ヒップホップやファンク、ソウル、ブルース、R&Bなどのブラック・ミュージックを中心に、ありとあらゆる音楽の要素をごちゃ混ぜにして抽出したような音楽性で話題のバンド、Kroi(クロイ)。2018年に結成され、翌2019年には3000組以上が参加したオーディションを勝ち抜いて〈SUMMER SONIC 2019〉へ出演。2作のシングルと2作のEPとリリースを重ねながら、iTunes StoreのR&B/ソウルチャートでトップ10入りを果たしたり、J-WAVEのパワー・プッシュ〈SONAR TRAX〉に選出されたりと着実に力を付けてきている5ピースだ。
そんな彼らが、新曲“HORN”を10月16日に配信リリース。バンドの結成秘話から新曲について、そして今後の展望まで、内田怜央、長谷部悠生、関将典、益田英知、千葉大樹に話を訊く。
いろんなカルチャーをクロスオーヴァーさせて、行けるところまで
――まずは結成の経緯から教えていただけますか。
長谷部悠生「もともとヴォーカルの内田と俺が高校の時からバンドを組んでいて、ベースとドラムが不在になってしまうんですね。一方でインスタで知り合いだった関と益田はギターとヴォーカルを探していて、ちょうどいないパートが合致したので、スタジオに入ってセッションしてみようということになったのがKroi結成のきっかけです」
――当初はどういう音楽をやろうと思ってたんですか?
長谷部「もともと内田とやってたバンドはサイケ・ロックだったんですけど、その時から共通認識としてあったのは〈踊れる音楽〉をやりたいなという気持ちで。で、益田と関と会ってみて、好きな音楽が似てたんです。それが例えばディスコ・ミュージックとか、やっぱり踊れる音楽で」
――そういう〈踊れる音楽〉を当初はどうやって作ってたんですか?
関将典「結成当初は作り方もバラバラで、お互いがやってたバンドの曲を持ち寄ってやってたんですけど、Kroiとして曲を作り出してからはリファレンスをどうこうするとか、〈こういうのやろう〉っていうよりかは、自分たちが聴いてきた音楽からにじみ出てきたもので曲を作ってみたっていう感じですね。最初はテーマ性もなかったし、とりあえず曲をたくさん作ろうとしてました」
――今現在は制作の仕方やテーマ性が定まってきましたか?
関「今はヴォーカルの内田がデモを作って、その構成をみんなで考えたり、アレンジを詰めたりする制作フローに変わってきましたね。楽曲の方向性としてはジャンルを固めず、〈踊れる〉というのを主軸に毎回自分たちがやりたいアプローチを入れていく形になりました」
内田怜央「曲を作る時にビートから作ることも多くて。メトロノームを流して、こういう感じでノリたいなっていうのを身体で合わせて、そこからドラムを叩いて作るっていう作り方ですね」
――一般的に、日本人って踊らないイメージがあるじゃないですか。どうやって躍らせるんですか?
内田「ありますね(笑)。でも踊ってくれてるのかどうかは分かんないですよ」
一同「(笑)」
千葉大樹「踊ろうとすれば踊れるよっていう?」
内田「ライブの時は俺らが好き放題やってるから、お客さんも好きなように聴いてくれればいいんですけど、自然と身体が揺れるような音楽を目指したいとは思っています。もちろんバキバキにダンスしてくれる人もいてほしいですけど(笑)」
関「だから、踊らないイメージのある日本人ですら動きたくなっちゃうような音楽性が理想ですね」
――では、音楽性ではなくバンド自体はどういうふうになりたいと思っていますか?
関「結成当初から言ってたのは、Kroiっていうものをバンドだけで完結したくないなということで、いろんなアーティストやクリエイターを取り込んだり巻き込んだりしながら一緒に盛り上がっていきたいなと思ってます。今、音楽以外のカルチャーの方が圧倒的に大きいのに音楽だけに留まるっていうのはもったいないですし、いろんなカルチャーがクロスオーヴァーすることで新しいものが出来ると思うんですよね。すでにやってる人もいますけど、俺らもカメラマンとか映像作家とかと一緒に、お互い高め合っていくのを目指していきたいです」
――皆さんは、モデル業とかデザインもやってるんですよね。そういうのもひっくるめて、ということですか?
