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『POCKET MUSIC』リマスター盤のスケール・アップした迫力ある音

続けて2曲目の“ポケット・ミュージック”を聴いたあと、主役のリマスター盤にバトン・タッチ。同じ“土曜日の恋人”と“ポケット・ミュージック”を聴いてみましょう。

山下達郎 『POCKET MUSIC (2020 Remaster)』 ワーナー(2020)

……一音目から、かなり大迫力! ぐっとスケール・アップした音像が壁のようで、音が全身に覆い被さってくる感覚をおぼえます。オリジナル盤の音が、ずいぶんすっきりとしたものに感じてしまいました。

「音圧がぜんぜんちがう! あと、デジタル臭さがないですね」と言う桑原さん。新宿店副店長の村越辰哉さんは、「でも、こうやって聴いてみると、もともとアナログっぽい音じゃないんですね。アナログに期待する音とちょっとちがう感じ」と感想をもらしました。

“ポケット・ミュージック”へと針が進むと、艶やかに、きらびやかに響くイントロのアコースティック・ギターの音に思わずうっとり。リマスター盤を聴いて、4人は感想を語り合っています。

「アコギの音がめちゃくちゃいいですね。全体的な音圧が上がっているから、音が増えて重なるとちょっとわかりづらくなりますが、音数が少ないところではリマスターの良さが伝わってくる」(田中さん)。「“土曜日の恋人”は、ちょっと音が飽和していますからね。ストリートに反響しているようなイメージが浮かびます」(村越さん)。「繊細さを抑えて、力強さを強調していますね。オリジナル盤は〈寒い夏〉みたいなイメージがあったけど、リマスターはもっと広々としていて開放的」(桑原さん)。「各楽器が前面に出て鳴っているから、情報量がすごいですね」(松本さん)。

リマスター盤は、グルーヴをよりパワフルに響かせています。松本さんによれば、「キーボーディストの難波弘之さんが“THE WAR SONG”についてFacebookに『ベースの音が、リハやライブの時と同じ、コーキのゴリゴリした音になりましたね』と書いていました」とのこと。たしかに、ベースの音が生々しい。「鳴り物(パーカッション)がすごく前に出ていて、自宅のシステムでは聴けなかった音が聴けますね。グルーヴ感がぜんぜんちがう」と田中さん。

 

『僕の中の少年』リマスター盤の映える音

続いて、『僕の中の少年』のオリジナル盤を試聴。桑原さんのお気に入りは、「“新(ネオ)・東京ラプソディー”ですね。『POCKET MUSIC』で山下さんの新しい世界にハマったから、それ以前の路線の“踊ろよ、フィッシュ”にはすこし違和感を感じました」。

桑原シローさんが持参してくださった『僕の中の少年』オリジナル盤。現在、中古市場ではなかなか高価な一枚

印象的なシンセサイザー・リフで幕開けする“新(ネオ)・東京ラプソディー”。リマスター盤にチェンジして試聴してみると、これまたパワフルな音が、ぐっと目の前に迫ってくるかのように響きます。

山下達郎 『僕の中の少年 (2020 Remaster)』 ワーナー(2020)

『POCKET MUSIC』よりもデジタル・サウンドが中心になっているからか、リマスターによる音の刷新はさらに効果的に感じられます。「オリジナルはほど良い感じですが、リマスターは迫力がありますね」と語る村越さん。

ここで、カートリッジを田中さんが持参したNAGAOKAの〈DJ-03D〉に交換してみます。

「樽屋より音圧はちょっと落ちましたね」(田中さん)。「でも、エコーの過剰さがすこし減って、聴きやすくなりましたよ」(村越さん)。

NAGAOKAのカートリッジ〈DJ-03D〉。田中学さんの私物

A面2曲目はバラード“GET BACK IN LOVE”。

「この曲は当時、ドラマ(『海岸物語 昔みたいに…』)の主題歌で、どうもその記憶とセットになっています(笑)。ちょっと歌謡曲っぽさが強いですね」(桑原さん)。「もともとマーチン(鈴木雅之)に提供する曲として書いていたそうですね。そのせいじゃないでしょうか」(松本さん)。

たしかに、これは鈴木雅之さんが歌ってもハマりそうな曲調です。そんな印象もリマスター盤で聴いてみると変わったようで、桑原さんは「甘さが減ってパワフル。オリジナル盤のほうが、テンポが遅く感じるほど」と言います。

そして、オリジナル盤ではA面5曲目、リマスター盤ではB面3曲目の“踊ろよフィッシュ”へ。リマスター盤は音の分離がかなり明瞭。パーカッションのフィルインやウィンド・チャイムの音がクリアに、力強くフロアに響きわたりました。

「リマスターの“踊ろよフィッシュ”は、かなり映える音になっていますね! これも金物(パーカッション)が前に出ているように感じます」(田中さん)。「特にベースが、まったくちがいますね」(村越さん)。「これはすごい! オリジナルとリマスターとでは、同じ音源をスピーカーで聴いたときとイヤホンで聴いたときくらいちがう。リマスターはかなり明るい音ですね」(松本さん)。

『僕の中の少年 (2020 Remaster)』収録曲“蒼氓(そうぼう)”“踊ろよ、フィッシュ”

次に聴き比べてみたのは、“蒼氓(そうぼう)”。ゴスペル調のバラードで、コーラスに竹内まりやさんと桑田佳祐さん・原由子さん夫妻が参加していることで知られています。「リマスターでは桑田さんの存在感をどれくらい感じられるか……」と語る松本さん。

「やっぱり、リマスターでは桑田さん感が出ていますね(笑)」(松本さん)。「リマスターの“蒼氓”はかなりいいですね! 伸びやかです」(田中さん)。「いいなあ。まるで、ライブで聴いているようです。このままメドレーで“People Get Ready”のカヴァーに繋がっていきそう」(村越さん)。