田中亮太「Mikiki編集部の田中と天野が海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。さてさて、本日は〈Bandcamp Friday〉ですね!」

天野龍太郎「新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、音楽配信・販売プラットフォームのBandcampが3月にアーティスト支援のための企画をスタートさせました。企画の実施日は、Bandcampでの売上金から販売手数料が差し引かれることなく、全額がアーティストやレーベルに還元されるんです」

田中「いまはコロナ禍でライブがほとんどできなくなっていて、収入を絶たれているミュージシャンが多いですからね。アーティスト目線に立った素晴らしい取り組みです。3月の〈Bandcamp Friday〉の売上は、通常の15倍にもなったんだとか」

天野「本日もクラウド・ナッシングスやファーザー・ジョン・ミスティ、アニマル・コレクティヴ、ボーイジーニアス(boygenius)などなど、多くのアーティストが新作やデモ、ライブ・アルバムをBandcampでリリースしています。ドネーションのための作品も多いので、作品の詳細もぜひチェックしましょう。それでは、〈Song Of The Week〉とプレイリストから」

 

1. BLACKPINK “How You Like That”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉はBLACKPINKの新曲“How You Like That”! 先週の金曜日にリリースされたので、先週のうちに紹介したかったところではあったのですが、この1週間ずっと話題になっていた曲でした」

田中「ミュージック・ビデオがYouTubeで公開されてから、史上最速の32時間で1億回再生を超えたんだとか。めちゃくちゃすごいです。さすが、現在のK-Popを代表するグループ!」

天野「〈コーチェラ〉への出演やレディー・ガガの新作『Chromatica』への参加など、この1年、アメリカのシーンを席巻してきましたからね。欧米での人気はうなぎのぼりに高くなっています。で、待望のカムバがこの新曲“How You Like That”。期待を裏切らない最高の曲ですね!」

田中「イントロの、リサの〈BLACKPINK in your area〉というフレーズからわくわくしますね。サビはヒップホップのノリで、ねっとりとした、どこかオリエンタルな旋律にしびれる。リサのヴァースはインド~中東風? ちょっとティンバランドのサウンドや、彼がプロデュースしたミッシー・エリオットの曲を思わせる響きで、懐かしい感じ」

天野「リサの〈I’m right back〉という宣言に心が躍ります。後半で〈BLACKPINK!〉というお決まりのフレーズが聴けると、〈待ってました!〉って言いたくなっちゃいます。もはや歌舞伎。そこからテンポが倍になって、一気にダンス・ポップ化するハイブリッド感もかっこいい。この曲には、〈どんなに困難な状況でも、自信を失わずに立ち上がるメッセージが込められ〉ているんだそうです。ジス、ジェニー、ロゼ、リサの雄姿に奮い立たされますね。読者のみなさんは誰のファンですか? ちなみに僕はロゼです!」

 

2. The Chicks “March March”

天野「2位はチックスの“March March”です。先週の〈PSN〉で紹介したように、カントリー・バンドのディクシー・チックスが、バンド名から〈ディクシー〉を取って〈ザ・チックス〉に改名。〈ディクシー〉という言葉が南北戦争時代に奴隷制を敷いていたアメリカ南部を想起させるから、という理由です。人種差別への抗議と撤廃運動が広がるいま、それを受けての改名ですね。それと同時に、この曲をリリースしました。まずはMVを観てほしいですね」

田中「とにかくパワフルなMV! まず冒頭で、〈あなたの声に力がないのであれば、彼らはあなたを黙らせようとしないだろう〉との一文が映し出され、その後に現在の〈Black Lives Matter〉を含む、これまでに起こったデモや市民運動の映像がコラージュされていきます。それらに歌詞の一節である〈私自身のドラムに合わせて行進していく/私は1人の軍隊〉というラインが被せられ……」

天野「LGBTQの象徴であるレインボー・フラッグや手話の画、アメリカ史を振り返った写真や映像の数々が、ものすごい気迫を感じさせます。後半は、ジョージ・フロイドさんやブリオナ・テイラーさんといった、警察官による暴力で命を亡くした人々の名前が次々に現れる。急き立てるようなハンドクラップの音もあいまって、静かな迫力を湛えています。それに、サウンドがめちゃくちゃかっこいいですよね。まずは歌とドラムのみでスタートして、徐々にペダル・スティールやフィドル、バンジョーといったカントリー色の強い楽器が加わっていく……。この曲を聴いた安東嵩史さんが、白人保守層向けの商業音楽になったカントリーがそもそも混血の音楽であることを指摘していて、なるほどと思いました」

田中「彼女たち自身の音楽性を失うことなく、現行のブラック・ミュージックにも呼応した素晴らしいアレンジですよね。安易に〈取り入れた〉というのでなく、とてもリスペクトを感じさせるものになっています。あと、歌詞もめちゃくちゃすごい。人々を鼓舞するような内容が基調なのですが、銃所持の問題や地球温暖化、ドナルド・トランプのロシア疑惑など、現代社会のイシューが散りばめられているんです。なお、MVの最後には〈use your VOICE. use your VOTE.〉というチックスからのメッセージが掲げられています。東京都民のみなさまも、日曜日の都知事選の投票をお忘れなく!」

 

3. Kanye West feat. Travis Scott “Wash Us In The Blood”

天野「3位はカニエが突然リリースしたニュー・シングル“Wash Us In The Blood”。カニエといえば、タイ・ダラー・サインの新曲“Ego Death”に参加していることも話題です。でも、やっぱり注目はこっちのソロ・シングルでしょう。昨年のアルバム『Jesus Is King』以来、約7か月ぶりの新曲です」

