Nice To Meet Ya
それぞれがそれぞれのダイレクションで活躍を続けるなか、ソロでも破格の成功を収めているナイル・ホーラン。待望のセカンド・アルバムが描き出した空模様は、荒天と好天の鮮やかなコントラストに満ち溢れていて……
昨年のリアム・ペイン『LP1』、そして先日のルイ・トムリンソン『Walls』のリリースを以て、ようやく(脱退したゼインも含む)メンバー各人のソロ・アルバムが出揃ったことになるワン・ダイレクション。もちろんアルバムという単位にこだわらずともグループの活動休止直後から個々の継続的な活動はあったわけだが、それぞれの音楽的なヴィジョンや持ち味は現象化したセンセーションが一巡りしたこのタイミングでこそ、より明快に見えるようになってきたと思う。そんななか、昨年末に2作目『Fine Line』を発表したハリー・スタイルズに続き、こちらも〈2周目〉に突入していたナイル・ホーランがセカンド・アルバム『Heartbreak Weather』を届けてくれた。
休止前の1D内だけで比較すれば期待値が低いようにも思われた(ごめんなさい)ナイルだったが、トラッド風味の“This Town”で真っ先にソロ・デビューを果たし、ファースト・アルバムの『Flicker』(2017年)は故郷アイルランドだけでなく全米チャートでも首位を記録。骨太な“Slow Hands”などヒットも続き、70年代ロックやフォークの影響を投影して新たなナイル像を提示することに成功した。対する今回の『Heartbreak Weather』は、1Dのヒットに貢献してきたソングライターのジョン・ライアンをはじめ、ジュリアン・ブネッタやグレッグ・カースティンらの布陣は前作を踏襲しつつ、マイペースに幅を広げた充実作になっている。
幕開けをリズミックに飾る表題曲が描くのは弾むように明るい開放感。表題の意味は本人いわく〈別れの後に訪れるさまざまな感情〉とのことだが、ここで表現されているのはまさに晴れ間が差すような明朗なポップネスだ。続く“Black And White”の疾走感も眩しいばかりだが、楽曲ごとのアレンジは前作以上に多彩。カサビアンやアークティック・モンキーズらを意識したというダンサブルな先行ヒット“Nice To Meet Ya”があれば、フランツ・フェルディナンドを連想させなくもないダンス・ロック“Small Talk”があり、元カノのヘイリー・スタインフェルドに宛てたとされるアコースティックなスロウ“Put A Little Love On Me”もあって飽きさせない。爽やかなシンガロング系の“Cross Your Mind”やダンスホール風味もある“No Judgement”などシンプルな曲でもリズム・アプローチはしなやかで、ショーン・メンデスあたりに刺激を受けたようにも思える。とにかく全編が伸びやかで、楽しんで演っている主役の姿が浮かぶような快作だ。