「これからは僕のキャリアの〈ありったけ〉をお届けしていきます」

 コロナ禍のなか、ASKAが充実の音楽活動を展開している。9月には、新曲“幸せの黄色い風船”“自分じゃないか”“僕のwonderful world”を3週間連続配信。10月21日には、クラシック音楽の殿堂、東京文化会館で2月に行った公演を収めたBlu-ray+LIVE CD『ASKA premium ensemble concert -higher ground- 2019>>2020』をリリース。11月8日にはテレビ東京で特別番組が放送される。番組では、で新曲を記念したMV撮影生配信に密着。精力的な音楽活動についてのインタビューも予定されている。

 「確かに今、僕のキャリアでとくに活発な時期だと感じています。新曲も次々とできる。スタッフが僕の体を心配するくらいです。でもね、音楽に限らず、どんな仕事でも、誰にでも、勢いのある時期があると思います。一方、停滞期もある。だから、状態がいいときにはできるだけ作品をつくってしまおう、という気持ちでいます」

 ASKAの新しい作品の多くは自宅の仕事部屋から生まれている。

 「6畳ほどのスペースで、ほとんどの作業を行います。サウンド・ディレクターやバンドのギタリストともに、作曲、アレンジ、演奏、コーラスまで。音ができたら1日か2日で歌詞を書きます。楽器のレコーディングを終えた夜から朝にかけて、一気に仕上げることもありました」

 新曲は3曲3様だが、共通しているのはメロディーが明るいこと。そして、前向きな内容であること。

 「2020年、僕たちは時代の〈境界線〉にいると感じています。コロナ禍はもちろん、政局も変わりつつある。そんな時代だからこその曲を歌いたい。前向きさを感じていただけるのは、僕がいい状態だからでしょう。作り手が前向きだから作品も前向きになる。ただしストレートに、頑張ろう!とうったえる作品ではないはずです」

 2011年の東日本大震災のときも、今回のコロナ禍でも、人間の力の及ばない何かが起きると、音楽の役割が問われる。

 「音楽で世界を変えることはできない――と、僕は思っています。でもね、音楽は人の心に寄り添うことはできる。とくに歌詞は、メロディーに寄り添うことで、リスナーの心にも寄り添えるのではないでしょうか。“僕のwonderful world”でも、とくに意識しました」

ASKA 『ASKA premium ensemble concert -higher ground- 2019>>2020』 DADA label(2020)

 Blu-ray+LIVE CD『ASKA premium ensemble concert -higher ground- 2019>>2020』はオーバーチュアを合わせて全23曲。声、ステージング、表情などすべてから、ASKAの充実が感じられる。このツアーは全15公演予定されていたが、コロナ禍の影響で2公演が延期となり、現状では東京文化会館公演が最新ライブだ。編成はバンドとコーラスとストリングス。

 「前回のビルボード・コンサートでは、フルオーケストラで歌うスタイルを提案していただきました。オーケストラとの共演は、もう僕のライフ・ワークにさせていただいているのかもしれませんね。僕の音楽活動に〈特別なもの〉ではなく、もうひとつフォルダが増えた。だからこそ、今回のようにバンドとストリングスを合体させるアイデアが出てきたんだと思います。それを全国ツアーにすることができた。新しい形ですね」

 ストリングス・チームは、各楽器にマイクを取り付けている。

 「空気の鳴りだけだと、アンプを通したバンドの音に負けてしまいます。そこで各弦楽器にピックアップ(マイク)を付けたポップス/ロック・スタイルにしたら、とてもかっこいいサウンドになりました」

 ソロ時代のナンバーもあり、CHAGE and ASKA時代のナンバーもあり。ヴァリエーション豊かな選曲で、歌と演奏がくり広げられた。

 「これからのステージは僕のキャリアの〈ありったけ〉をお届けしようと思っています。2020年はデビューして42年なので、42年間のありったけ。2021年は43年間のありったけ。かつては、最新アルバム中心の選曲でツアーをやっていました。今後は初期の曲も新曲もバランスよく歌うステージにしたいですね」

