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1. Sufjan Stevens “America”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉は、奇妙な国アメリカについて考えざるをえない一曲。スフィアン・スティーヴンスの“America”です」

田中「なんと12分30秒もある長尺曲……」

天野「スフィアンといえば、アメリカン・ルーツ・ミュージックにチェンバー・ポップやIDM的なエレクトロニクスを取り入れながら、独自のポップを構築してきた音楽家です。ナショナルのブライス・デスナーや継父にあたるローウェル・ブラムス(Lowell Brams)とのコラボなど、活動は多岐にわたっています。現在のアメリカにおいて、もっとも重要な音楽家の一人だと言えるでしょうね」

田中「今回は曲名からして、ど直球できたなという印象を受けましたが、彼はもともとアメリカ50州それぞれについてのコンセプト・アルバムを制作するプロジェクトに取り組んでいましたよね?」

天野「そうそう。『Michigan』(2003年)『Illinois』(2005年)ですね。いずれも各州の歴史や文化、風土を掘り下げたうえで、それらを緻密なアレンジとソングライティングに織り込んだ素晴らしい作品群でした。それ以降のシリーズは続かず、残念ながら2009年に〈50州すべてのアルバムを作るというのは一種のジョークだったように思う〉と語っています」

田中「そうだったんですね。この“America”が発表されるとアナウンスされた際には、〈残りの48州を一気にまとめてきた(笑)〉といった冗談も聞かれましたが、実際聴いてみると、そんなジョークが消し飛ぶほどにヘヴィーでシリアスな曲……」

天野「凄みを感じますよね。イントロの緊迫感にあふれたビートと、ノイジーで不穏な電子音から、一気に引き込まれます。そして、〈あなたがアメリカにしたことを どうか僕にはしないでくれ〉というリフレインが、あまりにも強烈です。侵略や植民、戦争、奴隷制と差別、といった血塗られた過去を持つ米国史に思いを馳せずにはいられません。また、ユダや鳩など、歌詞の随所にユダヤ/キリスト教的なモチーフが登場しています」

田中「アメリカ社会の混迷に直面したいま、感じざるをえない信仰の危機を歌った曲のように思えますが、実際は『Carrie & Lowell』(2015年)を制作したときにデモを作っていたものなんだとか。スフィアンは、〈久しぶりに聴いてみたら、この曲の持つ怒りや嫌悪を無視できなかった〉と語っています。カタストロフを表現しているかのような、後半のオーケストレーションも圧巻です」

天野「さらに、Bサイドの“My Rajneesh”という新曲も公開されています。バグワン・シュリ・ラジニーシの名前を掲げたこの曲を聴いて、タナソウこと田中宗一郎さんがえらく興奮していましたが……。なお、“America”を収録した新作『The Ascension』は9月25日(金)にリリースされます。今年の下半期における必聴作でしょうね!」