メロディーそのものの魅力

 アルバムは、ピアノとアップリフティングなビートで装飾された“A Whole New World”(「アラジン」)で幕開け。原曲はピーボ・ブライソンとレジーナ・ベルの情熱的な掛け合いが印象的な名バラードだが、ここではオープナーに相応しい軽やかさ(と後半で覗く幻想的な雰囲気)が肝になっている。これは作品全体に言えることだが、もともとは歌モノの楽曲も基本インストでカヴァーすることにより、歌声に付随していたエモーションが削がれ、そのぶんメロディー自体の魅力がよりはっきりと浮き出ている印象。同じくアラン・メンケン作曲による“Beauty and the Beast”(「美女と野獣」)も、夜空を飛翔しているかのような浮遊感あるアレンジを敷くことで、原曲のダイナミックさとは異なる慎ましやかなロマンティシズムをメロから引き出している。

 そんななかで、Serph自身が「この曲はオリジナルもすごく好きなので、お話をいただいたときに絶対やりたいと思った」と思い入れたっぷりに選んだのが、本作で唯一の歌唱入りカヴァーとなる“Let It Go”(「アナと雪の女王」)。トラックはエレクトロニカをベースとしつつ、ディレイやリヴァーブといったダブ的な要素を取り入れたディープな仕上がりになっているが、透明感ある歌声が持ち味の声優/シンガー、牧野由依をゲスト・ヴォーカリストに迎えることで、大雪原のように澄んだ光景が広がる名カヴァーとなった。

 「“Let It Go”のカヴァーをする話になったとき、牧野さんのことがすぐに頭に浮かんで。自分が昔、歌モノが苦手で、ダンス・ミュージックやエレクトロニカしか聴いていなかった頃、たまたま友人から勧められて(牧野の)“アムリタ”や“ジャスミン”を聴いたら衝撃を受けて、それから15年越しぐらいのファンだったんです。牧野さんは声質に独特の甘さがあって、天性のものを感じるんですね。存在感があって、聴いていて本人をすごく近くに感じる。癒されるというか。レコーディングの合間に(スタジオの)ブースから話し声が聞こえてくるんですけど、それだけで空気がまろやかになるみたいな」。