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〈女性歌手を男性がプロデュース〉は過去のもの、いまはオタクな女性が活躍する時代

グライムスのおかげで、〈女性ポップ・シンガーをプロデュースする男性〉みたいな構図もすっかりクリシェになった。女性アーティストが自作のソングライターだけでなく、プロデューサーであることももう普通。女性プロデューサーそのものも増え、特にグライムスが技術方面を含めた〈オタク〉っぷりを披露したことで、女性が音楽に関わるイメージは随分広がったと思う。

グライムスの2012年作『Visions』収録曲“Oblivion”

ロンドンの音楽シーンから出てきたジョージアも、シンガーというより本質的にはミュージシャンでプロデューサー。最初はドラマーとして活動していたが、大学では音楽民族学を学び、子どもの頃からレコードを聴くと「どうやって作られてるのか分解して、理解したかった」と最近出演したBBCラジオで語っていた。

と同時に、ジョージアの父がUKエレクトロニック・デュオ=レフトフィールドの一人、ニーク・バーンズであることももちろん大きかったはず。彼女が作るポップ・ミュージックには、豊富な知識や見識に裏打ちされた独創性があるのだ。1月にリリースされたセカンド・アルバム『Seeking Thrills』を語る彼女の発言とともに、ジョージアの魅力をちょっと〈分解〉してみよう。

GEORGIA Seeking Thrills Domino/BEAT(2020)

本名はジョージア・バーンズ。幼い頃から音楽が好きで、ただ一時期はフットボール選手としてロンドンのクラブ、QPRとアーセナルに所属していたという。最初にロンドンのシーンに出入りしはじめたのはセッション・ドラマーとして。ミカチューやクウェズ、ケイト・テンペストのライブに参加していた。ちなみにケイト・テンペストは幼い頃からの友人。そうした経験を積み、知己を増やしたのち、満を持してドミノ・レコーズから出した最初のアルバムが2015年の『Georgia』だ。

「いま振り返るとファーストを作ったときには、アルバムが丸ごと実験、みたいな感じで、自分でもどんな作品を作ってるのかわかってなかったし、方向性とか全然なくて。とりあえず自分の持ってるものを全部出し尽してやれ!みたいな感じだったんだよね」。

2015年作『Georgia』収録曲“Move Systems”

 

成功したシングル“Started Out”、ダンスフロアの幸福をポップ・ソングに閉じ込めたアルバム『Seeking Thrills』

いま聴くとさまざまなビートがあり、影響があり、大胆なアルバムなのだが、ジョージアがバズを巻き起こし、ツアー・サーキットに出るきっかけにもなったのが2018年のシングル“Started Out”だ。ダンス・ビートに乗せて〈We are wicked and bold(あたしたちイケてるし大胆)〉と歌詞で繰り返すのがちょっとアンセムっぽい面白さ。これが話題になって、グラストンベリーにも出演。BBCが選ぶ〈サウンド・オブ・2020〉の候補にもなり、バズは広がる一方だ。

『Seeking Thrills』収録曲“Started Out”

またセカンドのリード・シングルとなったのが、2019年の“About Work The Dancefloor”だ。この曲を作っている最中、人気ドラマ「ガールズ」のあるエピソードを見たことをジョージアはビルボード誌でのインタビューで語っている。主人公を演じたレナ・ダナムがロビンの“Dancing On My Own”で一人踊っている——そのたったワンシーンで、アメリカでロビン人気に火をつけたほどの有名な場面だ。「ダンスフロアのユーフォリアを親しみやすいポップ・ソングに閉じ込める」というセカンドの方向性が決まったのは、もしかするとこのころではないだろうか。

『Seeking Thrills』収録曲“About Work The Dancefloor”

「今回のアルバムに関しては、とにかくアクセスしやすいものにしたかったんだよね。もっと気軽に入りやすい感じにしたくて。もっと言うなら、ポップ・レコードを作りたかった。それでスタジオにこもって、自分が好きだったポップ・ミュージックのアルバムを片っ端から全部聴き返して、そこから学んだものを頼りに、優れたポップ・ミュージックとはいかなるものか、っていう自分なりの像を導きだして。それを目標にして曲を作り始めたんだけど、ものすごく大変な作業だったし、本当に延々とスタジオにこもって研究してたの(笑)」。

その聴き返したレコードとは、80年代UKのヒット・チャートを賑わせたシンセ・ポップと、シンガー・ソングライターの名作アルバム。そして、やはり重要だったのがダンス・ミュージックの豊かな鉱脈だった。

「80年代初期のポップ・ミュージックを中心に聴いてたんだ。デペッシュ・モード、ケイト・ブッシュ、カン、ペット・ショップ・ボーイズ、ユーリズミックス。それと並行していわゆる王道のアーティストの作品も聴いてたの。ニール・ヤング、ジョニ・ミッチェル、クイーン。

あと発見したのは、そもそも自分の育ったのが、まさにレイヴ・シーンのど真ん中なのね。父親がレフトフィールドをやってたから。それで、〈デペッシュ・モードは一体何に影響を受けてこういうシンセサイザーの音に辿り着いたんだろう?〉とか、〈このドラム・ビートってそもそもどうやって作ってるわけ?〉って考えた結果、シカゴ・ハウスとデトロイト・テクノに行き着いたわけ。

