『四畳半』から始まったハングリーでエモーショナルな闘いは、変化を繰り返して新たな局面へ。あくまでもリアルを綴るマイクは『1LDK』の中でいま何を思う?

初心を忘れたこともあった

 〈KING OF KINGS〉で2連覇を果たすなど数々の戦績を残してMCバトルから身を引き、近年は制作やライヴを中心とした活動に精力を傾けるGADORO。メジャー・リリースの前作『SUIGARA』から約1年、彼が新たなアルバムを完成させた。初作『四畳半』から数えて4枚目となる新作に付けられた『1LDK』というタイトルは、原点に戻りつつも進化したという自身の意志を示すものだとか。「正直、『SUIGARA』に納得できなかった部分があったんです」と、彼はその制作の始まりを語る。

 「別にメジャーだから歌詞を規制されるとかそういうことはなかったんですけど、サンプリングのトラックが使えなくて、(自分の)ヒップホップ感っていうのをちょっと忘れてた部分もあったし、ぶっちゃけ〈これを聴いたらお客さん喜ぶだろう〉とか考えながら周りに左右されて書いたこともあったんで、それが出来上がってライヴで歌う時になんか嫌やったんです。嘘ついてるじゃないけど痒かったんですよね。だからこそ、今回は全曲ライヴでできるものを作ろうって思いました」。

 前作を含むこれまでの反省は、具体的な曲の形にも及んだ。4分以上の曲になることを常に意識して書いてきたという彼なりのルールも今回は取っ払ったという。

 「ホントは3ヴァース、4ヴァースあるのにライヴでは絶対2ヴァースで終わるような曲がいつもあるんですけど、今回そういう曲は2ヴァースで終わらせて無理に延ばしてない。逆に“幸せ”なんかは6分近くあるけど、それも長さを意識してないぶん、自然に書けました」。

 GADOROにとってそれらの変化は、ひとえにありのままの自身をより解き放つために必要なことだった。そして、いまなお変わらぬ彼の意志は、アルバムの端々に覗くハングリーさに投影されている。

 「初心を忘れたくないけど、忘れたこともあったんですよ。だからこそ今回のアルバムの歌詞は全部が初心を忘れずに出来上がったし、聴きやすさも意識してるけど、その聴きやすさはお客さんを意識したっていうより俺が聴いてて心地いい聴きやすさで。“ハジマリ”にしても、〈GADOROも卒業ソングで狙いに来たか〉ってなると思うんすけど、あえて個人名も出すことであくまで俺のリアルを歌って、共感に重きを置いてないし、〈卒業ソングあるある〉にはしたくなかった。とにかく今回は、俺の正解が聴いてくれる人みんなの正解と勝手に思って、自分のやりたい音楽、意見を第一に考えました」。