 “しゃぼん”から“はじまりはいつも雨”へ入るMCでは、自分の作風について語った。ギターでの作曲をピアノにしたら、音楽が変わったのだという。

 「ギターの6本の弦よりも、ピアノの鍵盤をバーンと叩いたときの音の広がりでメロディーに包まれるほうが、僕には合っていました。歌詞については、デビュー当時は絵空物語を書いていることが多かった気がします。歌とはこうあるべきだという既成概念に縛られていたと思うんですよ。大陸性にフォークや演歌の感じを加えていました。打ち明けると、売れるために狙って行っていた手法です。でも、そういうものは長続きしません。自分の体のなかにない感覚ですから。その後、体験や自分の気持ちを歌うようになると、ライブでも客席が曲を受け止めてくれて、僕と客席との間に波動が生まれました。自分のことを歌うと、受け止められるんです。1984年には『オンリー・ロンリー 飛鳥涼詩集』を出して、ほぼ日常の出来事を書いて、すごく喜ばれましてね。歌詞が描く物語がフィクションであっても、そこにワンフレーズ、あるいはひと言でも自分が描かれると、歌に風景が描かれます。作品に自分を入れることで、ポップスのフィールドで長くキャリアを積んでいかれると感じられました」

 ただし、音楽そのものが変わっても、アーティストとしてのイメージはなかなか変わらなかった。

 「89年~90年、92年の2度日本を離れ、半年ずつロンドンで暮らした目的は、イメージ・チェンジでした。メディアは〈ASKA音楽留学〉と書いていたけれど、向こうではとくに音楽的に変わったことをしていません。ただ、思いがけず意識は変わりました。ポール・マッカトニーとの交流もあり、それまで感じていた外国人アーティストへのコンプレックスを払拭できた気はします。結果的に、ロンドン生活は想定外に僕を変えたと言えるかもしれません。デヴィッド・フォスターの音楽をより深く聴けたことも大きかった。僕はそれまで、音楽家として誰の影響も受けていないと思っていたんですよ。でも、デヴィッドのアカデミックさ、ダイナミックさを自分のなかに感じています。時を経て、ポールと再会し、デヴィッドとも会いました。デヴィッドにはデヴィッド・フォスター&フレンズのメンバーに入れてほしいとリクエストしています」

 ASKAが「42年間のありったけ」と語っているとおり、『ASKA premium ensemble concert -higher ground- 2019>>2020』は〈アーティスト・ASKA〉の今も、音楽家としての歩みも、キャリアをまるごと楽しむことができる。

 


ASKA(アスカ)
79年CHAGE and ASKAとして“ひとり咲き”でデビュー。“SAY YES”“YAH YAH YAH”“めぐり逢い”など、数々のミリオンヒット曲を世に送り出す。音楽家として楽曲提供も行う傍ら、ソロ活動も並行し、1991年にリリースされた“はじまりはいつも雨”が、ミリオン・セールスを記録。同年のアルバム『SCENE II』がベストセラーとなり、99年には、ベスト・アルバム『ASKA the BEST』をリリース。また、アジアのミュージシャンとしては初となる〈MTV Unplugged〉へも出演するなど、国内外からも多くの支持を得る。2017年には、自主レーベルDADA labelより、アルバム2枚をリリース。2018年には、フルオーケストラとの共演〈billboard classics ASKA PREMIUM SYMPHONIC CONCERT 2018 -THE PRIDE-〉を開催。2019年には、 台湾で行われた歌番組「超級巨星紅白藝能大賞」にスペシャル・ゲストとして出演し、その後、自身のバンドツアー〈ASKA CONCERT TOUR 2019 Made in ASKA -40年のありったけ-〉を開催。6月には、ソロとしては約10年振りとなる台湾、香港での海外公演を開催。

 


INFORMATION
TV特番企画
ASKA -premium ensemble concert -higher ground-

2020年11月8日(日)16:00~
テレビ東京全国6局ネット(テレビ東京、テレビ大阪、 テレビ愛知、テレビせとうち、テレビ北海道、TVQ九州放送)
https://www.fellows.tokyo/

・9月11日より3曲続けて毎週連続配信
・10月11日には配信楽曲(3曲)のMVをVRにて生配信