関「そうですね。ひょんなきっかけでやることが多いんですけど、ブランドのモデルとか物撮りのお手伝いをさせてもらったり、ドラマのチョイ役で出させてもらったりしてます。なのでそういうオファーは積極的に受けていこうと思っています。そういう現場ってライブハウスでは味わえないものが多くて面白いんですよ。鍵盤の千葉もフライヤーとかグッズのデザインだったり、ホームページやSNSのディレクションだったりをしてくれています」
千葉「メンバーになる前にお手伝いとしてやっていたので、その流れで」
内田「お手伝いってかわいいな(笑)」
千葉「(笑)。色々なものを割と内製しています。デザインに統一感があるとバンドの見え方も変わってくるので」
内田「めっちゃ裏方の目線じゃん(笑)。全部ゴッチゴチにやってもらってます」
――いろんなクリエイターを巻き込んで盛り上がるとか高めるって言ってましたけど、その目標はどこまでですか?
関「まあそれを定めちゃったらそこまでな気もするので、特に決めてはいないです。上には上がいる世界なので」
内田「時代がどんどん変わっていく中で、俺らが最高だと思ってるステージが今後最高じゃなくなる可能性だってあるしね」
益田英知「じゃあその時最高なところだね」
ブラック・ミュージックに限らず、衝撃を受けた音楽を自分たちなりに昇華
――ところで、なぜ〈Kroi〉というバンド名になったんですか?
益田「バンド名は俺と関が二人でやってた時に、俺から出した案の一つで、結局二人では別の名前でやってたんですけど、みんなが集まった時にこの名前を思い出して、〈それいいね〉ってなったんです。由来は、みんないろんな音楽が好きな中で、特にブラック・ミュージックが好きだったんで、そこにリスペクトの意を込めて〈Kroi〉になったというのが一つ。もう一つは、いろんな音楽を色に例えたとして、いろんな色が混ざってミックスされると最終的に〈黒〉になる、ということですね。そのダブル・ミーニングでKroiという名前になりました」
内田「益田さんが真面目に喋ってる(笑)」
関「上手に言えたね(笑)」
一同「(笑)」
――ひとえにブラック・ミュージックと言ってもいろいろありますけど、どんな音楽ですか?
益田「結構バラバラで、俺なんかブルースが好きで、例えばファンクとかはそこまで詳しく知らないからそこから教わることが多いんですけど。ゴスペルが好きなヤツ、ヒップホップが好きなヤツ、ファンクが好きなヤツ、みんなゴチャゴチャだよね」
――ブラック・ミュージックのいいところは?
関「それこそ俺らが目指してる身体が自然と動いちゃうような音楽っていうことですよね」
内田「でも何だろうね、割と楽器にフィーチャーしてる部分が多いのかなって思うよね」
――例えば“Suck a Lemmon”に出てくるクラビネットとか?
内田「そうですね。楽器を弾くアーティストでヒーローとされる人って、ブラック系統の音楽をやる人が多いと思うんです。ベースもドラムも突き詰めるとうまい人たちってそういう音楽をやってる人たちで」
長谷部「あとブラック・ミュージックってパッションが強いなって思うことが多くて。例えばジミヘンだったらベトナム戦争の音をギターで再現しているとか、歴史の中で自分たちが体験してきたことを力強く音楽にしている気がします」
関「でも、みんなが共通して好きな音楽の代表格にブラック・ミュージックがあるんですけど、それに限らず、俺らがこれまで衝撃を受けた音楽を日本人である自分たちなりに昇華したいって思ってます」
内田「でもブラックはみんな本当に大好きですけどね(笑)」
――なるほど。ブラック・ミュージックに多大な影響を受けているけど、〈Kroiのジャンルはこれ〉って括らない方がいい、と。
内田「俺らはその時にやりたいとかカッコいいって思ってる音楽をやるだけで、もしかしたら来年にはメタルをやってるかもしれないですし(笑)。やってる人が俺らであれば、それがKroiのクリエイションになるので。だから今も〈Kroiのジャンルはこれ〉って定めてないです。でも第三者目線だとファンクやヒップホップの要素を色濃く出したミクスチャー、と捉えられるのかなと思いますね」
千葉「(小さな声で)いや、ポップスだよ」
一同「(笑)」
千葉「みんなが聴いてくれるようになればそれがポップスって言われるんだから(笑)」
〈俺から出てくるものは、Kroiのメンバーから来てる〉
――その時のKroiのモードを決めるのは、デモを作る内田さんですか?
関「そうですね。デモをまとめて持って来てくれるんですけど、毎回毎回その時のブームというか、ノリとか方向性が変わるんですよね。それを元に新しい曲を作るので、曲調の根っこの部分は怜央のテンション感に左右されてるよね」
内田「でも、俺はみんなと音楽の話するのが大好きで、メンバーの中で今キテる音楽を聴いてインプットしてるんです。だから俺から出てくるものは、Kroiのメンバーから来てるんだと思う」
関「なるほどね」
内田「困った時は、〈あいつはこういうフレーズ好きそう〉って思って作ったり(笑)」
――さっきもちょっと話題に出ましたけど、曲ってどうやって作るんですか?
