とにかく〈今〉の動きに注目されている彼女のアルバムは〈みんなが待っていた〉─そう呼ぶに相応しいアルバムと言っていいだろう

今年の夏にリリースしたシングル『打上花火』(DAOKO × 米津玄師)が〈2017年を代表するこの曲〉レべルのヒットとなり、明らかに〈知る人ぞ知る〉から〈みんなが知っている〉アーティストへとステータスを高めたDAOKOが、2015年の『DAOKO』以来2年9か月ぶりとなるメジャーでのセカンド・アルバム『THANK YOU BLUE』を届けた。

 

15歳の頃、ニコニコ動画に投稿したラップ動画が話題となり、m-floのようなビッグネームを含め、さまざまなトラックメイカーとコラボレーションしながら2012~15年のあいだにインディーで3枚のアルバムをリリース。少女のオモテもウラもさらけ出した独創的なリリックと謎めいた存在感に注目が集まり……といったプロフィールをおさらいするまでもなく(そこももちろん重要ではあるが)、とにかく〈今〉の動きに注目されている彼女のアルバムは、みんなが待っていた─そう呼ぶに相応しいアルバムと言っていいだろう。

ヘッドフォンを耳に(何を聴いてるのかな?)、一糸まとわぬ姿でこちらを見つめるアートワーク(撮影は篠山紀信!)からしてセンセーショナルな『THANK YOU BLUE』。収められた楽曲は、全部で14曲。“打上花火”で幕を開け、岡村靖幸とコラボレーションしたシングル曲“ステップアップLOVE”がそれに続く。

このアルバムには、メジャー・ファースト・シングルとなった“ShibuyaK”“さみしいかみさま”をはじめ、セカンド“もしも僕らがGAMEの主役で” “ダイスキ with TeddyLoid” “BANG!”、配信限定だった“拝啓グッバイさようなら”などのシングル群が一挙収録され、もはやベスト・アルバムと呼んでもよさそうな様相。今年の春に20歳を迎えた彼女が、十代から現在まで、いわゆる〈青の時代〉への感謝と惜別をタイトルに込めたアルバムに仕上がっているわけだが、それら既発曲の隙間から強烈な個性を放つ新曲群が、やはり聴きどころだ。

でんぱ組.incへの提供でも知られる玉屋2060%(Wienners)との共作となった“Juicy”は、エキゾチックなメロディーラインを忍ばせたエレクトロ・ポップ・チューン。とことんパーティー・ムードでキャッチーなリリックがやみつきになりそうで、DAOKOのイキすぎないラヴリーなボーカルもチャームポイント。フロア対応のミニマル・メロウなサウンドが看板の3ピース・バンド、D.A.N.と組んだ“同じ夜”は、月明かりに照らされた森の中を彷徨っているようなファンタジアを空想させる、DAOKOのダークサイドを垣間見るようなナンバー。宙をたゆたうように力の抜けたボーカルがまた、曲の幻想性を高めている。

続く“GRY”は、THA BLUE HERBのO.N.Oによる特異な音像を映したヒップホップ・ナンバー。GRY=グレイということで、ポエトリーも含んだ憂いあるDAOKOのボーカルも味わい深いところ。夏に出版された初小説と同タイトルを冠した最終曲“ワンルーム・シーサイド・ステップ”は、脱力系3ピース・バンド、Tempalayと。ミッド・テンポでラフなビート、それとなくヒップホップのテイストを漂わせるナンバーで、(喩えが妥当かどうかはさておき)小沢健二とスチャダラパーの“今夜はブギーバック”を思わせる名曲感をそこはかとなく感じさせる一曲になっている。

初回限定盤に同梱されている〈チャームポイント〉と題された映像集も見どころ満載で、彼女のライヴ映像をクリエイトしてきた佐伯雄一郎監督によるミュージック・ビデオ7編を収録。表題曲“チャームポイント”のほか、“BOY”“ぼく”“Fog”などインディー時代の代表曲も、それぞれstarRo、STUTS、GOTH-TRADがリアレンジ。RHYMESTERのMummy-Dがプロデュースした“okay!”や、ステージでは披露されていた椎名林檎“歌舞伎町の女王”のダンサブルなカバーが収められているのもうれしい。

ここにきて、さらなる新しい面々とのコラボレーションを果たし、そのズバ抜けた柔軟性と対応力で、過激さと親しみやすさの両極をさりげなく露呈させた『THANK YOU BLUE』。年明けには台湾でのライヴも控えるなど、海の向こうでも人気を高めているDAOKOだが、今、彼女を取り巻く喧噪が一過性のものにはならなさそうな確信が、このアルバムを聴くことで得られるはず。今回のツアー・ファイナルは東京・Zepp Diver City(1月11日)。2018年の終わりまでには、もっともっと大きなステージに立ってるに違いない。