
インスト・バンドが新作で挑んだ〈歌詞のある〉サウンド
――『Texas Sun』での歌と演奏が、『Mordechai』での〈歌詞のある〉新しいクルアンビンのサウンドに影響した部分はありますか? ローラさんが書き留めていたノートが作詞において重要だったそうですが、これまでのコーラス的な意味合いと違い、意味を持つ歌詞を歌うということをローラさんが意図していった経過や、マークさん、DJの反応を教えてください。
ローラ「私たちがやることすべてにはきちんとした意図があるから。慎重に考え抜かれた意思もね。だから今回言葉を音楽につけるのであれば、ちゃんとした意味があるものにしたかった。一度このアルバムで歌詞をつけると決めた楽曲に関しては、すごく時間をかけて自分たちが思った通りに表現されているか、そして個人としても、バンドとしてもそれに対して準備ができているかを確かめていった。
DJとマークはすごくサポーティヴ。私はすごくラッキー。このアルバムに関して言えば、私が歌詞を持って行ったら2人ともとてもオープンにそれを受け取ってくれて、その言葉に命を宿すことに対してすごくサポーティヴでいてくれた。
いままでクルアンビンとしてやってきたなかで、彼らのサポートと励ましがあったからミュージシャンとしてもアーティストとしてもすごく成長ができた。私たちはもはや家族。もし誰かが制作過程で何かやってみたいっていうアイデアを持ってきたら、他のメンバーはそれを試してみることに対してすごくオープンだし、それをサポートするために自分たちは何ができるかを考える」
――また、事前に発表された新作の説明文にはローラさんが〈「Mordechai」という父親が率いる見知らぬ家族と一緒にハイキングへ行き、悟りを得て生まれ変わった〉という、ちょっとミステリアスな表現も記されていました。アルバム・タイトルもその『Mordechai』なのですが、どうやってタイトルにまでなっていったのかを教えてください。
ローラ「このアルバムのタイトルを『Mordechai』にした、まず1つ目の理由は……美しい言葉だから(笑)。
あと〈Mordechai〉というのは私が優しさを必要としていたときにすごくよくしてくれた友達の名前。私からは何もお返しをすることができなかったのにもかかわらずね。〈それが正しいことだから他人に対して優しくする〉っていうのは、私たち全員が常にそうすべきである美しいことだと思う。彼の名前をタイトルにすることで、このアルバムをそのインスピレーションに捧げたかった」
『Mordechai』は最後までどんな方向性になるかわからなかった
――なるほど。あのハイキング云々は、そういうインスピレーションの源泉になった友人に捧げたという意味合いの一文だったんですね。ちなみに新作で最初に着手した曲はどれになりますか?
DJ「うーん……」
ローラ「全然覚えてない」
DJ「多分……“Shida”だった気がする」
ローラ「私もそうかなって思ってた! “Shida”だと思う」
DJ「アルバムでは最後の曲だけどね(笑)」
――制作はいつ頃から始めたんですか?
ローラ「去年の5月。制作を終えたのは今年の1月だったかな」
DJ「ツアーに出ていたから少し時間が空いてしまっているんだ。春に制作を始めて、そのあとかなり長期間ツアーに出て、ヒューストンに戻ってきてからまたスタジオで制作に取り掛かった」
ローラ「リオンとのEPもあったしね。ずっと作り続けていたわけではなくて何回かに分けて作った」
DJ「『Texas Sun』とこのアルバムのレコーディング・セッションをうまいこと分けて乗りこなしたと思う。それぞれ違ったワークフロウ、そしてレコーディング・プロセスだったし、みんなの作品への取り組み方も違ったんだ」
――アルバムを構成する上で重要なキーとなった曲はどれですか?
ローラ「“First Class”かな」
DJ「僕が選ぶとしてもそれだと思う」
――アルバムの1曲目ですね。
ローラ「この曲は、家に帰ったような気持ちにさせてくれる」
DJ「そうだね、ヒューストンに戻ったような気持ちになる。この曲は3つのパートから出来ているんだ。それぞれを違う人が作って、それを1つに合わせたら美しいものが出来上がった。お気に入りの一曲だね」
――着手した時点で、たとえば〈今回は歌詞を入れよう〉とか、アルバムの方向性はすでに見えていたのでしょうか?
ローラ「全然!」
DJ「全く見えていなかったよ!」
ローラ「作業のなかで見えていった。最後までどんな方向性になるかはわからなかった」
〈それが人生〉と歌うシングル“Time (You And I)”
――アルバムから第1弾シングルとして配信され、MVがリリースされた“Time (You And I)”についてお訊きします。ダンス・ミュージックとしても素晴らしいのですが、世界各国の言葉で繰り返されるリフレイン〈That’s life〉も、このコロナ禍の状況にシンクロするようで感動的でした。この曲が出来ていった過程を教えてください。
ローラ「曲自体は5月に作っていたんだけど、歌詞は曲が出来たずっとあとに出てきた。この曲には大切な人と一緒に過ごすような、とにかく楽しい雰囲気を残したかったから。
私のノートにたくさんの人と過ごした時間の思い出とか、その時間が終わってほしくないっていう気持ちやその思い出にすがるような感情が書き残されていてね。例えば家族旅行にいったときに、その旅行を終わらせたくないから家に帰ることについて話さずに最後の瞬間まで目いっぱい楽しむ、みたいなこと。
この歌詞は、いまのシンプルなかたちになるまでに時間をかけてたくさんの試行錯誤をしたの。なるべく普遍的に、そして楽しい感情を込めるためにね」
――クルアンビンはいつもMVがとても独創的ですが、今回の“Time (You And I)”も驚きました。あの街なかでの撮影はコロナウイルスによるロックダウン以前に行われたと想像するのですが、砂のお城や互いに傘をさし合うイメージが、世界が他人に対する優しさを失っていこうとしているいまの状況へのメッセージのようにも感じました。
ローラ「あれは、前のアルバムのとき“Evan Finds The Third Room”のビデオも監督してくれた友人、ジョシュ・キングのアイデア。彼はとても個性が強い人で、砂のお城のアイデアも彼が思いついたもの。彼にこの曲を聴いてもらったらすぐにこの曲に込められているセンチメントを理解してくれて、一瞬であのイメージを出してくれた。
撮影はロックダウン前にロンドンで行われたんだけど、本当にロックダウンされる寸前だった」