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美しくもイビツ、強烈なインパクトを放つモリコーネの音楽

モリコーネの音楽は、美しく叙情的でありながら、どこか奇妙でイビツな要素が内包されているのが特徴である。例えば「夕陽のギャングたち」(71年)の“Giù La Testa”。めまぐるしく展開していくリズムや、突然出てくる男声スキャットおよび女声コーラスの響き、短調と長調を行き来する和声の上を、クラリネットやオーボエ、口笛などで次々と引き継がれていく主旋律は、一聴すると掴みどころがないが、強烈なインパクトを放っている。

71年の映画「夕陽のギャングたち」の“Giù La Testa(夕陽のギャングたち)”

また、例えばハープシコードとヴァイオリンなど、全く違う楽器をユニゾンさせることで生み出される独特な響きも特徴で、こうした〈シンセサイザー的な発想〉は、のちにハイ・ラマズのショーン・オヘイガンが〈多大なる影響を受けた〉と認めている。「夕陽のガンマン」では馬の鳴き声や銃声、口琴(ビヨン、ビヨンと口で鳴らす楽器)などを取り入れているが、こうした実験的ともいえるアプローチは、彼が60〜70年代に所属していた前衛即興音楽集団〈Gruppo Di Improvvisazione Nuova Consonanza〉の中で培ったものなのかもしれない。

65年の映画「夕陽のガンマン」の“Per Qualche Dollaro In Più(夕陽のガンマン)”

 

映画音楽を越えてポップ・ミュージックに計り知れない影響を与えた

名作のサントラ以外にも、モリコーネの隠れた名曲はたくさんある。例えば、ジュゼッペ・パトローニ・グリッフィ監督作「ある夕食のテーブル」(69年)のサントラは、ラウンジ〜モンド系の最高峰と呼ばれ今も人気を誇る。また、イェジー・カヴァレロヴィチ監督による「Maddalena」(71年)のサントラは、映画よりも有名となりモリコーネ本人もお気に入り。その中の“Chi Mai”は81年にイギリスのドラマ「The Life And Times Of David Lloyd George」で使用され、リヴァイヴァル・ヒットもしている。イタリアでは知らない人はいない、人気俳優で監督のカルロ・ヴェルドーネによるコメディー映画「Bianco, Rosso E Verdone」(81年)のサントラも、モーグ・シンセサイザーなどを導入したキッチュな楽曲など名曲揃いだ。

69年の映画「ある夕食のテーブル」の“Metti Una Sera A Cena(ある夕食のテーブル)”

71年の映画「Maddalena」の“Chi Mai”

81年の映画「Bianco Rosso E Verdone」の“Tema D’Amore, Pt. 1”

このあたりの作風は、上に挙げたショーン・オヘイガンはもちろん、ステレオラブやベック、ポーティスヘッド、ジョルジオ・モロダーらに多大な影響を与えているのは明らか。ちなみに元ニュー・オーダーのピーター・フックは、名曲“Blue Monday”のベースラインを「夕陽のガンマン」の楽曲から拝借したことをインタビューで明かしている。

71年の映画「夕陽のガンマン」の“For A Few Dollars More: Chapel Shootout”

週替わりのプレイリストを配信しているラフ・トレードが7月6日、モリコーネを偲んで彼の代表曲と、その影響下にある楽曲をセレクトしていた。そこにはサイモン&ガーファンクルの“Mrs. Robinson”やピーター・ガブリエルの“Birdy’s Flight”、カーティス・メイフィールドの“Freddie’s Dead”なども並んでおり、なかなか興味深いものがあった。

映画音楽界のみならず、ポップ・ミュージック・シーンにも計り知れない影響を与えたモリコーネに、改めて哀悼の意を表したい。

エンニオ・モリコーネの楽曲と、彼の音楽から影響を受けた楽曲のプレイリスト。選曲は黒田隆憲