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魔法のような瞬間の積み重ね

 『Wake Up, Sunshine』の制作は、ボルチモア在住のアレックス、LA在住のジャック・バラカット(ギター)、ハワイ在住のザック・メリック(ベース)、ナッシュヴィル在住のライアン・ドーソン(ドラムス)と現在はそれぞれ違う場所に暮らす4人が、ナッシュヴィルにあるライアンのスタジオ、及びLA郊外のパーム・デザートに借りた一軒家で膝を突き合わせ、曲を作るところから始まった。

 「ひとつ屋根の下で4人でレコードを作ったから、だいぶ時間もかかったんだけど、これが僕らにはもっとも大事な命題だったんだ。17年間ずっと同じバンドでい続けて、それぞれがアイデアを出し合ってきたんだから。僕らの音楽は、その魔法のような瞬間の積み重ねなんだよ」。

 そのように『Wake Up, Sunshine』の制作を振り返るアレックスの言葉から想像するに、ここ何作かでは全米各地にそれぞれが暮らしながらデータをやり取りするというやり方で曲を作っていたのかもしれないが、今回、彼が言う〈魔法のような瞬間の積み重ね〉は、ゴスペルっぽいアレックスの歌から一転、バンドの演奏がぐっと加速する1曲目の“Some Kind of Disaster”以下、ジャックのギターがガガガガ!と鳴るポップ・パンク/ポップ・ロック調の全15曲(+日本盤ボーナス・トラック)に結実。なかでも、リフを含め、重厚なサウンドもまた彼らの持ち味だということを改めて印象づける6曲目“Wake Up, Sunshine”までの前半の流れは、まさにポップ・パンク育ちの面目躍如。〈Hoo!!〉という掛け声がパーティー感を盛り上げる“Sleeping In”や、リフがニュー・ファウンド・グローリーのアノ曲っぽい(?)“Getaway Green”を聴いて、ATLはやっぱりこうでなきゃ!と快哉を叫ぶポップ・パンク・ファンはきっと多いはず。

 しかし、そこは前作で自分たちのサウンドの可能性を広げることに挑んだ4人だ。ジャンルを横断した活躍が注目を集めているブラックベアのラップをフィーチャーしたエモいポップ・ロック・ナンバー“Monster”以降の後半は、ギター・オリエンテッドなバンド・サウンドという一線は死守しながら、ポップ・パンクの一言には収まりきらない曲が並んでいる。メンフィスのポップ・ロック・バンド、バンド・カミーノと共演した“Favorite Place”や“Safe”は、そのサウンドの中にニューウェイヴの影響が感じられるし、“Clumsy”と“Basement Noise”はR&Bの要素もあるポップ・ナンバーだ。そして、ストレートなロック・サウンドが爽快な“Summer Daze(Seasons Pt.2)”は前作を作る際のもうひとつのテーマだった「アリーナや大型フェスでも映える曲」を改めて追求しているが、この曲を聴いていると、アメリカン・ロックという概念を更新するのはこのATLなんじゃないかという気もしてくる。とまれ、先述した前作のベクトルとは180度逆という見立ては訂正したほうが良さそうだ。

 〈原点回帰〉というのは、あくまでも作り方の話。『Wake Up, Sunshine』には前作の挑戦を踏まえたうえで、改めて自分たちのバックボーンであるポップ・パンクを鳴らしたATLの、さらなる挑戦がしっかりと落とし込まれている。ポップ・パンクに回帰したわけじゃない。現在のATLにしか奏でられないポップ・パンクを提示したことが重要だ。

 ジャックは、そんなニュー・アルバムについて、こんなふうにも言っている。

 「僕らは特別な何かを成し遂げられたと思っているよ。4人一緒に音楽に向き合って、ATLの代表作をまたひとつ作ることができたんだから」。