PR
コラム

吉澤嘉代子が迎えた変化のとき。魔女修行から始まった彼女の物語をいま改めて振り返る

吉澤嘉代子『新・魔女図鑑』“サービスエリア”

吉澤嘉代子が迎えた変化のとき。魔女修行から始まった彼女の物語をいま改めて振り返る

妄想から広がる奇想天外な舞台設定から等身大の日常まで、さまざまな音世界のなかで変身を繰り返した主人公。魔女修行から始まった彼女の物語は、いま、新たな変化のときを迎えていて──

転身していく少女性

 昔、工場の屋上に秘密の部屋を作って、魔女になるための修行をしている女の子がいた。頭の中は変身願望や夢でいっぱい。空を飛ぶことはできなかったものの、やがて彼女は〈音楽〉という魔法を使いはじめる。

 シンガー・ソングライター、吉澤嘉代子がデビューしたのは2013年のこと。これまで彼女は5枚のミニ・アルバムと4枚のフル・アルバムを発表し、作品ごとに物語性豊かな歌の世界を生み出してきた。デビュー前から曲を作ってストックし、3枚分のアルバムの構想がすでに頭の中にあったというから驚きだ。そんな彼女にとって初めてのコンピ『新・魔女図鑑』がリリースされる。そこで本作に収録された曲をもとにして、当時のインタヴューの発言も交えながら彼女のこれまでを振り返ってみよう。

 吉澤は2013年にインディー盤の『魔女図鑑』をリリースしてシーンに登場したが、そこに収録された6曲は、翌年のメジャー・デビュー以降、〈リメイク〉という形で新たな命を吹き込まれ、アルバムに収録されてきた。『新・魔女図鑑』のオープニングを飾るのは、そのなかでこれまでに新録されていなかった最後の曲“らりるれりん ”だ。この曲はデビュー前にコンテストに出場して優勝した際に歌った記念すべき曲で、60年代ポップスのようなオリジナル曲のサウンドをアコースティックなアレンジにリメイク。デビュー時より表現力を増した歌声で、片思いしている相手からの電話を待つ切ない乙女心を歌っている。

 60年代ポップスのテイストは吉澤の初期作品の特徴のひとつで、メジャー初のミニ・アルバム『変身少女』(2014年)に収録された“未成年の主張”や“美少女”からは、彼女がリスペクトする大瀧詠一や山下達郎からの影響も感じられる。『変身少女』は曲ごとに6人のヒロインになりきって歌うガーリーな作品だったが、セカンド・ミニ・アルバム『幻倶楽部』(2014年)は、本人いわく「おどろおどしさや切なさも盛り込んでキャラが立った曲が並んだアルバム」。なかでも異彩を放っているのが、ムダ毛を題材にした“ケケケ”だ。戦隊モノの主題歌をイメージしたという勇ましいサウンドで、ひたすら〈毛〉について歌う。こういうノヴェルティー・ソングのような曲を、キュートに聴かせることができるのが〈吉澤ワールド〉だ。

 記念すべきファースト・フル・アルバム『箒星図鑑』(2015年)のコンセプトは〈少女時代〉。「子供の頃は生き辛くて。あの頃のすべては、今こうして曲を書くためだったんだって思うことで、子供の頃の自分を肯定したいと思っているんです」と当時彼女は語っていた。そんななか、〈魔女の宅急便で泣いた 13歳の夏には戻れないことを知る〉と歌われる“ストッキング”では、大人の社会に踏み出したヒロインの葛藤が歌われる。また、『魔女図鑑』に収録されていた“泣き虫ジュゴン”は、21歳の時に17歳の自分に向けて歌った歌。それを改めて25歳で新録することで、彼女は自分の少女時代とふたたび向き合った。

 そんなふうに、これまで以上にパーソナルな面が反映された『箒星図鑑』に続くミニ・アルバム『秘密公園』(2015年)は全曲がラヴソング。「ガツンとくるような王道なポップスが作りたかった」そうだが、アルバムのオープニングを飾った“綺麗”は、ストリングス、ホーン、ハープなどさまざまな楽器をフィーチャーした煌びやかなサウンドで、まるで思い切りオシャレを楽しんでいるような昂揚感に満ちている。

 そして、セカンド・フル・アルバム『東京絶景』(2016年)のテーマが〈日常〉なのは、夢見る少女が大人になったから、というわけではなく、デビュー前からセカンド・アルバムのテーマとして考えていたらしい。オープニング曲“movie”は、彼女が〈魔女修行〉をしていた時の相棒だった飼い犬、ウィンディを看取った時の思い出をもとにした曲。「〈誰かに守られている〉という感覚が、いつか〈誰かを守りたい〉という感覚に変わっていく。その眼差しの連鎖を描いた」というこの曲を、吉澤は『箒星図鑑』と『東京絶景』を繋ぐ曲だと語っていた。また。『魔女図鑑』に収録していた“化粧落とし”の新録にはマーティ・フリードマンが参加してメタリックなギターを弾きまくり、“東京絶景”では曽我部恵一がアコースティック・ギターを弾いたりと、多彩なゲストが参加。なかでも、“東京絶景”は上京してきた若者の日常の風景をフォーキーなメロディーで切り取って、その等身大の描写がドラマ性の強い吉澤の歌のなかで新鮮だった。

TOWER DOORS