天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。今週は、まず訃報をお伝えしなければいけません。〈マーベル・シネマティック・ユニバース〉のブラックパンサー役として知られる俳優のチャドウィック・ボーズマンが、8月28日に急逝しました。死因は大腸がん。約4年間にわたって闘病生活を続けながら俳優業を行っていたそうです」
田中亮太「まだ43歳という若さもあり、ショックと悲しみが消えません。ブラックパンサーはもちろん、アフリカ系アメリカ人初のメジャー・リーガーであるジャッキー・ロビンソンを演じた伝記映画『42 〜世界を変えた男〜』(2013年)での演技もとても印象深かったですよね」
天野「音楽の文脈では、やっぱり『ジェームス・ブラウン 最高の魂を持つ男』(2014年)の主演でしょう。スパイク・リー監督の新作『ザ・ファイブ・ブラッズ』(2020年)も忘れがたいです。レスト・イン・パワー。本当にショックで、しばらく立ち直れそうにありませんが……。気持ちを切り替えて、華やかな話題も紹介します。〈VMAs〉こと〈MTV Video Music Awards〉が開催され、ウィークエンドの“Blinding Lights”が〈Video Of The Year〉を受賞。BTSやレディー・ガガも多数受賞しましたね」
田中「〈VMAs〉、テレワーク中にながら見をしていたのですが、ブラック・ライヴズ・マター(Black Lives Matter)運動への賛同メッセージを込めたダベイビーのパフォーマンスが圧巻でした。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から」
1. Bring Me The Horizon with YUNGBLUD “Obey”
Song Of The Week
天野「〈SOTW〉は、ブリング・ミー・ザ・ホライズンとヤングブラッドとの初コラボレーション・ソング“Obey”です!」
田中「BMTHとしては、6月の“Prasite Eve”以来の新曲ですね。今年は〈Post Human〉というプロジェクトで4作のEPを連続でリリースしていくとのことですから、そこからのシングルだと考えてよさそう。今回コラボしたヤングブラッドは、意外にも〈PSN〉初登場です。英ドンカスター生まれのシンガー・ソングライターで、ラップ・ミュージックがポップ化した時代のロックを志向している若き才能、と言っていいでしょうね。そういえば、YOSHIさんがインタビューでフェイヴァリットに挙げていました」
天野「納得のチョイス! ヤングブラッドってすっごくイマっぽいアーティストで、カリスマ的な人気があるわけですけど、ゴスなセンスやポップ・パンクっぽい音楽は、なんだか懐かしい感じがするんですよね(笑)。90年代末~2000年代初頭のあの感じっていうか。そんなヤングブラッドにとって、一回り上の世代のBMTHとのコラボは念願のものだったようです」
田中「この“Obey”は、ヘヴィーなシンセサイザーのシーケンスとギター・リフから始まって、アッパーなコーラスへと駆け上がっていくような楽曲展開が、まさにBMTHなサウンド。ヤングブラッドも負けじとスクリームして、ヴォーカリストとして存在感を発揮していますが、BMTHの世界と圧倒的なサウンドにすっかり飲み込まれている印象も(笑)。ちなみに、この曲にはオ―ストラリアのゲーム音楽の作曲家であるミック・ゴードン(Mick Gordon)が追加プロダクションで参加しているんだとか」
天野「ゲーム・カルチャーの影響は、いまや音楽の世界でもかなり大きいですからね。“Prasite Eve”もゲームネタでしたし。おもしろいのは、日本の特撮へのオマージュを込めたユーモラスなミュージック・ビデオです。監督は、オリーことヴォーカリストのオリヴァー・サイクス(Oliver Sykes)がみずから務めています。アイロニカルな歌詞にも注目!」
2. Public Enemy feat. Nas, Rapsody, Black Thought, Jahi, YG & QuestLove “Fight The Power (2020 Remix)”
