2020年6月30日、シャムキャッツが解散した。2019年にデビュー10周年を迎え、同年12月に東京・新木場STUDIO COASTで記念公演を行った、その矢先のことだった。夏目知幸(ヴォーカル/ギター)、菅原慎一(ギター/ヴォーカル)、大塚智之(ベース)、藤村頼正(ドラムス)の4人がひとつの時代を駆け抜けたことは、これから先も記憶されつづけていくだろう。
新型コロナウイルスのパンデミックにより大規模なライブの開催もままならないなか、バンドは〈意地の最後っ屁〉として、お別れと感謝を伝える展覧会〈Siamese Cats Farewell Exhibition〉を渋谷パルコのGALLERY Xで開催。そして、本日10月21日に最後の作品『大塚夏目藤村菅原』を2枚組のレコードでリリースした。
〈一方的にさよならって言われてもなー!〉ということで、今回は田中亮太と天野龍太郎の2人が、最初で最後のベスト・アルバム『大塚夏目藤村菅原』についてそれぞれの思いを綴る。 *Mikiki編集部
大塚夏目藤村菅原――迷う、立ちどまる、怯える、逃げることを歌ってくれた4人
大塚夏目藤村菅原――ライブにおけるメンバー4人の並びをそのままタイトルにしたシャムキャッツのベスト・アルバムを聴きながら、不思議な気持ちになっている。まず、すでにバンドは存在しない、ということ。特にこのコロナ禍、離れた家族にさえ会うこともままならない人が多いなかで発表された解散宣言には、いまだ実感がわかないところもあり、その不在をうまくのみこめないのだ。奇妙な形の魚の小骨のように、まだ僕の喉のなかにはシャムキャッツがひっかかっている。
さらに、怒られるのを承知で言うなら、〈ベスト盤を出せるほどシャムキャッツ売れてないじゃん〉という気持ちもある。もちろん、バンドのディスコグラフィーを見ると名曲の数は枚挙にいとまがない。とはいえ、本来ベスト・アルバムというものは、たとえばブルース・スプリングスティーンや奥田民生といった、一度トップにのぼりつめたアーティストが、そのキャリアを再定義するためにリリースするもの。新木場STUDIO COASTくらいのキャパでさえソールドアウトできないバンドが、はたして出すべきものなのか。LPのみでのリリースという本作は、いわば利益目的のファン・アイテムと言われても仕方がないだろう。まぁ買いましたけど。
大塚夏目藤村菅原――シャムキャッツのベスト――あたかも〈これがバンドの決定版〉とでも言わんばかりの佇まいにも違和感があるのかもしれない。なぜなら、シャムキャッツはその楽曲において、はっきりとした喜怒哀楽や極端なアゲサゲでなく、曖昧であやふやな心の動き、うつりゆくさなかの人と人との関係を描いてきたからだ。そして、これは断言するが、彼らは絶対に断言しなかった。
この4人は、迷うこと、立ち止まって物思いにふけること、怯えること、逃げることを決して否定することなく、むしろ日常において何よりも大切で尊さを持った営みとして歌ってきた。それは〈成功しなければいけない〉〈強くあらねばならない〉というマッチョイムズへの拒絶であり、だからこそ、シャムキャッツの音楽はか弱き者たちのサウンドラックたりえた。だって、人はそんなにたやすく変われたり、より良くなれたりするものではないから。
坂道みたいな日々を転がったり、逆風に苦笑いしながら歩いたり。シャムキャッツなき世界でも、なんてことなく人生は続いている。僕はたびたびこのレコードに針を落とし、大塚が夏目が藤村が菅原が、くるくると回るのを見るだろう。熟れることのなかった果実を、いつかもぎとるその日がくるまでは。 *田中亮太