©2019 Polygram Entertainment, LLC. All Right

人としての魅力、圧倒的な歌唱力、スターとしての存在感満載のドキュメンタリー映画

 1990年代の三大テノールは、まさにロックスター並みの人気ぶりだった。オペラ歌手が野外、特に日本では国立競技場でコンサートをやるなんてと批判もされたが、高額チケットはソールドアウト。オペラのアリアを身近な存在にしてくれた彼らの中心にいたのが、ルチアーノ・パヴァロッティだった。

 没後13年のタイミングで公開されるドキュメンタリー映画は、雨でびしょ濡れになったダイアナ妃と楽屋で挨拶する映像や、前妻と3人の娘をはじめとする貴重な証言を交えつつ、なぜパヴァロッティの歌は人々を感動させたのか。また、なぜこれほどまでに愛されたのかを紐解いていく。

 晩年に慈善活動に力を入れた彼が熱心に取り組んだひとつが「パヴァロッティ&フレンズ」だった。彼とポピュラーミュージックのアーティストが共演する異色の企画は、世界中の注目を集めることに成功した。私は98年に彼の地元モデナで、このチャリティ・コンサートを観た。War ChildというNGOと組み、この年はリベリアの子供達を救済するのが目的だったが、同時にあまり報道されないアフリカの小国の現状を広く知らしめることにもなった。

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 この活動に尽力した理由はどこにあったのか。それを含めて葬送までを描いたこの映画で感じたのは、“誰も寝てはならぬ”をはじめとする感動的な歌の背景にある、彼の人生があまり知られていないということ。ボノとの交流もそうだ。当初は少々パヴァロッティが強引だったことにも笑えるけれど、終盤に登場するボノの深い言葉。ちょうどMETに出演した際の観客が口にした、全盛期の歌とは違うという感想に反応した言葉で、その後に流れる“星は光りぬ”がより感動的に響く。

 このあたりの演出は、さすがヒューマン・ドラマを得意としてきたロン・ハワード監督である。今の時期の事情から私は自宅で鑑賞したが、劇場では最高の音響システムにより、まるでコンサートで聴いているような音が厚く、臨場感ある歌と演奏が体験できるという。

 


CINEMA INFORMATION

映画『パヴァロッティ 太陽のテノール』
監督:ロン・ハワード
録音:クリストファー・ジェンキンズ
出演:プラシド・ドミンゴ/ホセ・カレーラス/アンジェラ・ゲオルギュー/ズービン・メータ
配給:ギャガ(2019年 イギリス・アメリカ 115分)
◎2020年9月4日(金)ロードショー
gaga.ne.jp/pavarotti/