ALL TIME LOW
結成20年を迎えたポップ・パンク・ヒーローが熱気と生命力に溢れたニュー・アルバムを完成!

 ちょうどフォール・アウト・ボーイ(以下FOB)がフュエルド・バイ・ラーメン(以下FBR)からデビューしたのと同じ2003年、メリーランド州タウソンのハイスクールで集まった仲間たちがバンドを結成していた。当初ブリンク182のカヴァーをやっていた彼らはすぐに活動を本格化させ、翌年に初めてのEPをリリース。2006年にはジョン・ジャニックのショウケースで演奏するもFBRと契約には至らず、それでもホープレスと契約して作品を重ねるとグングン頭角を表し、FOBが休養に入った2009年には『Nothing Personal』で見事にブレイクを果たす。そして2017年には『Last Young Renegade』でFBR入り……そんなこんなで走り続けてきたオール・タイム・ロウ(以下ATL)は今年で20周年を迎えた。アレックス・ガスカース(ヴォーカル)、ジャック・バラカット(ギター)、ザック・メリック(ベース)、ライアン・ドーソン(ドラムス)というメンバーも20年前から不動だ。

 その『Last Young Renegade』はアンドリュー・ゴールドスタインら複数のプロデューサーを起用してメインストリームのポップ・サウンドに接近して成功を収めた野心的な作品だったものの、それに続くFBRでの2作目『Wake Up, Sunshine』は2020年4月というリリース・タイミングの不運に見舞われてしまった感が強い。生命線となるライヴやツアーも行えなくなった彼らではあったが、結成当時のエキサイティングな感情を蘇らせて曲作りに臨み、ザック・セルヴィーニをプロデュースに迎えたアルバムの完成度の高さはバンドのポテンシャルを改めて見せつけることになったはずだ。同作からはブラックベアを迎えた“Monsters”がヒットし、後にデミ・ロヴァートをフィーチャーしたヴァージョンも発表。2021年にはコロナ禍における心情をペイル・ウェイヴスと歌った“PMA”のほか、チート・コーズとの“Ghost Story”をリリース。さらに〈SUMMER SONIC〉で5年ぶりの来日を果たした2022年にはウィークエンド“Blinding Lights”のカヴァーをリリースし、アレックスはオーストラリアのマスクド・ウルフとのコラボ“Jenny I’m Sorry”も経験。そして、次なる作品のキックオフとなる“Sleepwalking”も秋に発表している。

 そして、このたび届いたのがATLにとって通算9作目となるニュー・アルバム『Tell Me I’m Alive』だ。今回も制作のブレーンに引き続きザック・セルヴィーニとアンドリュー・ゴールドスタインを迎え、アレックスと共同プロデュースを担当。先行シングルとなったタイトル・トラック(アレックスが初めてMV監督も務めている)のようなパンキッシュなパワー・ポップ・ナンバーを中心に、オルタナ風味やアリーナ・ロック的な規模感を備えたスケールの大きい楽曲が揃っている。ヴォコーダーをあしらった“The Way You Miss Me”など、アレンジにエレクトロニックなヒネリを効かせた楽曲も耳馴染みが良く、この屈託のないキャッチーなポップ志向も近年のATLらしい魅力のひとつだろう。

ALL TIME LOW 『Tell Me I’m Alive』 Fueled By Ramen/ワーナー(2023)

 セルヴィーニはマシン・ガン・ケリーやヤングブラッドらの楽曲にも携わる大物で、ゴールドスタインはブラックベアも手掛けている。つまりそうしたポップ・パンク・リヴァイヴァル勢のサウンドと通じる部分は当然ありつつも、ATLの楽曲には同時代のヒーローに接してきたリアルタイマーとしての感覚と、自分たちのセンスと力量で自分たちの道を切り拓いてきた誇りで輝いている。『Tell Me I’m Alive』と言われるまでもなく生命力に溢れた音楽がここにあるのだ。 *轟ひろみ

左から、オール・タイム・ロウの2017年作『Last Young Renegade』、同2020年作『Wake Up, Sunshine』(共にFueled By Ramen)、テディ・スウィムズの2022年のEP『Sleep Is Exhausting』(Warner)