各種ストリーミング・サービスでのフックアップや、メンバーのモデル活動などで注目を得ている5人組が放つ初の全国流通EP。浮ついたシンセやチョッパー・ベースが飛び交う絶妙にいなたいミクスチャー・ロックを展開する一方で、ケイトラナダあたりのアーバンなトラックを人力に消化したような楽曲も織り込む懐の深さがおもしろい。アツすぎるセッションを活かしたアレンジも個性的で、このクールかつ荒削りな音はクセになりそう。
〈ストラクチャーデッキ〉とは、トレーディングカードゲーム(TCG)における〈構築済みデッキ(デッキとはカードのセット)〉のこと。要するに最初からゲームを遊ぶために必要なカードがすべて揃っていて、これさえ買えばすぐにゲームで遊べる商品のことで、初心者向けのものもあれば、大会でチャンピオンが使用したデッキがそのまま商品になっているものもある。そこからカードを入れ替えて、自己流の最強デッキを作るのもアリだ。
……などとTCGの話はどうでもよいのだが、何が言いたいかというと、つまりこのEPは〈これさえ買えばすぐにゲームで遊べるよ〉ってこと。よくアーティストは〈名刺代わりの1枚〉なんて言うけど、名刺じゃカードゲームは遊べない。それほどまでに遊べる6つの最強カードが揃っているというわけ。
まずは渋い展開とアッパーなサビがノリノリのファンキーな攻撃系カード“Page”で先制攻撃を決め、次は口早ラップにスラップ・ベース&変態キーボードのソロが鬼かっけえ効果系カード“Dart”でその強さを増幅。続く怪しげ&ダーク&ちょっぴり切ない魔法系カード“Finch”で聴く者を罠にはめたかと思うと、ヴォーカル内田怜央のファルセットが美しいほっこり魔法系カード“risk”や、スタジオ・セッションをそのまま収めたようなエネルギー系カード“marmalade”で今度は聴く者を心地良くさせていく。と、油断していると、超ノリノリのダンス・ファンク攻撃系カード“HORN”で5人の歌唱&ラップ&演奏スキルの高さに度肝を抜かれる。どの曲も耳馴染みとノリは抜群なれど一癖も二癖もある、まさにKroi初心者でもこれから遊ぶのにピッタリの最強カードたちだ。
じゃあ〈遊ぶ〉って何だろうな? もちろん家や散歩やドライブのBGMとしてただ聴くのもいいけど、彼らがよく言っているのが〈聴く人を躍らせたい〉ということ。嫌でもちょっとリズムを刻んじゃうような曲に身を任せて踊って遊ぶのはいかがだろう。それからヴォーカル内田が言っているのが、リリックに隠されたテーマを読み取ってほしいということ。テーマを読み取るなんて小難しいことはしなくても、曲を聴いてちょっと風景を思い浮かべるとか妄想するとかでもよし。きっと聴く人のイマジネーションを刺激するようなリリックが詰まっていると思う(内田いわく〈その人なりの解釈を聞きたい〉とのことなので、ぜひSNSで発信してみてはどうだろう)。
他にも、カードゲームのデッキのごとく既存の曲を抜き差しして自分なりのプレイリストを作り聴き倒すのもよし。彼らに影響を与えたブラック・ミュージックを始めとするルーツを探るのもいいし、彼らのコピーをするのだって〈いい遊び〉だろう。
そんな無限の〈音楽での遊び〉の可能性を秘めた、ちょっと胸アツなKroiのサードEP。彼らはきっと今後も次々と〈音楽での遊び〉を我々に提供してくれることだろう。