©Lauren Desberg

長いキャリアを通じて培ってきた温もりと豊かな音楽性、そしてお互いの信頼関係――美しくも繊細な『Waves』には感情の浮き沈みと人生の自然なリズムが波打っている

 「最初にアルバムについて話した時に、これまででいちばんコラボレーティヴな作品にしよう、という話になった。ゲストやコラボ相手という意味だけじゃなく、僕たち3人の間で、もっと本当に〈一緒に作っている〉感じを大切にしたかったんだ。そこにフォーカスする一環として、毎週集まるようにした。だいたいアンバー(・ナヴラン)が僕のスタジオに来て、実際に顔を合わせて座って、一緒に曲を書く感じなんだけどね。誰かがサビのアイデアを持って来て、じゃあAメロをどうするかその場で一緒に考えたり。あとは、もっとオープンになることを意識していた。例えばアンドリス(・マットソン)が送ってくれたドラムのトラックに僕が曲を書いたり、とにかくアイデアを柔軟に送り合って、行ったり来たりしながら作っていくみたいな感じだったんだ」(マックス・ブリック)。

MOONCHILD 『Waves』 Tru Thoughts/BEAT(2026)

 LAを拠点に約15年のキャリアを通じてジャズやソウル/R&Bの麗しい折衷融和を奏で、独自のメロウな洗練味を極めてきたムーンチャイルドが、通算6作目となるアルバム『Waves』を完成させた。その間にEP『Reflections』(2023年)やキャットパックなど個別の活動はあったものの、トリオでのオリジナル・アルバムは2022年の『Starfruit』ぶり。グラミーの〈最優秀プログレッシヴR&Bアルバム〉部門にノミネートされるなど高い評価を獲得した同作に続き、今回も意欲的にコラボが推進されている。

 「これまで以上に外部のコラボ相手を迎える方向に踏み込んだ『Starfruit』は凄くポジティヴな経験だった。その時は一緒にできなかったけれど、組みたい人たちがまだリストに残っていた。次のアルバムを作る段階になった時に、その流れをそのまま引き継ぐのがすごく自然に感じられたんだ。それにコラボって結局はアルバムに入る曲次第なところもあって、例えばジャズ寄りの曲が出来たからこそ、デイナ・スティーヴンス(サックス)やエレナ・ピンダーヒューズ(フルート)とやれたらいいんじゃないか、というアイデアが生まれた。彼らの奏でる音色が大好きで、この曲なら絶対ピッタリ合うよね、みたいに進めていったんだ」(アンドリス)。

 「もちろん、みんな基本的にはどんな曲でも素敵にしてくれるんだけど、スタイル的にどうマッチするかを意識して組み合わせていくのが今回のプロセスだった。コラボした後もそのままじゃなくて、相手の演奏やアイデアによりフィットするように曲のほうを変えていくことも多かったよね。何かを足したり引いたり、相手のやってくれたことをより引き立てるように後から音楽を整えていくこともとても大事だった」(アンバー)。

 アンバーのリード・ヴォーカルは大きな軸としてありつつ、3人それぞれがマルチ演奏家だけに共演の方向性もさまざまだが、ジル・スコットとラプソディ(前作にも参加)を迎えたソウルフルな“Not Sorry”を筆頭に、アスティン・ターが深みのある歌声を聴かせる“Ride The Wave”、さらにPJモートンやエリン・ベントレージ、Dスモーク、グレッチェン・パーラト、2曲で歌うレイラ・ハサウェイ(前作にも客演)など〈声〉の貢献は当然のように目立つ。一方、クリス・デイヴが4曲でドラムを叩いていたり、他にもロバート・グラスパー(ピアノ/ローズ)など相手の持ち込む色合いも多彩だ。それが成立したのもトリオの描くヴィジョンが鮮明だったからだろう。『Waves』はつまり3人のプロデューサーとしての傑作でもあるのだ。

 「リスナーからすると、私たち3人も、コラボレーションした人たちも、それぞれ凄くはっきりした個性を持っていて、ソロ作品だったり、別の文脈で聴いたりすると、その部分がよりクリアに聴こえることもあるよね。でも、私たちにとってムーンチャイルドの音はやっぱり3人のブレンドで、外でどんな活動をしていても、ムーンチャイルドに戻ってくると自然とその音になる」(アンバー)。

 「ムーンチャイルドは各人のクリエイティヴな旅の中では大きな存在ではあるけれど、すべてではないんだよね。でも、ムーンチャイルドに戻ると、どこか原点回帰の感覚があるんだ」(アンドリス)。

左から、ムーンチャイルドの2022年作『Starfruit』、キャットパックの2024年作『Catpack』(共にTru Thoughts)、『Waves』に参加したデイナ・スティーヴンスの2024年作『Closer Than We Think』(Cellar)、ロバート・グラスパーの2024年作『Keys To The City Volume One』(Loma Vista)

『Waves』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
左から、ラプソディの2024年作『Please Don’t Cry』(Roc Nation)、ジル・スコットのニュー・アルバム『To Whom This May Concern』(Blues Babe/Human Re Sources)、レイラ・ハサウェイの2024年作『Vantablack』(SoNo)、PJモートンの2024年作『Cape Town To Cairo』(Morton)