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起こっていることの記録

 そしてタイトル曲“2020”は、5曲の中で最後にレコーディングされた楽曲だという。予想だにしなかった禍々しい出来事に直面した思いと、日毎に変わる情勢・状況をなるべくリアルタイムで刻むために、時間の許す限り、最後まで細かく書き直して作ったそうだ。

 「生きてきて、こんなに毎日、未経験なことがどんどん起きることはなかった。いまの状況に対して、誰もが何かしらの影響を受けていると思うし、それをSNSで発信している人たちもいるけど、僕はこの2020年という年が大きな節目になると思ったので、楽曲として残しておきたいと思ったんです。曲でも言ってるけど、個人的にはこのあとすべてが元通りになると思ってないし、ここから日本は難しくなったり、苦しくなっていく部分が多くなるんじゃないかと予想もしている。そういう意味でも、後から振り返ったときに時代の大きな分岐点になると思ったので、そういう気持ちも歌ってみたかったんです」。

 7分を超える同曲のリリックには、自粛要請、緊急事態宣言、持続化給付金、観光地、パチンコ屋、オリンピック延期、志村けん――とコロナ禍を連想させる言葉やフレーズが直接的、あるいは婉曲的にちりばめられている。風刺の要素も、批判の姿勢も、嘆きの感情も入ってはいるが、メッセージソングというよりは、まずはこの春に経験したこと、起こったことの記録ソングという印象を受ける。

 「ルポライターっていう感覚で書いてたんだと思う。どの事象やどのトピックを取り上げるかというところに自分の思想は反映されてると思うけど、基本的に俺の考えを言うというよりは、起こっていることを記録しておきたいという気持ちが強かった」。

 〈記録〉ということもあってか、“2020”におけるO.N.Oのビートはゆったりとしていてシンプル。余計な装飾もなく、極めて感情的でもない。

 「それは言葉を聞かせたいから。自然とそういうビートをチョイスしたんだと思う。“IF”は作品の幕開けとして勢いが欲しかったけど、他の曲はあまりガツガツしてないというか。わりと淡々と、言いたいことをゆっくり言っていくっていう感じでレコーディングしたんです。というのも、自分が何者かっていうようなことに関しては、セルフ・ボースティングも含め、去年のアルバムの段階で出しちゃってるから。何せ去年出したのは30曲だからね(笑)。〈自分たちはこういう奴らだぜ〉っていうことは出し切ってるから、心情的にもすごく落ち着いていたんだと思います」。