Photo by 嶌村吉祥丸

地元である千葉の浦安で結成され、東京のロック・バンドとして常に走り続けてきたシャムキャッツが解散した。2019年にデビューから10周年を迎え、今年、2020年はメンバー4人――夏目知幸(ヴォーカル/ギター)、菅原慎一(ヴォーカル/ギター)、大塚智之(ベース)、藤村頼正(ドラムス)のソロ活動に充て、それをバンドにフィードバックさせる……はずだった。

解散の報を受け、彼らを長く見てきた存在であり、取材することも多かった田中亮太が筆を執った。シャムキャッツからもう新しい音楽が届けられないこと。彼らがもうオーディエンスの前で歌わないこと。そのことを惜しむのではなく、TETRA RECORDSなどを通してそれぞれの音楽を発信し、カルチャーに携わっていくという彼ら4人の未来に向けて、田中が綴る。 *Mikiki編集部


 

シャムキャッツが解散を発表した。昨年11月に開催した新木場STUDIO COASTでのワンマン以降、バンドは〈2020年はペースを落としつつ……〉といった態度を薄く表明しており、今年はそれぞれのソロも活発だったが、バンドとしてまったく動きのない状態でいることを気にしていたファンもいるかもしれない。個人的には、COASTでのライブのなかでメンバー4人とも未来のことをまったく話さなかった、ということがずっと心に残っていた。

昨日、解散のお知らせがバンドの主宰するレーベル、TETRA RECORDSからメールで届いたときは、やはりショックだった。〈あーやっぱりか……〉という気持ちとともに、悲しみを感じた。思えば、結果的に最後のアルバムになってしまった『Virgin Graffiti』(2018年)と、その次のEP『はなたば』(2019年)は音楽的に多彩すぎた。とっ散らかっていたとさえ言える。メンバーそれぞれがミュージシャンとして創造性を拡げていくなかで、シャムキャッツというロック・バンドがその接着剤たりえなくなっていたのだろう。高校生の頃に集まった4人は、いよいよそれぞれの道を歩みはじめていた。

 

僕はシャムキャッツのそこそこ古いファンだと自認しているが、実はデビュー・アルバム『はしけ』(2009年)をリアルタイムで聴いたわけではない。なので、彼らが当時O-nestに出ていたバンドの背中を追いかけていたり、池袋のミュージックオルグで頻繁にライブをやっていたりした頃のことはそこまで知らない。彼らの存在を知り、繋がったのは『はしけ』のあと。初のアルバムを出したもののまったく売れない……という最初の挫折を経て、よりインディペンデントな活動をすることでバンドとしての成長をめざしていた頃だった。

その過程で、シャムキャッツは自主制作のデモEPを定期的にリリースする。当時シンガー・ソングライターのゆーきゃんが働いていたSunrain Recordsのサイトで、これらのデモを知った僕は、自分が国内インディーのバイヤーを担当していたJET SETにもCDを卸してもらおうと、連絡したのだ。

やはり衝撃を受けたのは“”だった。〈Demo Single Series〉の第1弾に収録されたこの曲は、僕にとってUSインディーとUKインディーの理想的な融合に思えた。なにより〈何をしようが勝手だよ〉というやけっぱちな気持ちをアンセミックに歌えていることが、彼らを特別なバンドだと確信させた。その後、最終的に“渚”は正式にシングル・リリースされ、JET SETの制作で7インチを出させてもらった。あまりの他店からの受注数の少なさに、実はお蔵入りになりそうだったと、ここではじめて明かす。

以降のシャムキャッツとの思い出は、あまりに数が多く、そして個人的な体験とも分かちがたく結びついているため、ここで書ききることはできない。はじめて京都のnanoでライブを観たとき、アライグマのTシャツを着ていた菅原くんに〈君は新しい世代のギターヒーローになるね〉と伝えたこと。仙台のビジネス・ホテルの狭い部屋で、はじめて4人にインタビューをしたこと。タナソウとHomecomingsといた愛媛での明け方、夏目くんがいなくなっていたこと。福岡から東京に戻るバンドワゴンのなか、藤村くんが彼女のご両親に会いに行くと話してくれたこと。バンビは……なにかあったっけな、なにもないようでいっぱいある気がする。この人と一緒にいると妙に安心できるなという存在。

 

僕にとってシャムキャッツは、メンバーの1人1人を友人だと思える本当に数少ないバンドだった。自分の人生は彼らのストーリーと併走してきたように思える。それは特定の楽曲が、ある時期の自分を代表するサウンドトラックになっていたというより、むしろ2つの人生が遠くない位置にあり、それぞれが前へ進みながら、たまに少し距離が空いたり、また交差したりといったイメージが近い。

そして、シャムキャッツは、彼らのファンそれぞれがそういうふうに思える存在だったんだろうな、と想像する。シャムキャッツほど〈この4人で続ける〉ことをテーマに活動し、そのアティテュードを直接的に歌ってきたバンドはいないだろう。彼らのこれまでの道のりは、まったく平坦ではなく、ときに周囲の人からも〈まだ続けていられることが奇跡〉とさえ言われてきた。間違いなく彼らは強かった。だけど、多くの人間は彼らほど強くない。ゆえに、シャムキャッツは夢の続きを見ることをやめざるをえなかった同胞たちとの別れをたえず繰り返してきた。だからこそ、シャムキャッツは彼らのことも歌い続けてきた。

いったい誰が夢を持っていられようか。シャムキャッツは、多くの挫折や困難をボロボロになりながらくぐりぬけ、それでも音楽のなかでは笑い続けていたように思う。文字どおりインディペンデントであることを余儀なくされ続けてきた彼らは、地に足のついた徹底的にリアリスティックな活動をせざるをえなかった。その一方で、彼らは音楽においては徹頭徹尾ロマンティックであり、リスナーに今日を生きていく希望をもたらしてきた。だけど、決して浅はかな楽観は歌わなかった。

 

解散発表と同時にリリースがアナウンスされたベスト盤のタイトルは『大塚夏目藤村菅原』という。これは、ファンならすぐにおかわかりかと思うが、シャムキャッツのライブでの並びを表したものだ。とてつもなくチャーミングで、最高にかっこよかったステージ上の4人。彼らが一緒に立っている姿をもう観ることはないんだな、としみじみ思う。

今後もメンバーはそれぞれTETRAを通じて活動していくそうだ。いちファンとしては4人が緩やかに繋がっていくことは嬉しいし、そこに醸されるちょっとした未練がましさもまた彼ららしいなと思う。とても才能のある人たちなので、シャムキャッツでは歯がたたないくらいめちゃくちゃに成功してほしいと願う。そして菅原くん、解散に際してのコメントで〈まずは、このような結果になってしまいごめんなさい。ライブ、したかったです。〉と書いているけれど、謝らなくていいと思うよ。〈言わせておけばいい〉し、〈昨日とは違う道を探して〉いってほしい。すでに、あなたは歩いていっていると思うけれど。夏目くんは、また近いうちに踊ろうよ。藤村くんは例のお祝い、渡しに行きますね。バンビは、そのうちどこかで。

シャムキャッツ、おつかれさまでした、これまでありがとう、またいつか会いましょう。

2018年作『Virgin Graffiti』収録曲“完熟宣言”