世界を感動と涙で包み込んだ珠玉の名作、それは音楽ありきなのである!

 1989年、パリ滞在中にあちこちでトトとアルフレードが自転車に乗ったポスターを見掛けた。なぜか映画は見過ごした。それが良かったといまはおもう。何年か経って完全オリジナル版を、そのあとであらためて劇場公開版をみて、これは……とおもわずにいられなかったから。

ジュゼッペ・トルナトーレ, フィリップ・ノワレ 『ニュー・シネマ・パラダイス』 TCエンタテインメント(2022)

 今回のBLDはHDデジタル・レストア。映像が美しいのは予想どおりだが、今回は音が違う。オノセイゲンがサウンドを修正。そんなに強調すべきことか、と言うなかれ。劇場公開版=インターナショナル版で耳にはいってきたエンニオ・モリコーネの音楽、メロディはいい、いいのだが、もごもごしている印象が拭いきれなかった。たとえば、ポスターになっている“トトとアルフレード”のテーマ。あそこでひびく低音の弦、短い、アクセント、でもやわらかい音色。それがはっきりと分離して、わかる。何度かあらわるテーマの、そのたびごとのオーケストレーションも。モリコーネじしんが指揮するコンサートでオーケストラはかなりの規模だが、たぶん、サウンドトラックのためには小編成でとっていたんだろうというのもわかる。

 「まずはじめに音色がある。その後に音程が来るが、音色はもっとも根本的なもの」と、近々刊行の「あの音を求めて──モリコーネ、音楽・映画・人生を語る」(フィルムアート社)にある。音色については何度も強調されるのだが、この本を読んでからだと、映画のみかた・ききかたが変わる。

 恋人エレナと切り離せない“愛のテーマ”が、べつのところであらわれるとき、いくつかの音を抜き、そっくりだけど違うテーマとして再現されるのも、完全オリジナル版でこそ。比較ができるのも2枚組BLDなんだと(はじめて!)気づく。

 音楽だけではない。どれほどあの映画に金属的な音(ウィンドチャイム、教会や学校、駅の鐘や鈴、羊たちのベル)があるか、何かを連打する(打擲や鋤、兵隊の行進)とか雷がなるのが意味を持っているのか、そうしたこともサウンドのリマスターによってこそ、と気づける。きっと。