ラン・ザ・ジュエルズで活躍するアトランタのラップ巧者が11年ぶりのソロ・アルバムをついに完成! コンシャスで豪快な主役の魅力をいまこそ味わおう!

 ラン・ザ・ジュエルズ(以下RTJ)の……という形容も当然のようになったキラー・マイクが、実に11年ぶりのソロ・アルバム『MICHAEL』を完成した。そもそも前作にあたる2012年の『R.A.P. Music』はRTJでの相棒となるエル・Pがフル・プロデュースを手掛けた出会いの一枚でもあり、翌年の初作『Run The Jewels』からこのデュオは4枚のアルバムをコンスタントに発表してきている。その過程でキラー・マイクのステイタスも向上し、近年はラッパーとしての活躍のみならず、米ビルボードが選出する〈チェンジメーカー賞〉を受賞したり、TVのトークショウにレギュラー出演するなど、文化人としても影響を拡大してきた。最近では、〈Protect Black Art - Rap Lyrics Are Not A Crime(ブラック・アートを守れ、ラップの歌詞は犯罪ではない)〉キャンペーンを行い、カリフォルニアとNYでラップの歌詞を刑事裁判の証拠として使うことを禁止する州法の制定を成功させて話題となっている。

 そんな好況あってこそのソロ作品というわけだが、彼はもともと同郷アトランタのアウトキャストのアンドレ3000とビッグ・ボーイにフックアップされ、彼らを含むダンジョン・ファミリーの一員として00年代初頭から活動してきた実力派のヴェテランでもある。アウトキャスト主宰のアケミナイから登場した2003年の初アルバム『Monster』は華々しく全米10位を記録。そこからのシングル“A.D.I.D.A.S.”もサウス勢が賑やかな時流に乗ってヒットした。その後はビッグ・ボーイ主宰のパープル・リボンに移りつつ自主レーベルから作品を重ね、UGKの影響も色濃いアーシーなヴァイブとアイス・キューブばりのハードコアな語り口を融合した現在のスタイルを確立。T.I.主宰のグランド・ハッスルと絡んだ4作目『PL3DGE』(2011年)もダンジョン仲間と独自人脈を重ねた力作だっただけに、当時のリスナーはRTJがここまでパーマネントな存在になるとは想像していなかったのではないだろうか。

KILLER MIKE 『MICHAEL』 Loma Vista(2023)

 ともかく、偶然にも初作から20年/RTJ結成から10年という区切りで届いた今回の新作『MICHAEL』は、本名を冠した表題やジャケからわかるように、よりパーソナルな部分を内包した力作になっている。ダンジョン・ファミリーの総帥リコ・ウェイド(オーガナイズド・ノイズ)が声を入れた冒頭曲“Down By Law”ではダンジョン仲間のシーロー・グリーンが歌い、アンドレ3000がプロデュースした“Scientists & Engineers”(ジェイムズ・ブレイクらも共同制作)があり、一方では盟友エル・P制作の“Don’t Let The Devil”もある。他にもメンフィスの大御所DJポール、前も組んでいたクール&ドレーらが並ぶなか、今作のメイン制作を務めたのは3~4作目で手合わせして“Ready Set Go”を制作していた大物のノーIDだ。コモンやジェネイ・アイコらを手掛ける彼は、主役が亡き母について綴る“Motherless”をはじめ、ソウルフルでチャーチな側面をサポート。また、アルバム全編の雰囲気を束ねるのが多くの曲でオルガンを弾くウォーリン・キャンベルで、さらに要所でダンジョン軍のカットマスター・スウィフがスクラッチを入れるのもポイントだろう。

 他にもジャギド・エッジやD4Lのファボ、2チェインズ、ヤング・サグなど新旧アトランタ・シーンの大物たちと絡むなど、書ききれないトピックに溢れた一枚。そこに太い芯を通すのが主役の濃厚なマイク捌きなのは言うまでもない。もはや流行とは無縁の境地で力強く響く語り口に、ソロ活動の継続はもちろん、RTJの今後にもまた期待を寄せたくなってきた。

関連盤を紹介。
左から、ラン・ザ・ジュエルズの2020年作『Run The Jewels 4』(BMG)、マイクが客演したダニー・ブラウンの2019年作『uknowhatimsayin?』(Warp)、DJシャドウの2019年作『Our Pathetic Age』(Mass Appeal)

