田中亮太「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。まずは今週話題のニュースから……といきたいところですが、あんまり大きなトピックがない一週間でしたね」

天野龍太郎「たしかに。いくつか、新作のアナウンスがありましたね。ドレイクのニュー・アルバム『Certified Lover Boy』が2021年1月にリリースされるとか、アークティック・モンキーズがライブ・アルバムを出すとか。あと、『SIGN』を発表したばかりのオウテカが、新作『PLUS』をサプライズ・リリースしました。わくわくしたのは、キッド・カディの新作『Man On The Moon III』がようやく発表されるかも、というニュースです」

田中「僕は、ジーズ・ニュー・ピューリタンズのセカンド・アルバム『Hidden』(2010年)がリリースから10周年を記念してリイシューされる、というニュースに〈おっ!〉となりましたよ」

天野「そうですか……。今週はアリアナ・グランデ『positions』を筆頭に話題作がたくさん発表されたので、ぜひこちらの記事でチェックしてください。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」

 

1. Busta Rhymes feat. Kendrick Lamar “Look Over Your Shoulder”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉は、バスタ・ライムズがケンドリック・ラマーをフィーチャーした“Look Over Your Shoulder”! ものすごく強力なタッグですね。ジャクソン5“I’ll Be There”(70年)をサンプリングしていることも話題です。マイケルの〈Just look over your shoulder, honey〉というシャウトが印象的ですが、全編で同曲からの声ネタが使われています」

田中「ジャクソン5は多くのヒップホップ・ソングでネタに使われていますが、僕はやっぱり“I Want You Back”を使ったジェイ・Z “Izzo (H.O.V.A.)”(2001年)を真っ先に思い浮かべちゃいました。それにしても、この“Look Over Your Shoulder”はサンプリングの切り貼りと無骨なブレイクビーツが王道ブーンバップ調ですね。バスタが90年代初頭に在籍していたラップ・グループ、リーダーズ・オブ・ザ・ニュースクールの未発表曲と言われても信じちゃいそう」

天野「例がいちいち古いんですけど(苦笑)! 実はこれ、2018年にケンドリック・ラマ―の楽曲としてリークされたものがもとになっているんだとか。サンプリングの権利関係をクリアするのが難しいので、オフィシャル・リリースはないだろうと言われていたのですが、このたびめでたく日の目を見ました! 本日10月30日にリリースされたバスタの新作『Extinction Level Event 2: The Wrath Of God』に収録されています」

田中「なるほどー。そんな経緯があったんですね。ちなみに、最初のヴァースをケンドリック、2番目をバスタが担当していますが、両者とも〈ラッパーとして負けるものか〉という気合が入りまくったフロウで、めちゃくちゃかっこいい。矢継ぎ早に単語を詰め込んでいくスタイルは共通しているだけに、2人の個性がより際立っていますね」

天野「曲名どおり、2人は過去を振り返っています。ケンドリックはリリックを書きはじめたシーンを描写していて、バスタは〈仲間たちは俺とラップするのを怖がった〉〈ブラック・ヒストリーのキングのひとりと俺を認めるまで、やつらとのラップ・ゲームは火の海だった〉とボースティングをカマしています。2人ともかっこいい!」

田中「淡々と言葉を紡いでいきながらソウルフルに熱を高めていくケンドリック、トリッキーなタイム感で耳を飽きさせないバスタ。本当に甲乙つけがたい、白熱した勝負です。あなたはどちらがお好みですか?」

 

2. Black Country, New Road “Science Fair”

天野「〈SOTW〉はブラック・カントリー・ニュー・ロードの“Science Fair”です! ……じゃなかった。BCNRの新曲は2位でした。僕は1位に推したんですけどね!」

田中「いや~……。僕はぜんぜんピンとこなくて(笑)。僕が好きじゃない〈小難しそうな音楽〉に見事に当てはまってしまっています。前衛的な志向が音楽の快楽に結びついてないように感じて、冷めちゃうんですよ」

