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堂本剛の〈ファンク〉の進化と変化(2015~2016年)
『TU』『Grateful Rebirth』

2015年に発表されたアルバム『TU』の音楽については、リリース当時のbounceの記事が特に詳しい。

『TU』は、堂本という音楽家にとって重要なターニング・ポイントだと言えるだろう。というのも、土臭くてどこかルーズだった南部志向の前作から一転、現在のENDRECHERIに直接繋がるタイトな〈ファンク〉、しかも〈ハイブリッドなファンク〉への志向が、アルバムを貫いているからだ。

ナンセンスなユーモアや言葉遊びによるミニマルな日本語をファンク・ビートに乗せてパーカッシヴに歌う堂本のヴォーカル・スタイルも、この頃からはっきりと打ち出されるようになってきた。これは〈TU(トゥ)〉という意味のない言葉をタイトルに掲げているあたりにも顕著だ。

1曲目の“Tu FUNK”は、そういったことを全面的に開陳した楽しい快曲。パーラメント風のヘヴィーなファンク・ビートが執拗に反復され、その上をソウルフルなスキャットやヴォコーダーのコーラスが飛び交い、さらにはオリエンタルなメロディーがすっと飛び込んでくる。堂本にしか作りえない音楽、という感じだ。

堂本剛の2015年作『TU』収録曲“Tu FUNK”

“恋にも愛にも染まるような赤”“心眼 接吻”“まだ 見ぬ 最愛”などからは、まだロック色も感じる。しかし、いずれもファンクにロックが注入されている印象で、バンド・アンサンブルの骨や核の部分が〈ファンク〉になっている。

そんななかで本作の主眼にして真骨頂は、R&Bの“Funky舌鼓”や、まるでブルーノ・マーズな80sブギー風の“EENEN”“魂サイダー”などだろう。

堂本剛の2015年作『TU』収録曲“Funky舌鼓”

堂本剛の2015年作『TU』収録曲“EENEN”

一方で、60年代のリズム・アンド・ブルースやポップを思わせるゴージャスな“Heart Disc”のアレンジは、前作からの連続性とさらなる洗練を感じておもしろい。

堂本剛の2015年作『TU』収録曲“Heart Disc”

堂本剛 『Grateful Rebirth』 SHAMANIPPON(2016)

さて。ようやく最後の作品にたどり着いた。ミニ・アルバム『Grateful Rebirth』(2016年)は、ENDRECHERIの『NARALIEN』でリメイクされた“Believe in intuition・・・”で幕を開ける。過剰なサウンド・エディットによって、エレクトロニックでスペ―シーな独特のファンクネスを練り上げている。

堂本剛の2016年作『Grateful Rebirth』収録曲“Believe in intuition・・・”

“T & U”は打って変わってオーセンティックかつタイトで、ハイテンションなファンク。しかし、タブラやシタールが鳴っており、一筋縄ではないかない。

“Paint it, fill it with love”は一聴するとスライ&ザ・ファミリー・ストーンっぽいものの、センターと右チャンネルで鳴っているギターがアフロビートのニュアンスを帯びており、不思議なグルーヴを生み出している。

堂本剛の2016年作『Grateful Rebirth』収録曲“Paint it, fill it with love”

バラードの“ある世界”は水の音のサンプルが鳴っているユニークな曲で、スライ・ストーン~シュギー・オーティス風のリズム・ボックスがとてもパーソナルな響きを持つ。〈本当の自由は心の中にある〉と、インナー・スペースを重視する堂本らしい歌詞とサウンドが絶妙にマッチしている。

堂本剛の2016年作『Grateful Rebirth』収録曲“ある世界”

 

以上、デジタル配信が解禁された堂本の作品を、かなり駆け足で振り返ってみた。こんなにも分厚いディスコグラフィーを持つ堂本剛という音楽家とその作品に迫るには、このようなテキストでは不十分だろう。

今回2009~2016年の、ENDRECHERI以前の堂本のキャリアを見通してみて驚いたのは、まったくブランクがないことだった。しかも、ハイペースな活動のなかで残してきた作品は、いずれも濃密で濃厚。他の音楽家では、こうはいかないだろう。

そのうえ堂本はKinKi Kidsでの活動なども並行してやっているわけで、そう考えると、彼のミュージシャンとしての体力は超人的。これほどまでに創作意欲にあふれたハード・ワーキンな音楽家が、他にいるだろうか。並みのミュージシャンではないことはたしかだ。

現在ENDRECHERIに注力している堂本にとって、美 我 空やSHAMANIPPONといったプロジェクトは過去のものかもしれない。しかし、ENDRECHERIがどこかで〈ENDLICHERI☆ENDLICHERI〉(2005~2008年)に繋がっているように、これらのプロジェクトが〈Rebirth〉する可能性も残されている、かもしれない。だからこそ、レガシーであるこれらの作品がこうして全世界に向けて開かれたのではないだろうか。

堂本剛というアーティストのことを深く知り、そのキャリアを俯瞰できるように、ENDLICHERI☆ENDLICHERIとして発表した楽曲やそれ以前のソロ作品の配信も解禁されることを願うばかりだ。