ジャズピアニストであり、メタラーとしても発信を続けている西山瞳さんによる連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。第104回は公開中のメタルドキュメンタリー映画2本について。スラッシュメタルとデスメタルという重要ジャンルに迫る両作を見た西山さんが、その感想とデスメタルの始祖的バンド・デスの音楽の衝撃について綴ります。 *Mikiki編集部

貴重な資料から当時の空気と興奮が伝わるスラッシュメタルのドキュメンタリー
9月25日に、2本のヘヴィメタルドキュメンタリー映画が公開されました。
「マーダー・イン・ザ・フロント・ロウ〜俺たちのベイエリア・スラッシュ物語〜」
「デス・バイ・メタル〜デス・メタルを作った男〜」
一足先に鑑賞させてもらいましたが、2本ともヘヴィメタル史において貴重な歴史的資料となるドキュメンタリー映画でした。
「マーダー・イン・ザ・フロント・ロウ〜俺たちのベイエリア・スラッシュ物語〜」には、コメントを寄稿させてもらいました。
この映画では、多数のベイエリア出身のプレイヤーのインタビューを集め、スラッシュメタル黎明期について話すのですが、そのインタビュー人数が想像を超えて多く、あの人も、この人もと、メタラーには馴染み深い超重要プレイヤーの貴重な証言が続きます。
イギリスのバンドの音源が入ってきて夢中になって聴いたことに始まり、どのレコードショップに集まったかとか、デモテープ文化のことなど、当時の空気と興奮がとても伝わってくる。
誰が誰に何を教えたのかとか、いつどこで知り合ったとか、その交流を本人たちが楽しく話しているだけで、メタルファンとしてとても嬉しくなりますし、また、当時の写真など貴重な資料のオンパレードでした。

映画の最初はメタリカの話を軸に進んでいくのですが、トラウマ(バンド)からクリフ・バートンがメタリカに入った時のことは皆とても熱気を帯びて話しており、よっぽど衝撃的で祝福された出会いだったのだろうなと思います。また、デイヴ・ムステインが去年のメガデス最後のアルバムでもメタリカに固執していたのも、この映画を見てさらに納得しました。かけがえのない時間だったんでしょうね。
エクソダス、スレイヤー、メガデスなど、バンド黎明期の熱気をその本人たちが伝えてくれるんですが、ベイエリアスラッシュがLAのヘアメタルに対して先鋭化し発展していったこと、その黎明期の躍動やパッションに触れることができて、とても興奮しました。
私は90年代にメタルを聴き始めた90年代メタラーですが、80年代スラッシュメタルは歴史を遡って勉強のように聴いたところがあり、80年代当時の熱狂は、知識として以外知りません。なので、80年代スラッシュメタルの聴き方に分厚い背景を与えてくれる、素晴らしいドキュメンタリー映画でした。

不世出の天才チャック・シュルディナー(デス)の真摯さ
「デス・バイ・メタル〜デス・メタルを作った男〜」は、デスメタル誕生における最重要人物、デス(バンド)のチャック・シュルディナーのドキュメンタリーです。
このチャック・シュルディナーは、ギタリストでありボーカリスト。アルバムによってはベースも弾いており、作曲も作詞もします。デスメタルというジャンルを作った象徴として存在しますが、端的に天才と言っていいでしょう。
私はデスに関しては元々『Human』ぐらいしか聴いておらず、知識として通り過ぎた程度でした。
その状態で観たのですが、デスのバンドの成り立ちからディスコグラフィを丁寧に追いかけていく内容で、元々好きなファンの方はもとより、あまり知らない私にとっても非常に興味深く、ヘヴィメタルというジャンルの成長の一端を生々しく教えてくれるものでした。多くのメタルファンは、メタル史を勉強するのもお好きだと思うので、これは絶対観た方がいいと思います。
デスに関わったミュージシャンや関係者のインタビューも豊富。時には赤裸々に当時のバンドの状態を振り返り、解雇やツアーのキャンセルなどうまくいかないことも色々あるのですが、その全てから、チャック・シュルディナーがいかに音楽に真摯に向き合い、音楽イメージを先鋭化させ、常に向上を目指して変化していったかがわかり、不世出の存在だったことが理解できます。