天野「亮太さんは〈頭のよさそうな音楽が好きじゃない〉ってよく言いますもんね。でも、BCNRは頭でっかちじゃなくて、かなり衝動やエモーションで音楽をやっているバンドじゃないですか。っていうか、知的なアーティストが生み出す音楽にもいいものはたくさんありますし、音楽に快楽ばっかりを求めるのもどうかと思いますよ!」

田中「はい……。なんで説教されているのかわかりませんが、BCNRの話題に戻りましょう。彼らは英ケンブリッジの出身の7人組で、ロンドンで活動しているバンドです。アイドルズやブラック・ミディら、エッジーなロック・バンドがひしめくロンドンのシーンに現れた新星、というわけですね」

天野「そうです。重要人物であるエンジニア/プロデューサーのダン・キャリー(Dan Carey)がスピーディー・ワンダーグラウンド(Speedy Wunderground)というレーベルを運営していて、BCNRはそこからのシングル“Athen’s, France”で2019年にデビューしました。同年にロンドンのローカル・レーベル、ブランク・エディションズ(Blank Editions)からセカンド・シングル“Sunglasses”をリリースしています」

田中「“Sunglasses”は、2019年のベスト・ソングにタワーレコード オンラインの諏訪貴則さんが選んでいましたね」

天野「僕は諏訪さんからBCNRのことを教えてもらったんです。東京・原宿のレコード・ショップ、BIG LOVEは以前から注目していたみたいですね。BCNRの魅力は長尺の楽曲をビルド・アップするように演奏するところで、ヒリヒリした緊張感のある音を積み上げて、ブレイキング・ポイントで爆発するところがかっこいいと思います。初期のアーケイド・ファイアやブロークン・ソーシャル・シーンを思わせますし、ポスト・ロックっぽくもあるのですが、BCNRにはポスト・パンク的な暗鬱さと焦燥感がありますよね。フロントマンのアイザック・ウッドの低い歌声からは、ジョイ・ディヴィジョンのイアン・カーティスを思い出します。サックスやヴァイオリンといった、普通のロック・バンドでは聴けない音が暴れているのもクールです」

田中「でも、ピンとこないんですよねー」

天野「もう! あと、この“Science Fair”は『Starless And Bible Black』~『Red』(いずれも74年)の頃のキング・クリムゾンを思わせるサウンドなんです。ギターの音色とか、特にそう。そういうところも、実に英国のバンドらしくて好きですね。最近のUKロックに足りなかったものを持っているというか。とにかく、僕はBCNRにめちゃくちゃ期待しています。なので、読者のみなさんもぜひ注目してください! 2021年2月5日(金)にリリースされるデビュー・アルバム『For the first time』、超楽しみです」

 

3. Queen Naija feat. Mulatto “Bitter”

天野「3位は、クイーン・ナイジャがムラートをフィーチャーした“Bitter”。当連載初登場のクイーン・ナイジャは、95年生まれの現在25歳。新進気鋭のR&Bシンガーです。生まれは音楽都市の米デトロイトですね。2017年にインディペンデントでリリースした“Medicine”がYouTubeなどでヴァイラル・ヒットして、頭角を現しました」

田中「この“Bitter”は、クイーン・ナイジャが本日リリースしたデビュー・アルバム『missunderstood』からのシングルです。客演しているムラートはアトランタの若手ラッパーで、プロデューサーはシカゴのD・ブルックス・エクスクルーシヴ(D. Brooks Exclusive)。西海岸っぽいビートですね」

天野「スムーズですよね。ぶっちゃけ、DJマスタードの曲っぽいかも(笑)。リリックは不真面目な男を〈あなたは私の愛に不相応〉と切り捨てるもので、〈おいしいケーキは甘すぎてビターにはならない/力を持っているかわいい女の子こそが勝者〉と、女性らしさを歌い上げる内容。男に振り回されて女が〈ビター〉になる必要なんてない、ということでしょうね。ムラートも〈ボス・ビッチはビターにならない〉とラップしています。というわけでクイーン・ナイジャ、注目の才能です!」

 

