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(左上から時計回りに)デレ・ソシミ、エド“テンダーロニアス”コーソーン、シャバカ・ハッチングス、マイルズ・ジェイムズ

南アフリカ音楽とエレクトロを繋ぐ、UKジャズ・ミュージシャンによるアフロビート

本作は単純なフィーチャリングやコラボレーションを拒んだアルバムでもある。南アフリカのミュージシャンたちと共同で曲作りを行ったあと、そこから更に一歩踏み込んでいるのだ。コールドカットの2人は「(南アフリカの音楽と)自分たちの地元の音楽と混ぜてハイブリッド化する方法を考えて、それでロンドンのジャズ・ミュージシャンたちに声をかけた」と言う。

南アフリカの音楽とUKエレクトロを繋ぐため、UKのジャズ・ミュージシャンたちの指標となったのはアフロビートだ。それはアフロビートの創設者であるフェラ・クティ直系というよりも、モーゼズ・ボイドやエズラ・コレクティヴを筆頭に、現在UKジャズで深く探求されているクラブ・ミュージック化したものであり、強力なアジテーターがいなくても成立する≒ダンス・ミュージックとして強化されたアフロビートである。同時にそのアフロビートはジャズのプレイヤビリティーとビートの強さを共存させることが出来る。

UKのみならず、アフロビートの最高峰ドラマーであるレジェンドのトニー・アレン、フェラ・クティのエジプト80で音楽監督を務めた名キーボード奏者のデレ・ソシミ、USのアフロビート・バンドの代表格であるアンティバラスが本作に参加している。彼らの共通点は、アフロビートの追求者でありながら多ジャンルにまたがる活動を行っていることだ。特にジェフ・ミルズからデーモン・アルバーンまでをサポートしたトニー・アレンは、クラブ・ミュージックとしてのアフロビートの第一人者と言えるだろう。エレクトロな4つ打ちとアフロビートが共存する“Shepherd Song”は、まさにジャンルレスに活動してきたトニー・アレンだからこそ出来た演奏だ。

そこに現行シーンのフレッシュさとUKエレクトロの質感を与えているのが、UKの若手ジャズ・プレイヤーたちだ。特にエズラ・コレクティヴのキーボーディストでもあるジョー・アーモン・ジョーンズ、そして南ロンドンのレーベル〈22a〉を主宰するフルート奏者のエド“テンダーロニアス”コーソーンのプレイは、生演奏のゆらぎとUKエレクトロのソリッドさを繋いでいるのが見事。“Freedom Groove”の硬質なピアノや“Future Toyi Toyi”のシーケンシャルなフルートは彼らのセンスの賜物だろう。一方サクソフォニストのシャバカ・ハッチングスやギタリストのマイルズ・ジェイムズはアグレッシヴな演奏で、楽曲にダイナミクスを与えている。

『Keleketla!』収録曲“Future Toyi Toyi”

南アフリカのフォークロア的でミニマルなコード感とUKジャズを通過したアフロビートの混合、そこに更なるアクセント加えたのが南アフリカのハウス・ミュージック〈ゴム(Gqom)〉だろう。1曲目の“Future Toyi Toyi”にインスピレーションを与えたDJ Mabhekoはもちろん、本作に参加している唯一のベーシストであるガリー・ンゴヴェニ(Gally Ngoveni)も面白い。通常はジャズ/フュージョン的なメロディアスで手数の多いプレイヤーだが、本作では一貫して低域に寄ったドローンのような演奏で、ゴムの低音の質感を演奏に置き換えたようなプレイを行っている。

“Future Toyi Toy”のゴム・ヴァージョン。『Keleketla!』の日本盤にボーナス・トラックとして収録

 

コール=アルバムはレスポンス=リミックスで完成する?

本作は紛れもなくケレケトラ!というコミニティーによって作られた新たな音楽であり、南アフリカとUKのジャズ・シーンの実験性が詰まった作品である。異なるフィールドで活躍するミュージシャンが世界各地から多数参加することで、それぞれが自分の特徴を活かしながら普段とは一味違ったプレイに挑戦している。個性を残したまま新たな音楽として聴かせる実験性、それはブレイクビーツ/サンプリングでコールドカットが行ってきたことであり、本作が異色でありながらコールドカットのアルバムとはっきりわかる理由はここだろう。

しかしあえて苦言を呈するならば、その実験性をアフロビートとして解釈したことが正解だったかは若干の疑問がある。南アフリカの先鋭的なレーベル〈Mushroom Hour Half Hour〉のデュママ+ケショウ(Dumama + Kechou)のビートの実験性を考えると、南アフリカのメロディーの強度はよりエッジの強いリズムと合わせても良かったのではないか。

デュママ+ケショウの2020年作『Buffering Juju』収録曲“For Madala”

だが、そのような余白を作ることこそコールドカットらしさかとも思う。過去のコールドカットのアルバムはほぼすべてリミックス・ヴァージョンが出ており、リミックスも含めて完結するような独特の作品性を持っている。すでに公開されているリミックスを聴くと、『Keleketla!』で築いた南アフリカとUK、世界各地の音楽との繋がりを元に多様な解釈がされており、その解釈の可能性こそ、〈コール&レスポンス〉を意味する〈Keleketla〉の名がこのプロジェクトに付けられている理由かもしれない。