
2008~2018年
美しい旋律の復活、作品の長大化、音楽の消費への抵抗
しかしそれが、『Quaristice』(2008年)を経てまた少しずつ変わっていく。『Oversteps』(2010年)から始まったオウテカの2010年代において、どこか初期を思わせる美しい旋律やアンビエンスがまた聞こえ始めてくる。ただもちろん、いま聴くと(オウテカとしては)牧歌的にさえ思える『Incunabula』とは異なり、2000年代の抽象化を経たものとしてそれらは合流しているのである。きわめて実験的なものでありながら、ほとんど壮絶なほどに美しい――オウテカらしい、音のみから感じ取ることのできる興奮と快感が以前とは違う姿で現れたのだった。
しかしだからと言って、オウテカがそう簡単に分かりやすく、聴きやすくなることなどない。『Exai』(2013年)が2時間超えの2枚組であったことを皮切りに、5つのセクションに分けられた(フィジカル・リリースなし)4時間超えの『elseq 1–5』(2016年)、8枚組にして8時間超えの『NTS Sessions』(2018年)とヴォリュームがどんどん膨らんでいくのだ。その量的な部分を除くと、じつはこれらの作品にはオウテカの歴史――とりわけ、彼らルーツであるエレクトロやデトロイト・テクノ――が衒いなく豊かに息づいていて、(2000年代のカタログを思うと)とても楽しく聴けるものなのだが、単純に量的な問題で尻込みしてしまうリスナーも少なくなかったはずだ。
『Exai』のときに自分がロブ・ブラウンに訊いたところによると、世のなかの音楽が短く、気軽に聴けるものになっていることに逆らいたい気持ちがあったそうだ。つまりどんどん作品が長くなったのは、ストリーミング・サーヴィスが定着していくなかで、音楽が簡単に消費されてしまうことへの抵抗でもあったのだろう。リスナーに主体的であってほしい、と。そこが彼らの一貫したカッコよさでもあり、なかなか新しいリスナーを寄せつけないハードコアなところでもあった。
そして2020年代へ
メロディアスかつ新次元の『SIGN』
……と、そこでオウテカにとって2020年代はじめの作品となる『SIGN』である。本当に聴きやすい。長さも、内容も。まずそこに驚嘆する。もちろんそれは単純になったということではないが、ドローン/アンビエントの要素が前に出てボトムが控えめになったなかで、多くのひとが忘れていたのかもしれないオウテカのメロディアスな部分が全開になっている。『Amber』を思い出す部分もあるが、もちろん当時とは音色の繊細さも構成の細やかさもまったく違う次元にある。

オフィシャル・インタビュー中での、ショーン・ブースの以下の発言が印象的だ。
「今回に関して僕は、どうやってトラック群を垂直に構成するか、そこに気を配っていた。なんというか、いくつもの層を統合しようとしたっていう。僕からすればそこが大きかったね。(中略)口で説明するのは難しいんだけど、とにかく今回はもう少しだけコンポジション性が高く、かつ決然としていた」。
2010年代、作品のヴォリュームを大きくすることによって拡大していた音楽性の幅が、あるポイントで収斂したイメージと言えばいいだろうか、ブースが言うように非常に統合的なアルバムだ。ひとつひとつのトラックが、かつてないほどのテンションでまとまっているのである。
これはおそらく、オウテカがいままさに新しい領域へと踏みこもうとしていることの表れだ。絶え間ない実験と進化に貫かれたオウテカの道は、いまなお途切れることなく前へと向かっている。
INFORMATION
WARP RECORDS CAMPAIGN 2020
2020年10月16日(金)~2021年2月28日(日)

■ステッカー封入商品(初回生産分)
オウテカ『SIGN』国内盤(2020年10月16日リリース)
ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー『Magic Oneohtrix Point Never』国内盤(2020年10月30日リリース)
ポリゴン・ウィンドウ『Surfing On Sine Waves[完全版]』国内盤(2020年12月4日リリース)
オウテカ『PLUS』(2020年11月20日リリース)

■卓上カレンダー対象商品
スクエアプッシャー『Be Up A Hello』国内盤(発売中)
スクエアプッシャー『Lamental EP』国内盤(発売中)
イヴ・トゥモア『Heaven To A Tortured Mind』国内盤(発売中)
ロレンツォ・センニ『Scacco Matto』国内盤(発売中)
ダークスタ―『Civic Jams』国内盤(発売中)
オウテカ『SIGN』全形態(デジタルは対象外)
ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー『Magic Oneohtrix Point Never』全形態(デジタルは対象外)
ポリゴン・ウィンドウ『Surfing On Sine Waves[完全版]』国内盤(2020年12月4日リリース)
オウテカ『PLUS』(2020年11月20日リリース)
■応募方法
対象商品に貼付された応募券を集めて、必要事項をご記入の上、官製ハガキにて応募締め切り日までにご応募ください。
締め切り:2021年2月末日消印有効
http://www.beatink.com/user_data/warp2020.php