それからはそういうのばっかり聴き漁ってたんだけど、特に80年代初期の作品に強烈に惹かれて。あの時代の音楽って私にはすごく身近で親しい音に感じられる。そこに自分のダンス・ミュージックへの愛情も重なるから」。

 

アナログ・シンセに909、エレクトロニックなベースとドラムの音こそ極上

その80年代の感覚が端的に表れているのが、特徴的なシンセのサウンドとドラム・マシーン。ローランドTR-909のちょっと懐かしい音が聴こえてくるのだ。

「TR-909もそうだし、実際、今回のアルバムで鳴ってる音って全部アナログなのね。そもそもTR-909の出てきた80年代初期って、デジタルとアナログの融合が始まった時代でもあって、プロダクション的な視点からすると、音楽が相当面白くなった時代だと思う。エレクトロニックなサウンドって、すごく自由で、可能性を感じるっていうのかな。

もちろん、父親の影響もある。エレクトロニックなベース・ドラムこそ極上なサウンドである、って価値観が仕込まれちゃってるから(笑)。エレクトロニックなベース・ドラムが脳内でハマったときの高揚感とか、幸福感に包まれる感じ。マドンナの初期の頃の作品とか聴いてると、そのへんの効果を巧みに利用してたりするじゃない? まあ、ただの音楽オタクの話だと思って聞き流して(笑)。TR-909、TR-808、TR-303に関しては、特に思い入れがあるし愛着があるんだ」。

『Seeking Thrills』収録曲“24 Hours”

ちなみに、この音楽オタクは日本に関してもかなり蘊蓄があり、東京に行くのが夢だという。

「だってTR-909もTR-808もTR-303も全部日本で開発されたんだよ。日本の技術ってすごくない!? いまさら私が言うことじゃないけど。あと、私、ジブリの大ファンで、ジブリもののサウンドトラックとかめちゃくちゃ好きなんだよね。“Honey Dripping Sky”っていう曲だって、作ってる最中にアニメとか漫画みたいな絵や映像を頭の中で思い浮かべてて。ていうか、曲を作ってるときって、いつも脳内に『AKIRA』とか、漫画やアニメのヒーローを思い浮かべてるところがある(笑)」。

 

探し求めているものはダンスフロアにある

この〈Seeking Thrills(スリルを求めて)〉というタイトルには重層的な意味がある。ジョージアはファーストを出したあと、しばらく飲酒が増えた時期があり、心身ともに自分の健康を見直そうとした。と同時に、それでもクラブ通いはやめられず、酒は飲まずにクラブに行き、音楽を楽しみ、踊る人々のコミュニティーの一員でいつづけた。ロビンも2018年のアルバム『Honey』のリリース時、人生を見直したこととクラビングの再発見を語っていたが、きっと彼女たちのなかでは〈自分〉を再発見する際にダンスフロアのユーフォリアが新たな意味を持ち、ぐっと深化するような感覚があったのだろう。

「今回のアルバムを作るにあたっては、酒を飲むのを一切やめたの。食事もヴィーガンのグルテン・フリーにして、ヨガをやったりエクササイズをしたり。それが曲のメンタルの部分にも表れてると思う。

それとアルバムを作りながら、つねに何かを欲しているような、探し求めているような感覚があって、でもそれは私にとってダンスフロアにあることがわかった。世界中のクラブで踊ったり、DJのプレイを見たり、クラブ・カルチャーをシラフで体験することで、自分自身を発見することができたんだ。自分のアイデンティティーはここにある、って。だから、〈Seeking Thrills(スリルを求めて)〉ってタイトルにはすごくパーソナルな意味でもある。

それにもう一つ、シカゴ・ハウスのメッセージを伝えるためでもあるの。シカゴ・ハウスのリサーチをしてるときに、それが音楽だけじゃなくて、政治的、文化的にもすごく重要なムーヴメントであることを知ったから。80年代当時のシカゴは差別的で、黒人やゲイ、他人と違ってる人は社会から疎外されてた。私が発見したのは、80年代にシカゴ・ハウスがそうした人たちにコミュニティー的な場所を提供してたってこと。パーティーで自分と似たような立場の人に出会ったり、自分の居場所を見つけたり、ありのままの自分をオープンに表現して、それでも守られてるって感覚になれたんだよね。

と同時にスリルも味わうことができた。私も、このアルバムを聴いた人たちに勇気やパワーを与えたいの。毎日の生活でワクワクするようなスリルを探して、普段はしないようなことに挑戦してみたり、いつもより大胆な自分になれるように……ちょうど80年代にシカゴ・ハウスが人々に勇気を与えていたように。今の時代にはそういうメッセージが必要だと思って。まずは自分自身を幸せにするところから始めなくちゃ」。

多幸感、高揚感を感じた体験、そのフィーリングは誰にとっても心のなかの逃避場所になる。それを思い出すと新しいエナジーをもたらしてくれることもある。そんなダンスフロアの記憶をポップ・ソングにして、詰め込んだようなアルバム。『Seeking Thrills』のビートに、リズムに、キラキラしたサウンドの一つひとつに、その手がかりが宿っている。

『Seeking Thrills』収録曲“Never Let You Go”