『MICHAEL』参加メンツの関連盤。
左から、モジーの2021年作『Untreated Trauma』(Mozzy/Empire)、ブラックの2023年作『Since I Have A Lover』(Interscope)、ジャギド・エッジのベスト盤『The Hits』(Columbia)、2チェインズの2022年作『Dope Don’t Sell Itself』(Gamebread/Def Jam)、ブラストの2022年作『Before You Go』(Red Bull)、カレンシーの2022年作『The Drive in Theatre Part 2』(Jet Life)

 

『MICHAEL』に参加した面々の作品とマイケルの参加した作品を一部紹介!

KILLER MIKE 『R.A.P. Music』 Williams Street(2012)

『MICHAEL』の前作にあたる通算5枚目のソロ・アルバム。師匠格のバンBとT.I.らを迎えた“Big Beast”など泥臭いマナーは全開ながら、全編の野太いビートを手掛けたのはエル・P。これがラン・ザ・ジュエルズの前哨戦となった。

 

OUTKAST 『Big Boi & Dre Present... Outkast』 LaFace/Arista(2001)

前年の“Snappin’ & Trappin’”でアウトキャストにフックアップされたマイクは、当時のベスト盤となる本作からのヒット・シングル“The Whole World”にて大きくフィーチャーされて脚光を浴びた。以降のアウトキャスト作品にも欠かさず参加。

 

BIG BOI 『Boomiverse』 Epic(2017)

天才肌でいろいろやるアンドレ3000に対し、無骨なラップ作品を主軸にしてきたビッグ・ボーイ。こちらのソロ作はリコ・ウェイドを総監督に迎えたもので、ダンジョン・ファミリーの面々が大挙参加している。マイクも“Kill Jill”など3曲に登場。

 

CEELO GREEN 『Ceelo Green Is Thomas Callaway』 Easy Eye Sound/BMG(2020)

ナールズ・バークレーで名を売った点もマイクに通じるが、ダンジョン仲間の先輩シーローが、こちらも本名を冠して発表した現時点での最新アルバム。ダン・オーバックのプロデュースならではのサザン~カントリー・ソウル集に仕上がっている。

 

DANGER MOUSE, BLACK THOUGHT 『Cheat Codes』 BMG(2022)

そのナールズ・バークレーでも活躍した危険鼠とザ・ルーツのMCがタッグを組んだ名品。マイクはラン・ザ・ジュエルズとして“Strangers”に客演するが、近年では稀に見るストロングなラップ・アルバムという点で『MICHAEL』にも通じるはず。

 

FREDDIE GIBBS & MADLIB 『Bandana』 Keep Cool/RCA(2019)

LAを拠点とするタフな人気ラッパーとマッドなビート神のタッグ作品。マイクは“Palmolive”に出演して硬派にマイクを交わしている。ここでの客演も含め、ウエストサイド・ガンやダニー・ブラウンらラップ巧者たちからコラボ依頼が多いのも特徴か。

 

FUTURE 『I NEVER LIKED YOU』 Freebandz/Epic(2022)

現在のスタイルからは想像しにくいが、総帥リコ・ウェイドの従弟という縁もあってダンジョン・ファミリーの末弟的なポジションから身を立てた現行アトランタの雄。アンドレ3000を交えた“Scientists & Engineers”は意外にもマイクと初の手合わせ?

 

ROBERT GLASPER 『Black Radio III』 Blue Note(2022)

グラスパーが多くのシンガー/ラッパーを迎えたシリーズの第3弾。コンシャスな側面がより強く打ち出されるタイミングでのリリースとあって、人種差別への抗議や社会活動を展開してきたマイクも“Black Superhero”にて気を吐いている。

 

DJ PREMIER 『Hip Hop 50: Vol. 1』 Mass Appeal(2022)

翌2023年のヒップホップ誕生50年を祝うEP。巨匠のタイトなビートにジョーイ・バッドアス、リル・ウェイン&スリック・リック、レミー・マー&ラプソディ、ナズがそれぞれマイクを握るなか、ラン・ザ・ジュエルズが“Terrible 2’s”を好演。