバー脱退の話もそうだけど、バンドって俺のものではないんですよ。コントロールできないし、融通の効かなさ、思い通りにならないところが好きでもあって。で、ヤクモアの場合はGEZANをリスペクトしてくれると同時に、ちゃんと自分のストーリーがあった。それはすごく感じました」

 

気が合う奴も合わない奴もいる生産性のないコレクティブ

――新しい4人での最初の舞台は2021年の〈フジロック〉で、そこにはすでにMillion Wish Collectiveがいました。どういうアイデアからあの大所帯編成が?

「絶対に自分は復活のストーリーを描くだろうと思っていたんですけど、4人が3人になって、新しいベースが入って3がまた4になるときに、なんかすげぇ増えてたらおもしろいなと思って。だからカルロスが抜けるっていう、気持ちの置き所がわからない時期に、ほんとまどろみのなかで思いついたんでしょうね。そこから身近な友達に声かけて」

――みなさん普通の友達ですか?

「そうですね。ミュージシャンの友達も何人かいるんだけど、半分以上はそうじゃない身近な人たち。〈全感覚祭〉を一緒にやってたスタッフ、十三月で何かしら一緒にやってた奴とか。ポテンシャルが高いから誘ったとか、そういう人はひとりもいない。

よくあるコレクティブって、だいたい才能のある人とかテクニックのある人を集めて〈俺たち凄いよね〉って言ってることが多くて。そりゃ凄いわって思いますよ。言ってることは〈雨が降ったら寒いよね〉と同じなんだから。

俺が思うコレクティブとかチームって、もっと〈仲間なんだから仕方ない〉っていう感じでいる状態。生産性のない繋がり。友達って〈こいつといると何かおこぼれがあるから〉とか考えないですよね。理由なんてないけど気が合う奴がいて、合わない奴もいて。本来そうあるべきだと思うんですよね」

――彼らに楽器ではなく、声で参加してもらうことは重要でした?

「そうですね。コロナ禍でいちばん悪とされたのって、距離を取らずに人と集まること、あとは飛沫が飛ぶことだったし。でも声っていちばん人間にとって替えの効かない情報ですよね。服みたいに上から被せてデザインできない。

当時はコロナもまだ終わってないし、密は危ないってずっと言われてたけど、だからこそ数も多いし飛沫も飛ぶ、いちばん危ないことを逆張りでやりたくなったんですね。〈フジロック〉でそもそもステージ上が密、みたいな(笑)。豊かな光景でしたよ。ヤクモアも初めてだったけど、Million Wishのみんなも8割9割が初めてステージに立つ人ばっかりで。リハではガチガチに緊張してましたよ(笑)」

〈FUJI ROCK FESTIVAL ’21〉でのライブ動画