田中「あの後、〈Sunday Service Choir〉としてのゴスペル・アルバム『Jesus Is Born』もありました。また、今年はリミックス・アルバム『Jesus Is King Part II』がリリースされるそうですが、この“Wash Us In The Blood”は新作『God’s Country』からのシングル、ということになっています」

天野「カニエのことだから、その『God’s Country』もどうなるのかまったくわかりませんけどね……。最近はGapとのコラボレーションとか、ファッション・ブランド〈Yeezy〉の話題ばかりを目にしていましたが、ようやく音楽シーンに帰還。しかも、ものすごい曲を携えて。市民に対して横暴な白人男性警察官を黒人女性の同僚が非難する、という映像から始まるMVにまず度肝を抜かれました。〈Black Lives Matter〉運動に揺れるアメリカを思いっきり反映した曲で、本当にすごい。さらにカニエのスピリチュアリズムが全開になっていて、なおかつそれが現在のアメリカの状況と直接的に結びついている。〈聖霊よ、降りてきてください〉〈私たちはいま、あなたが必要なんだ〉という祈りは、なんて切実なんだと思いました。ちなみに曲名は、〈イエス・キリストの血=死によって私たちの罪を洗い流す〉という意味です」

田中「そのうえで、いつものカニエ節な〈あいつらは俺に『カニエ』でいてほしくないんだ〉〈おとなしいカニエとだけ契約したがる〉〈インタビューを編集したがる〉といったリリックもありますね(苦笑)」

天野「エゴと神への祈りに分裂している感じが、本当にカニエらしいです。サウンドも刺激的で、ちょっとニューオーリンズ・バウンスっぽい感じがある、奇妙なダンス・ビートですよね。カニエのヴォーカルの機械的な処理も独特の響きをしています。プロデュースにはカニエのほか、ロニー・J(Ronny J)、デム・ジョインツ(Dem Jointz)、FnZ、ブーズダビースト(BoogzDaBeast)が関わっているとか」

田中「カニエの話題ばっかりで忘れていましたが、トラヴィス・スコットが客演していますね。カニエの〈俺俺〉感がすごくて脇役っぽいですけど、独特の歌声で存在感を発揮しています。それにしても、カニエの次の一手が気になりますね……」

 

4. Fontaines D.C. “Televised Mind”

田中「4位はフォンテインズD.C.の新曲“Televised Mind”。アイルランド、ダブリン出身の彼らは、ブルータルなポスト・パンク・サウンドが魅力です。もはや〈PSN〉の常連バンド。特に最近は、天野くんのご執心っぷりがすごい……。この間、久しぶりにオフィスで会ったときも、このバンドのロンTを着ていましたよね。正直、羨ましかったです(笑)」

天野「気づいていたのなら言ってくださいよ! この曲は、7月31日(金)にリリースされるセカンド・アルバム『A Hero’s Death』からのリード・シングル。まず、ぶんぶんと鳴っているイントロのベースラインが強烈でぶっ飛ばされます。そのベースとドラムのビートが絡まり合ったヒプノティックなグルーヴが特徴で、サイケデリック寄りのジャーマン・ロックとポスト・パンクが混ざり合ったようなサウンドです。亮太さんはこの曲を相当気に入っているそうですね」

田中「そうなんです。もしかしたら、これまでの彼らの楽曲のなかでいちばん好きかも。不機嫌で焦燥感に溢れたロックンロール/ガレージ・ロックとクールなダンス・ビートが融合していて、まるで『XTRMNTR』(2000年)期のプライマル・スクリームみたいだな、と思いました。ツイン・ギターのアンサンブルもかっこよすぎて失禁しそう……。ステレオガールもこの路線で一曲作ってくれないかな、なんて想像しちゃいました」

天野「それはどうなんでしょう(苦笑)。というか、2000年頃のプライマル・スクリームを思い出しちゃうあたりが後ろ向きすぎ!! ちなみにバンドは、リファレンスに〈プロディジーとブライアン・ジョーンズタウン・マサカ―〉を挙げています。歌詞はソーシャル・メディアがもたらすエコー・チェンバーについて歌ったものだとか。フロントマンのグリアン・チャッテン(Grian Chatten)は〈いま人々は自分が間違っていると感じる能力を失っているんだ〉と語っています。〈Televised Mind〉という言葉のセンスも最高ですし、やっぱり詩人たちのバンドですね! 新作が超楽しみです」

 

5. Bring Me The Horizon “Parasite Eve”

天野「今週最後の一曲は、ブリング・ミー・ザ・ホライズンの“Parasite Eve”。BMTHらしいヘヴィーな新曲ですね」

田中「2019年末にめちゃくちゃ実験的なエレクトロニック作品『Music To Listen To...』をリリースしたバンドが、〈これぞBMTH〉サウンドに立ち返っていて痛快。曲名は、海外でも人気のホラー・ゲーム・シリーズ『パラサイト・イヴ』(98年~)から取られているんですよね」

天野「スクエアの名作サヴァイヴァル・ホラー! コロナ禍のパンデミック下で、自宅隔離の状況で録音されたというこの曲は、現在の閉塞感とあのゲームの張り詰めた緊張感を重ねて合わせている、ということなんでしょうか。2000年代のニュー・メタルを思わせるヘヴィーなサウンド・プロダクションがかっこよくて、めちゃくちゃアンセミック。薄気味悪いビデオも必見です」

田中「この曲は4つの連作EP『Post Human』からのシングル、という位置づけ。『amo』(2019年)でロック・バンドとしての高みに到達し、『Music To Listen To...』では実験に挑んだ彼ら。新作ではその2つがどんなふうに結びついているのか……。『Post Human』が楽しみでなりませんね」