リミックスされた音源というのは、聴くのに少し勇気がいる時がある。特にオリジナルの音源が好きであればあるほど、ちょっと抵抗を感じちゃったり。でも、何となくリミックスを楽しめたほうが通っぽいし……とか余計なことを考えてしまったりもする。そんなリミックスものに抵抗を感じる方にこそ、クルアンビン最新作のリミックス盤『Mordechai Remixes』をぜひとも聴いてみてほしい。

KHRUANGBIN 『Mordechai Remixes』 Dead Oceans(2021)

 このアルバムでは腕利きのリミキサーたちが集結し、稀代のエキゾ・ファンク・バンド、クルアンビンという最上級の素材を巧みに調理している。例えば、“Time (You And I) (Put A Smile On DJ’s Face Mix)”の心地良い4つ打ちのビート、うねるように反復するベース、そしてそこにフェイザーのかかったギターのカッティングが入ってくる瞬間の気持ち良さったらない。まさに聴覚へのとびきりのごちそうといったところで、永遠に続いてほしい9分間だ。

 そもそも、ミニマルな演奏の反復が生むムーディーな陶酔感が魅力のバンドだから、ハウス・ミュージック的なアレンジとの相性の良さは保証されている。しかし、それだけに止まらず、例えばノレッジによる“Dearest Alfred(Myjoy)”のリミックスは陶酔というより泥酔するようなドラッギーな仕上がりで、はたまたクァンティックが手掛けた“Pelota (Cut A Rug Mix)”は面目躍如のラテン・ハウス……とアルバムを通じてバンドの多面性がより増幅されている。オリジナル同様、何度でも聴き返したくなる作品で、リミックス盤でもここまで隙のないものを用意するクルアンビンというバンドは、徹底してセンスが良い。だからこそ、リミックスはちょっと……というクルアンビン・ファンの皆さんもぜひ聴いてみてください!

DURAND JONES & THE INDICATIONS 『Private Space』 Dead Oceans(2021)

 そのクルアンビンと同じデッド・オーシャンズからリリースされるドラン・ジョーンズ&ジ・インディケーションズの新作『Private Space』は、レトロな風合いと絶妙なAOR的センスが抜群に〈今〉な夏向きのアルバムである。1曲目の“Love Will Work It Out”からボビー・コールドウェルとロイ・エアーズの美味しいところを合わせたような楽曲で、そこからディスコやハウス、オーセンティックなソウルなど、さまざまなヴァリエーションを展開しながらも、すべてが本物の音となっている。ご機嫌で滋味深い、最高にスウィートなソウル・ミュージックがぎっしりと詰まったアルバムなので、これも猛烈におすすめです!

 クルアンビンやドラン・ジョーンズ&ジ・インディケーションズ然り、これまた痛快なファンク・バンドであるヴルフペック然り、ここ数年は演奏技術の高さがそのまま音楽的な創造性や底抜けの楽しさに繋がっているバンドが数多く注目を浴びているが、こうした作品の充実度を見ると、それはとても健全なことだと思う。

 


【著者紹介】岸啓介
音楽系出版社で勤務したのちに、レーベル勤務などを経て、現在はライター/編集者としても活動中。座右の銘は〈I would prefer not to〉。