歴史を塗り変える気概に満ちたデスの全アルバムに寒気
映画1本の中で、デスのディスコグラフィを最初から終わりまで追いかけるので、これはディスコグラフィを順番に聴かねばと思い、1回目の鑑賞の後、まずは昔聴いていた『Human』を、その後スタジオアルバムを順に全部聴きました。

『Human』を聴くのはおそらく30年ぶり。
NHORHMプロジェクト開始の時にも、メロディが希薄なデスメタル系はピアノでの再現は無理だろうと思い、検討すらしなかったので、このあたりは全く聴き返していませんでした(スレイヤーの“South Of Heaven”が限界でした)。
ジャズピアニストとしてキャリアを積んで、メタルも沢山聴いた上で今聴く『Human』は、今年一番の衝撃だったと言っても過言ではありません。
凄い。演奏技術も、アイデアも、それを並べるセンス、それを上回る情熱も、あまりのミュージシャンとしての才能の爆発に寒気がしました。なんでこの凄さをわからなかったんだ、当時の私。遅いよ!!
ジャズでもメタルでも〈今、自分たちが歴史を塗り変えている〉という気概に満ち溢れていて、それが凄い緊張感をもって伝わってくるパフォーマンスのアルバムってあるじゃないですか。それが、驚くべきことにデスのディスコグラフィの中で『Human』だけじゃないんですよ。最初のアルバムから、全部それなんです。

デスが非常に面白いのは、1枚目『Scream Bloody Gore』はスラッシュメタルの延長線上で発展、過激化したデスメタルですが、その後、アルバム1枚ごとに異常に発展しているんですよ。前述の『Human』は4枚目のアルバムで、異常に発展しすぎて、デスメタルからエクストリームメタル、プログレメタルに足を踏み入れていきますが、通底するチャックの美学は変わりません。常にビジョンを進化させていき、具現化するために努力を惜しまず実行に移していくことのできる天才だったということが、よくわかります。

このように、映画が補助線となってデスに再会し、ディスコグラフィを追いかけることにより、素晴らしい体験ができました。もうディスコグラフィを最初から3周しました。まだもう少しデスマラソンを続けると思います(笑)。
元々デスが好きな方には、もっと素晴らしい体験になるはず。
この秋の2本の映画、ぜひ劇場で体感しましょう!
MOVIE INFORMATION
マーダー・イン・ザ・フロント・ロウ〜俺たちのベイエリア・スラッシュ物語〜

出演:デイヴ・ムステイン(メガデス)/カーク・ハメット(メタリカ)/ジェイムズ・ヘットフィールド(メタリカ)/ラーズ・ウルリッヒ(メタリカ)/ゲイリー・ホルト(エクソダス)/トム・アラヤ(スレイヤー)/チャーリー・べナンテ(アンスラックス)/アレックス・スコルニック(テスタメント)/ラリー・ラロンデ(ポゼスト)
監督・脚本・製作総指揮:アダム・デュビン
製作:ジャック・ギュリック/レイチェル・ベンルール・デュビン
脚本:ブライアン・ルー/ハラルド・オイモエン/ポール・ラックマン
2019年|アメリカ|92分|カラー|1.90:1|5.1ch
原題:MURDER IN THE FRONT ROW: THE SAN FRANCISCO BAY AREA THRASH METAL STORY
字幕翻訳:橋本裕充
配給:キングレコード
©2019 Bonded By Blood, LLC All Rights Reserved.
デス・バイ・メタル〜デス・メタルを作った男〜

