〈永遠のガールズ・バンド〉つしまみれが立て続けに2作品をリリースした。一枚は昨年12月14日のアニヴァーサリー・ライブを収録したオフィシャル通販限定販売の25曲入りDVD「つしまみれ 20周年記念ワンマン完全版」、もう一枚は5曲入りの新録CD『ラッキー』だ。前者はコロナ禍直前に代表曲群を披露した映像、後者はコロナ禍のなかで作ったミニ・アルバムで、つしまみれの不屈の現在進行形が楽しめる。
活動21年目を迎え、オリジナル・アルバムだけでも10枚を超える彼女たちだけに、〈どれから聴けばいいかわからない〉と嘆いている若いリスナーもいるだろう。というわけで今回は、彼女たちの魅力が特に伝わってくる新旧10曲をメンバーに選んでもらい、その時々の心持やエピソードを語ってもらった。
日常をそのまま曲に
1. おちゃっすか
『創造妊娠』(2004年)収録
やよい(ベース/コーラス)「大学生の時、まだ〈曲作るってどんな感じだろう〉っていうぐらいのうちに作った曲。日本でもミクスチャー・バンドみたいなのがけっこう流行っていた時で、たぶんそういうふうにしたかったんじゃないかな(笑)。別にスカの曲を作りたいとか思ってなかったような。でもお茶飲みながらの会話の中で、チャッチャッチャッていうスカの曲を作ろうって。日常をそのまま曲にする感じでした」
まり(ヴォーカル/ギター)「だけどAメロとかはズズッズン!って重いし、当時はヘヴィーな音楽が好きだったんだよね。レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンとかリンプ(・ビズキット)とかが大学のサークルで流行ってたんですよ。デス声は、スリップノットからの影響かな。歌の内容は、〈彼氏が家に来たら大変だぞ〉っていう」
――ファースト・アルバムの『創造妊娠』以前に、結成翌年の2000年に出した最初の音源である3曲入りの自主制作CDR作品『ハンバーガーセット』で、早々と発表していた曲ですね。既にコミカルな感じもあるし、色々混ざっている感じはつしまみれにずっとあります。
まり「そうですね。初期の一番人気の曲になって。アメリカ人ウケがすごく良かった。海外でやった時にもすごい手ごたえのある曲で」
2. 脳みそショートケーキ
『脳みそショートケーキ』(2007年)収録
まり「これは合宿で作りました。(東京の)高尾の森わくわくビレッジっていう、廃校になった高校かなんかを宿泊施設にしている安価の合宿所みたいな所があって。そこにバンドが音を出せる〈音楽室〉ってスペースがあったんです。やっぱ曲作りは合宿だ!ということで、普通のスタジオでは生まれてこないものを探しに行きました。たぶん二泊三日ぐらいだったんですけど。3人で仲良く旅行気分で行き、スタジオにも入って」
やよい「私、『フレーズができたー!』とバンドに持って行った記憶がある。で、帰りの電車の中で、まりが『歌詞できたー!』って(笑)」
まり「(JRの)中央線で高尾から帰りながら歌詞を考えていたんですけど、ノートに〈脳みそショートケーキ召し上がれ〉っていう一節が書けたら、すらすらすらすらと一気に書き終えることがてきて。(歌詞が)降りてきた感がありました」
――歌詞のモチーフは?
まり「モチーフはなんにも……ダジャレでしかないですよね(笑)。でもこの歌詞の、連想ゲーム的につながっていく感じのは、たぶん川本真琴さんからの影響だと思う。言葉を詰め込みまくっているけどちゃんとメロディアスに歌っている人がすごく好きだったので。川本真琴のファースト・アルバム(97年作『川本真琴』)に入っている“愛の才能”とか“DNA”とか“1/2”とか、全部ずーっと息継ぎなくいくのが好きで。でも……すぐふざけてしまったりするので、(この曲には)それがよく表れてますね(笑)。あとChappieの“Welcoming Morning”(99年)みたいな、ずーっと抑揚なく歌い続ける曲を、やりたいなと思ってました」
3. エアコンのリモコン
『脳みそショートケーキ』(2007年)収録/ベスト・アルバム『つしまみれまみれ』(2014年)で再録
やよい「スタジオにあるエアコンの品番が1079云々でそれをふまえて〈1拍弾いて、0は休符無し、次は7拍……〉とかベースのフレーズを作ったんです(笑)。そこにまりがまったく別で考えてきたメロディーを合わせた」
まり「私が鼻歌で〈エアーコントロール/リモートコントロール〉と歌いながら、『これやりたい!』って言った気が」
やよい「『ベース・ラインとくっつかないかもしれないけど、雰囲気だけ合うんじゃないか』って」
まいこ(ドラムス/コーラス)「今と曲の作り方があんまり変わってないのが面白い(笑)」
まり「めちゃくちゃダークなベース・ラインだけを聴くと暗黒世界なんですけど(笑)、そこに〈エアーコントロール/リモートコントロール〉という、あさっての方向の歌が上手くハマってよかったな~って思いました」
――以降も時々披露されるまりさんのケイト・ブッシュっぽい伸びやかな歌唱も聴けますね。