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New Story Of My Life
シングル/アルバム共に英米1位という1Dですら果たせなかった偉業を達成。仲間とは別の道を選択し、甘く、挑発的に、そして時に苦味も忍ばせながら、年齢に見合った愛と性の歌物語を紡ぐゼイン。この変化を私たちはどう受け止めようか?
少年から大人の男へ
女の子が大人の女性アーティストに変身する際には、ディズニー出身のアイドルを思ってもらえばわかりやすいが、ちょっとやりすぎなくらい大胆に肌を露出し、セクシー系に脱皮するのが常套だ。では男子の場合は? 明快な答えはないが、今後、このゼインのやり口が先例となりそうだ。
付き合っていたカノジョ(=リトル・ミックスのペリー・エドワーズ)と別れ、ワン・ダイレクション時代には禁じられていた髭を伸ばし、髪を染め、ファースト・シングル“Pillowtalk”のなかで新しい恋人(=モデルのジジ・ハディッド)と濃厚に絡んでみせ……。セックスを匂わせつつ、スモーキーでアダルトな世界に導き入れる――そんなデンジャラスなニュー・アルバム『Mind Of Mine』が届けられた。シルキーなサウンドスケープの裏には、恋に溺れる様子を歌った“Fool For You”から、元カノをディスった“It's You”まで生々しい恋愛事情がたくし込まれている。グループ在籍時には叶わなかったプライヴェートな内容だ。
組み敷かれたレールの上を上手く歩けなかった彼には、かつてのジェイムズ・ディーンのような反逆精神と同時に、嘘をつけない不器用さや傷つきやすさが見え隠れ。それだけに人間味が感じられるのも事実。弱さをさらけ出すのも、男性アーティストの脱皮ポイントと言えそうだ。 *村上ひさし
今様のR&Bサウンドを纏って……
ボーイズ・グループのメンバーが独り立ちし、性愛や内省を打ち明けるリリックとトレンディーな音を纏って、〈本当にやりたかったこと〉を披露する――過去に何度か見たような光景ではあるが、ファースト・ソロ・アルバム『Mind Of Mine』でのゼインの振り切れ方は並じゃない。プロデューサーにフランク・オーシャン『Channel Orange』の共作者であるマレイらを迎え、今様のアンビエント・スタイルを基調としたR&Bサウンドで仕上げているのだ。
ただし、トラック主導ではなく、メインはもちろんゼインの歌。先行シングル“Pillowtalk”やケラーニとの官能的なデュエット“Wrong”で魅せる、ファルセットを駆使した雄々しい色香は実に濃密だし、クエストラヴがドラムを叩くバラード“Fool For You”での歌い込みは相当な熱さ。“It's You”ではスウィート&ソフトなハイトーンを綺麗に伸ばし、浮遊感のあるメロウ・ソウル“Truth”では力みのない地声で語りかけるように歌い、ウィークエンドを彷彿とさせる闇夜ムードなアップ“Tio”ではクールに振る舞うなど、ヴォーカリストとして秘めていた個性を曲ごとに解放していくかのような快作である。R&Bリスナーとして、このアルバムを大歓迎したい。 *池谷昌之