出演:チャック・シュルディナー(アーカイブ映像)/スティーヴ・ディジョルジオ/ジーン・ホグラン/リック・ロズ/ジェーン・シュルディナー/ベサン・シュルディナー
監督・脚本:フェリペ・ベラルカサル
製作:エリック・グリーフ/フェリペ・ベラルカサル
2016年|カナダ|107分|カラー|フルHD|ステレオ
原題:DEATH BY METAL
字幕翻訳:堀上香
配給:キングレコード
©2016 Table14, Inc. All Rights Reserved.
2026年9月25日(金)シネマート新宿、池袋シネマ・ロサ、シネマリスほか2作同時公開!!
■西山 瞳
LIVE INFORMATION
HITOMI NISHIYAMA -20th Anniversary-
2026年10月2日(金)大阪・梅田 GALLON
出演:西山瞳(ピアノ)、鈴木孝紀(クラリネット)、光岡尚紀(ベース)
開場/開演:18:30/1st 19:30-20:20/2nd 20:50-21:40
ミュージックチャージ:1ステージのみ2,500円/通し3,800円(曲目は1st、2ndで全曲異なります)
ご予約:GALLONオフィシャルサイト:https://gallonjazz.com//TEL 06-6147-3785
おかやまジャズストリート
2026年10月3日(土)、4日(日)
出演:西山瞳(ピアノ)、橋爪亮督(テナーサックス)
1日券:1,500円
オフィシャルサイト:https://jazzokayama.com/
※会場、時間は〈おかやまジャズストリート〉のオフィシャルサイトをご覧ください
2026年10月10日(土)東京・成城学園前 Cafe Beulmans
開場/開演:12:30/13:00 ※2セット、入替なし
出演:鈴木大介(ギター)、西山瞳(ピアノ)
ミュージックチャージ:3,300円+2 drinks order
ご予約:メール info.cafebeulmans@gmail.com/TEL 03-3484-0047
オフィシャルサイト:https://cafebeulmans.com/
2026年10月17日(土)神奈川・横浜 馬車道 上町63
開演:15:00 ※2セット
出演:西山瞳(ピアノ)、西嶋徹(ベース)
ミュージックチャージ:3,300円 ※学割あり
ご予約:メール kanmachimusic@gmail.com/TEL 045-662-7322
オフィシャルサイト:http://jmsu.web.fc2.com/63/
2026年10月23日(金)東京・小岩 COCHI
開演:20:00 ※2セット
出演:西山瞳(ピアノ)、馬場孝喜(ギター)
ミュージックチャージ:3,000円
ご予約:COCHIオフィシャルサイト http://www.jazz-cochi.com//TEL 03-3671-1288
CD発売ライブ
2026年10月28日(水)神奈川・横浜 桜木町 Jazz Spot Dolphy
開演:19:30 ※2セット
出演:西山瞳トリオ 西山瞳(ピアノ)、西嶋徹(ベース)、則武諒(ドラムス)
前売り/当日:4,000円/4,500円
ご予約:Jazz Spot Dolphyオフィシャルサイト https://dolphy-jazzspot.com//TEL 045-261-4542
2026年10月31日(土)埼玉・蕨 Our Delight
開場/開演:18:30/19:00 ※2セット
出演:西山瞳(ピアノ)
ミュージックチャージ:3,500円
ご予約:Our Delightオフィシャルサイト https://ourdelight.blog.jp/
RELEASE INFORMATION
西山瞳率いるメタルカバープロジェクトNHORHMの1stと2ndアルバムがリマスタリング&紙ジャケ仕様にてリリース!!

リリース日:2024年12月4日(水)
品番:APLS1510R
価格:2,750円(税込)
TRACKLIST(曲名 / オリジナルアーティスト)
1. In the Dead of Night / U.K.
2. Walk / Pantera
3. Man On the Silver Mountain / Rainbow
4. Skin Oʼ My Teeth / Megadeth
5. Fear of the Dark / Iron Maden
6. Upper Levels / ANGRA
7. 悪夢の輪舞曲 / BABYMETAL
8. Demonʼs Eye / Deep Purple
9. The Halfway to Babylon / 西山瞳
10. Green-Tinted Sixties Mind / Mr. Big
■メンバー
西山瞳 piano
織原良次 fretless bass
橋本学 drums
■ゲストミュージシャン
小田朋美 vocal track 4
馬場孝喜 a. guitar track 5
市原ひかり trumpet track 8
橋爪亮督 sax track 10