天野「2位はパブリック・エネミーの“Fight The Power (2020 Remix)”! “Fight The Power”は説明不要のクラシックですよね。こちらも不朽の名作、スパイク・リー監督の映画『ドゥ・ザ・ライト・シング』(89年)のために作られた曲で、〈権力と闘え!〉と呼びかける、どストレートなプロテスト・ソングです」
田中「現在のブラック・ライヴズ・マター運動においても、きっと多くのストリートでこの曲が歌われたことでしょうね。MVでは、プロテストの映像が大々的にフィーチャーされています。奇しくも11月3日(火)に大統領選挙を控えているアメリカ。ドナルド・トランプが再選するのかどうか、すでに大きな注目が集まっているこのタイミングでPEが声を上げたことは、本当に心強い!」
天野「このリミックスは、6月の〈BET Awards 2020〉で初披露されたもの。パブリック・エネミーのチャック・Dは〈パブリック・エネミーの歌は『時に永遠の印』を残した。そしていま、ホームと呼ばれる場所から再びノイズを出し始める必要がある。Def Jam, Fight The Power 2020〉というコメントとともにこの曲を世に問いました。古巣のデフ・ジャムに戻ってきたことも話題ですよね。でも、なんといってもこのリミックスに参加しているアーティストたちが最高!」
田中「ナズ、ラプソディ、ルーツのブラック・ソートとクエストラヴ、ジャヒ、そしてYGと、ヒップホップ・カルチャー/ラップ・ミュージックを変えてきたカリスマばかり。世代を横断しているところもいいです」
天野「ちなみに、ジャヒは近年のPEやチャック・Dと活動を共にしているオークランドの中堅ラッパーで、PEの次世代プロジェクト〈PE 2.0〉のメンバーでもあります。で、この曲は、まずナズのヴァースにぶっ飛ばされますね。〈ありがとう、フレイヴとPE/あなたたたちが命を懸けてくれたおかげで、俺はいまラップできているんだ/次の世代も歌っている、『Fight the power』ってね〉というラインは、泣けてきますよ! ラプソディのヴァースは悲痛です。〈考えてみて、たった20ドルで殺人に至るなんて/ウェンディーズでクォーター・バーガーのために払う金額/黒人の命はそれくらいの価値しかないのか/ブリオナ(・テイラー)の痛みのため、そして彼女の母のために闘おう〉。2020年のいま聴かれるべき曲にアップデートされていますね」
3. Shygirl “FREAK”
天野「3位です。英ロンドンを拠点に活動するシャイガールの“FREAK”。彼女のことは当連載の特集記事〈2020年期待の洋楽アーティスト50!〉でも紹介していて、亮太さんが強く推しているアーティストです」
田中「ですね! フリーキーなエレクトロニック・ポップの作り手としてもロンドン・アンダーグラウンド・シーンのアイコンとしても、すごくおもしろい存在だと思います。今年の活動を見ていても、着実にステップアップしていることがわかるんですよね。アルカの『KiCK i』やジョージアの『Seeking Thrills』に参加していたり、最近はソフィーのDJセットにフィーチャーされたりしていました!」
天野「そんな活躍中のシャイガールですが、自身の楽曲の発表はひさしぶり。長年のコラボレーターであり、〈NUXXE〉というレーベルの運営に共に携わっているプロデューサーのセガ・ボデガ(Sega Bodega)が手掛けた楽曲です」
田中「レフトフィールドな尖った感じは相変わらずですが、グイグイと推進力のあるイーヴン・キックのビートを使っていて、ハードなダンス・トラックに仕上がっています。セクシャルな欲求を艶めかしく歌うラップ・ヴォーカルもかっこいい。ディストーションの効いたベースラインからは、ベースメント・ジャックスの“Where’s Your Head At”(2001年)をちょっと思い出したりもしました」
天野「今日掲載した亮太さん担当の記事〈ベースメント・ジャックス最高の1曲は?〉を宣伝したいなら、そう言えばいいじゃないですか! シャイガールとはぜんぜん関係ないですよ!! とにかく、シャイガールは今後も注目していきたい才能です」
4. Robert Glasper feat. H.E.R. & Meshell Ndegeocello “Better Than I Imagined”
