絶望、欲望、希望――鮮烈に立ち現れては一瞬で消えゆくすべてを包み込む歌。
ファースト・アルバム『えん』は愚かでちっぽけな生命そのものを肯定する!!!

風呂敷きみたいな3人

 uminecosoundsの首謀者であり東京・ 幡ヶ谷のカレー屋、ウミネコカレーの店主としても知られる古里おさむ、元シャムキャッツの藤村頼正、藤村の大学時代の友人である禅宗の僧侶、樋口雄文によるロック・バンドが〈古里おさむと風呂敷き〉だ。2024年初頭に結成され、以降は配信などで楽曲を発表してきた彼らが、このたびファースト・アルバム『えん』をリリース。ミュージシャンとしてのキャリアも長い古里と藤村と異なり、樋口にとってはこれが初の本格的なバンド活動だという。

 「最初はバンドをやるとかまったく頭になく、仏教への関心から藤村くんと雄文くんと鎌倉の円覚寺に行ったんですけど、一緒にいるとすごく楽で、〈この3人ならバンドできるかも〉って感じたんです。バンドというのは各人の演奏を超えた何かだと思っていて、その点で雄文くんがしっくりくる。仮に3人が演奏する楽器を入れ替えても、このバンドならではのタイム感は変わらないんじゃないかな」(古里おさむ、ヴォーカル/ギター)。

 「おさむさん自身が本当に風呂敷きみたいな人で器が大きい。バンドでスタジオに入っても、とにかく完成までのスピードが早いんですよ。人のアイデアを受け入れるし、すごくやりやすい」(藤村頼正、ドラムス)。

古里おさむと風呂敷き 『えん』 only in dreams(2025)

 アルバム『えん』の構想自体は、風呂敷きの結成前から古里にはあったそうだ。

 「uminecosoundsとして2020年に『味噌』というアルバムを出したんですけど、そのあと〈次に何やろうかな〉と思った時点で、ざっくりとした作品像が浮かびました。でも、なんとなくuminecosoundsで作るアルバムじゃないなとも感じていたんです。もちろん、そっちで作っても良い作品にはできたと思うんですけど、uminecosoundsってプライヴェートで遊んだりとかはあまりしないバンドなんです。なんとなく『えん』はそういうメンバーと作るのは違う気がしたんです」(古里)。

 「おさむさんは、プロのミュージシャンじゃない人だからこそ出せる良さを『えん』に入れたい、みたいに言われていましたね」(樋口雄文、ベース)

 「宮沢賢治の言う〈農民芸術〉みたいなことです。音楽以外の仕事を毎日している人だからこそやれる音楽を作品が求めている気がしました。制作自体にはプロのミュージシャンにも参加してもらっているけど、軸はそうじゃないなと」(古里)。

 今回の『えん』では、リリース元のonly in dreamsを主宰する後藤正文、Turntable Filmsの井上陽介、多方面で活躍する岡田拓郎らも新作に貢献。岡田はuminecosoundsでも音源化されていた“まちのあかり”と“犬の遠吠え”、後藤は“夕焼け”“ありえないね”“流水”の3曲でそれぞれギターとミックスを担当している。さらに井上が“⼣焼け”“焚⽕”“ぶらりと”“ありえないね”の4曲でギターを重ねた。

 「Pヴァイン時代のuminecosoundsが森は生きていると同じ担当で、初期の彼らと対バンしたことがあったんですけど、そのときに“まちのあかり”を演奏したら、岡田くんが〈あれはすごい曲です〉と絶賛してくれて。それを覚えていて、風呂敷きで再録音したいとなったとき、彼に参加してほしいと思ったんです」(古里)。

 uminecosoundsでの録音版よりスケール感とディープさを増した“まちのあかり”、ティーンエイジ・ファンクラブ的なギター・ポップ“犬の遠吠え”の2曲は、岡田ならではの現代性とヴィンテージ感の共存した音作りが特徴。前者では、終盤の凄味と艶を併せ持つギター・サウンドも圧巻だ。

 「“まちのあかり”でメンバーや岡田くんにイメージとして伝えたのは、歌舞伎町の風景でした。昔、僕は新宿の草枕というカレー屋で働いていて、毎日朝と夜の歌舞伎町を通っていたんです。浮浪者が立ったまま排便していたり、血だらけで倒れている人がいたり、正直すごいんですよ。いろんな人がいた。そのほとんどが敗者か勝者かでいったら敗者なんですけど、そこにはさまざまな人生が入り混じっていて。その風景を混沌のまま包み込む曲を作りたいと思って出来たものなんです。だから、最後はぐちゃぐちゃにしたかった」(古里)。