©Dave Free

2024年を圧倒的に勝ち抜き、凱歌を揚げた2025年――現役最強のラッパーによる当代最高のアルバム『GNX』がここにきて日本盤で登場! 世界を制した怒涛の痛快作をより深く味わってみよう!

凄まじい無双ぶり

 ケンドリック・ラマーをフィーチャーした“Like That”収録のフューチャー&メトロ・ブーミンのコラボ・アルバム『WE DON’T TRUST YOU』が2024年3月にリリースされてからちょうど約1年が経過したが、そこから一年間のケンドリックの凄まじい無双ぶりはポップ・ミュージック史に深く刻まれることになるだろう。

 2022年リリースの前作『Mr. Morale & The Big Steppers』を最後に所属していた古巣レーベルのトップ・ドッグ・エンターテインメント(TDE)を離れ、旧友であるデイヴ・フリーと共にローンチ済みのpgLangを本格始動させたケンドリック。次なる動きにはシーン内外から大きな注目が集まっていたのだが、やや意外な形でその時は訪れることとなる。2023年に発表されたドレイクとJ・コールのコラボ曲“First Person Shooter”でケンドリックについて言及したコールのラインに対し、ケンドリックが反応したのが前述“Like That”でのこと。同曲で両者をディスしたケンドリックだが以前もビッグ・ショーンの楽曲“Control”(2013年)の客演ヴァースでその両名を含む多数の同業者に対して愛あるディスをしていただけに、当初はそこまで火種が大きくなるとは思っていなかったファンもいたのではないだろうか。

実際かつてはケンドリックとの共作リリースも噂されていたコールが“7 Minutes Drill”でアンサーするも、すぐに同曲を削除してケンドリックとの抗争から早々と離脱宣言していた。しかしその後に発表されたドレイクの挑発的なアンサー曲によって雲行きは一気に怪しくなり、ケンドリックも本気モードへシフトチェンジ。短い期間でいくつかの楽曲を応戦し合ってヒートアップした末に放たれたケンドリックによる会心の一撃“Not Like Us”(プロデュースは同郷コンプトン出身の人気プロデューサー、マスタード)での凄惨な内容とビッグ・ヒットにより、このヒップホップ史に残るビーフはケンドリック優勢という意見が多数を占めるなかでひとまず沈静化していく。

 “Not Like Us”でウェストコーストのヒップホップを強くレプリゼントしたケンドリックは2024年6月に地元LAでイベント〈The Pop Out: Ken & Friends〉を開催。ケンドリックとスクールボーイQ、ジェイ・ロック、アブ・ソウルによるユニット=ブラック・ヒッピーのリユニオンやYG、タイラー・ザ・クリエイター、ドム・ケネディらミックステープ・エラからの盟友たちの出演(故ニプシー・ハッスルのトリビュートもあり)、メンターであるドクター・ドレーの降臨、地元の若手やニューカマーたちのフックアップなどで大いに沸き、フィナーレの“Not Like Us”のパフォーマンス(5回連続で披露!)後には出演者や関係者だけでなく敵対するカラーギャングのメンバーたちが同じステージに集結して友好な関係をアピールしたことも大きな話題となり、ウェストコースト・シーンの結束の強さをアピールした。同年9月には翌年にニューオーリンズで開催されるNFLスーパーボウルのハーフタイム・ショーにおけるケンドリックのパフォーマンスがアナウンスされる。