天野「4位は、2位のPEと同じくブラック・コミュニティーの音楽という意味合いが大きい一曲。ロバート・グラスパーがH.E.R.とミシェル・ンデゲオチェロをフィーチャーした“Better Than I Imagined”です」
田中「グラスパーのエポック・メイキングなシリーズ〈Black Radio〉の新作『Black Radio 3』からのシングルだそうですね。2019年10月にミックステープ『Fuck Yo Feelings』をリリースし、今年7月にテラス・マーティン、カマシ・ワシントン、9thワンダーとの新しいプロジェクトでアルバム『Dinner Party』を発表するなど、グラスパーはこの1年、精力的な活動をしています」
天野「そんな彼の新曲は、ベースにデリック・ホッジ(Derrick Hodge)、ドラムスにジャスティン・タイソン(Justin Tyson)という馴染みのメンバーを迎えていて、H.E.R.はヴォーカルで、ンデゲオチェロはスポークン・ワードで参加しています」
田中「グラスパーはこの曲について、次のコメントを発表しました。〈黒人の命は大切です。そして、ブラック・ラヴも。愛のない人生を望む人などいませんが、私たちのコミュニティーには何世代にもわたって健全な関係性を築くための手段を持っていない人々がいた。ようやく人々は、この国の制度的人種差別を直視する準備ができたように思えます。そして、それについて議論するなら、それが人間関係にどのように影響するかについても話さなければいけません――どうコミュニケーションするのか、私たち自分自身をどう見るのか、お互いにどう接するのか。それは、たとえ良いものになりうるとしても、常に良いものだとは限らない〉。YouTubeの詳細欄にも載っているので、ぜひ原文を読んでみてください」
天野「とても現実的なコメントですね。ブラック・コミュニティーだけではなく、さまざまなエスニシティーを持った人々が共存していくことについて、グラスパーはきっと考えているのでしょう。〈愛〉やコミュニケーション、人と人との関係性の意味を問う音楽ですね。一方、スピリチュアルでブラック・サイエンス・フィクション的なアニメーションのMVは、どこかグロテスクでもありますが、とても美しい。2021年にリリースされるという『Black Radio 3』がどんな作品になるのか、いまからすごく楽しみです」
5. Theodor Black “Sub Culture”
田中「今週最後に紹介するのは、テオドール・ブラックの新曲“Sub Culture”。Mikiki初登場の彼は、サウス・ロンドンを拠点に活動するラッパーです。2018年のEP『Black Boy Blues』でデビューし、スモーキーなトラックとコンシャスなリリックが持ち味。太めの声質でモゾモゾとつぶやくようなラップ・スタイルも魅力的です」
天野「過去の作品を聴くと、レイドバックしたサウンドを得意としている印象なんですが、今回の“Sub Culture”はちょっと雰囲気違いますね。テンポは変わらずスロウなんですが、ジャジーなウワモノが排されていて、すごく不穏で重く、生々しい。プロデューサーは、ブラック自身によるものです」
田中「リリックでは、黒人であるというだけで警察官から過度に職質されることなど、ストリートにおける人種差別やそれによる暴力への怒りが綴られていて、そういったシリアスなテーマとサウンドがマッチしていますね。〈壊される前に文化を取り戻せ〉というフレーズが強烈。先月、イングランド代表のサッカー選手であるダニー・ローズが警察の黒人への対応について苦言を発していましたが、イギリスでもレイシズムの問題はいまだ根深いようです」
天野「当然、多民族国家ですからね。で、この“Sub Culture”はジョージ・フロイドさんが暴行死させられたあの事件後に作られた曲だと思ったのですが、実はそれ以前に完成していたんだとか。ブラック自身も〈1年前に作ったんだけど、聴き返してみると、いま僕たちが置かれている環境を反映したものになっていたんだ〉と語っています。なお、モノトーンが印象的なMVは、マチュー・カソヴィッツ監督の映画『憎しみ』(95年)からインスピレーションを得たものだそうです。フランス郊外における人種間の緊張を描いた同作は、いままた観直されるべき作品かもしれません」