リリース日:2024年12月4日(水)
品番:APLS1612R
価格:2,750円(税込)
TRACKLIST(曲名 / オリジナルアーティスト)
1. Kings Of Metal / Manowar
2. Speed / Loudness
3. All Over The Nations / Helloween
4. Decadence Dance / Extreme
5. Beyond The Realms Of Death / Judas Priest
6. Iron Man / Black Sabbath
7. Mystery Of Babylon / 西山瞳
8. Over The Hills And Far Away / Gary Moore
9. The Gift Of Music / Dream Theater
10. THE ONE -Live Version- / BABYMETAL (Bonus Track)
■メンバー
西山瞳 piano
織原良次 fretless bass
橋本学 drums
■ゲストミュージシャン
田中充 trumpet track 4
宮崎隆睦 a. sax track 4
橋爪亮督 t. sax track 4
池田雅明 trombone track 4
冠徹弥(from THE 冠)vocal track 4

リリース日:2026年9月9日(水)
品番:MT-16
価格:3,520円(税込)
TRACKLIST(全曲 西山瞳作編曲、8のみ梶純編曲)
1. Tidal タイダル
2. Black Water ブラック・ウォーター
3. Arrakis アラキス
4. Ebonies エボニーズ
5. Relief #1 レリーフ1
6. Layer レイヤー
7. Dot ドット
8. Bye Bye Blue Fish バイ・バイ・ブルー・フィッシュ
■メンバー
西山瞳 ピアノ、作曲 Hitomi Nishiyama piano,compose
西嶋徹 ベース Toru Nishijima bass
則武諒 ドラムス Ryo Noritake drums
鈴木孝紀 クラリネット Takanori Suzuki clarinet
橋爪亮督 テナー・サクソフォン、フルート Ryosuke Hashizume tenor saxophone, flute
maiko ヴァイオリン maiko violin
2025年11月15日 渋谷 公園通りクラシックスにてライブ録音
録音、ミックス、マスタリング:松下真也(Piccolo Audio Works)
ライナーノーツ:和田信一郎(s.h.i.)
PROFILE: 西山 瞳

1979年11月17日生まれ。6歳よりクラシックピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコース・ジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I’m Missing You』を発表。ヨーロッパジャズファンを中心に話題を呼び、5か月後には全国発売となる。2005年、〈横濱JAZZ PROMENADE ジャズ・コンペティション〉において自身のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をSpice of Life(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年に日本人リーダーとして初めて〈ストックホルム・ジャズ・フェスティバル〉に招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。以降、2作のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自身のバンドで録音したアルバム『Parallax』がスイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、〈インターナショナル・ソングライティング・コンペティション〉(アメリカ)で全世界約15,000のエントリーのなかから自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門の3位を受賞、コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表の『Music In You』はタワーレコードのジャズ総合チャートで1位、HMVの総合2位にランクイン、CDジャーナル誌の2011年ベストディスクに選出されるなど〈芸術作品として重厚な力作である〉と高い評価を得る。2014年に自身のレギュラートリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義の2作目『Shift』を発表。同作の好評を受け、アナログでもリリースする。2015年にヘヴィメタルの名曲をカバーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、ヤング・ギター誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズの両面から話題になり、すべての主要CDショップでランキング1位を獲得、ジャンルを超えたベストセラーとなっている。同作は『II』(2016年)、『III』(2019年)と3部作としてシリーズ化。2019年4月には『extra edition』(2019年)もリリース。自身のプロジェクトのほかに東かおる(ボーカル)とのボーカルプロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグバンドへの作品提供などで幅広く活動。〈横濱JAZZ PROMENADE〉をはじめ全国のジャズフェスティバルやイベント、ライブハウスなどで演奏。オリジナル曲は高い作曲能力による緻密な構成とポップさが共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。