4. Kevin Morby “US Mail”

天野「続いて、ケヴィン・モービーです。彼の新曲“US Mail”を4位に選びました。毎回候補には挙がっていたのですが、〈PSN〉でモービーを取り上げるのは意外にも初めて。なのでプロフィールを簡単に紹介しておくと、インディー・バンドのウッズ(Woods)の元ベーシストとしても知られるシンガー・ソングライターです。フォーキーで滋味あふれる歌が魅力で、日本のリスナーからも人気がありますよね。今年2月に来日公演が予定されていましたが、新型コロナの影響で惜しくも中止に……」

田中「これまで6作のソロ・アルバムを発表していて、新作『Sundowner』をデッド・オーシャンズ(Dead Oceans)から10月にリリースしたばかり。『Sundowner』も柔らかなメランコリアをたたえた傑作だったので、やっと彼を紹介できてうれしいですね」

天野「そうですね。で、この“US Mail”は明確なメッセージを持った一曲です。タイトルのとおり、新型コロナのパンデミック以降、郵便物が激減したことによって経営難を迎えている米国の郵便局、アメリカ合衆国郵便公社(USPS)をサポートしようと呼びかけています。下院ではUSPSに助成金を回す法案がすでに可決されたそうなのですが、ドナルド・トランプ大統領が反対しているため、上院の審議を通過するのは難しいのだとか。この問題は、11月3日(火)に投票日を迎える大統領選挙にも繋がっています。というのも、トランプは〈郵便投票に問題がある〉なんて妄言を投稿して、Twitterから規制を食らっています。トランプは郵便局と郵便投票を敵視しているわけですね」

田中「ひどい……。歌詞は、病院に入院しているお母さんが手紙を通じて娘と気持ちを伝えあう、という内容。〈あなたが助けをほしいとき 私はそばにいないかもしれない/でも怖がらないで〉というフレーズが泣けます。このコロナ禍においては、多くの人が会いたい人に思うように会えないという経験を多かれ少なかれしていると思うので、リスナーそれぞれが自分の体験や感情を投影できる曲ですよね」

天野「なお、カヴァー・アートにはモービーの私書箱の番号が明記されていて、〈僕に手紙を送ってね〉と言っています。僕もモービーに一筆したためたい! 日本語で手紙を書くのもしばらくやっていないですし、テレワークになって以降しばらく会えていない亮太さんに送って、驚かせてみようかな。最近は多くのミュージシャンが社会貢献に取り組んでいますが、今回のモービーの活動はすごく素敵ですね」

 

5. Pa Salieu “Block Boy”

天野「さて。今週最後の一曲です。パ・サリュの“Block Boy”。パ・サリュはイングランド・コヴェントリーのガンビア系MCで、The FaceやThe FADERが大々的に取り上げるなど、英国ではライジング・スターとして注目されています」

田中「コヴェントリーといえば、スペシャルズの出身地! パ・サリュは先日、Mixmagの表紙になっていましたし、かなり話題になっているみたいですね。先週天野くんが言っていた、アフロバッシュメント(Afrobashment)、アフロスウィング(Afroswing)の立役者であるJ・ハスと比較されることも多い才能です」

天野「本人は〈J・ハスと似ているように見える? 俺はそうは思わないけど〉とThe FADERに語っていますね(笑)」

田中「でも、たしかにJ・ハスのようなアフロスウィングの曲も多く発表しているようで、この“Block Boy”もその例に漏れず……。その一方で、グライムやドリル、トラップを自由に乗りこなすあたりに、UKラップの新世代感を感じます」

天野「プロデューサーにクウェス(Kwes)などの3人がクレジットされているこの曲は、音楽的にかなり豊かで複雑なんですよね。アフロスウィングのビート、ダンスホール由来のフロウ、さらにトラップのハイハットやサブ・ベース、UKベースっぽいシンセサイザーの音色などが絡まり合っています。とてもダークでヒリヒリしていて、なおかつフレッシュで、めちゃくちゃかっこいい! アフロスウィングの最新型、という感じです」

田中「東ロンドンのMC、バックロード・ジー(Backroad Gee)とのシングル“My Family”を発表した際に、パ・サリュが作ったプレイリストを聴くと、彼を中心としてシーンが見えてきそう。これからJ・ハスのようにビッグになりそうな期待の星ですね!」