関「怜央はもともとずっとドラムをやってたので、ドラムから曲を作ることもあるし、ベースやギターも弾けるので、いろんな方法があるんだよね。だからデモが上がってきた段階で全パート入ってて」
内田「そうですね。昼間は生ドラムを叩いてビートを作るし、夜中はそれが出来ないからギターから入れてみようとか試してみたりね。だから縦線はいつもヨレヨレのデモになるんだけど(笑)」
関「あ、あれはギターから作ったらああなるんだ」
内田「いや、セクションごとに違う日に作ることもあるから。だから縦線めちゃめちゃのデモをみんなに〈これでお願いします〉〈これを良くしてください〉って言う感じで渡すんですよ」
関「で、ズレたリズムのまま弾いてそういう曲になるっていう」
一同「(笑)」
内田「だから作り方は本当にいろいろなんです。パーカッションから叩くこともあるし、〈あのエフェクトを入れたい〉っていうところから始めることもあるし」
――そんなデモを受け取って、4人はどうなんですか?
関「内田自身が基本的に〈新しいことをしたい〉っていう気持ちが強い人間なので、出てくるデモは俺らにとっても〈うわ~コレいいな〉っていう真新しさがあるんですよ。真新しさだけじゃなく、そこにトラディショナルな部分があって、いい感じにミックスされてたり。だからデモをもらった瞬間のみんなは〈サイコ~!〉って感じだよね(笑)」
内田「俺のKroiの活動は、みんなにデモを渡して〈うえ~い!〉ってなる時がピークだから、だからそこにめっちゃ命を懸けて頑張ってるっていう(笑)」
一同「(笑)」
益田「根っこの部分で好きな共通する音楽とかアーティストが多いから、全然分からない音楽が来ることもないし、でも毎回意外性はあるからいいんですよね」
関「たしかに〈これは違うっしょ〉ってのは一度もないね」
長谷部「毎回ブチ上がるね」
関「そうそう。それに〈これは違うっしょ〉が来ても面白くなるだろうしね」
益田「あと(内田が)ドラムをやってたので、毎回ビートのアプローチとかノリとかが違うので、面白いんですよね」
――ドラマーから見て、ドラムをやってたソングライターというのはどうなんですか?
益田「〈あ、こんなのもやるんだ!〉ってのが出てくるから面白いんですよ。オカズが多いし、ビートの種類も多いし」
内田「俺、もしかしたら曲自体をドラマー目線で作ってるかもしれないね」
関「怜央の一番やってる期間が長い楽器がドラムなんだよね」
内田「うん。10年くらいやってたので、〈音楽と言えばビートが命でしょ〉みたいな育ち方をしてるんですよね」
――ドラマーの益田さんから〈こっちがいいよ〉とかは言われないですか?
内田「モメることはないですけど、二人でどんなアプローチがいいか吟味するし、ちゃんとそこに益田さんのエッセンスを入れてくれるんですよね」
――で、内田さんはギターも弾けて、デモのベースと鍵盤はどうしてるんですか?
内田「中学の時にギター部に入ってて、クラシック・ギターを弾くんですけど、コーチに気に入られた人は2年生からエレキ・ベースになれるんです(笑)」
――それってランクアップしてるんですかね(笑)。
内田「分かんないけど、それでベースはちょっと弾けて。みんながクラシック・ギターを弾いてる間にレッチリのベースをスラップで弾いてました(笑)。鍵盤は全然弾けないので、デモではコードを弾いてるくらいで」
関「鍵盤の千葉は去年の12月に正式に加入したんですけど、そこからのデモは鍵盤もしっかり入ってるよね」
内田「ちょっと入れすぎちゃうんだよね(笑)」
千葉「鍵盤ってどんな音でも出せるからやれることはすごく広がったよね」
Kroiの最終目標
――少し話はそれますけど、仲のいいバンドっています?
関「それがそんなにいないんですよね。3月に一緒にツアーを回ったBREIMENとDinoJr.とは仲良くなりましたけど」
益田「彼らとはやってる音楽が似てるし、3日間ずっと一緒にいたんで、そこで意気投合しましたね」
関「下手に近いバンドを言っちゃうと、コメントで〈似てる〉とか書かれるから嫌で(笑)」
一同「(爆笑)」
関「だからライブハウスのブッカーの人とかイベンターの人にも言われるんです。〈ブッキングしづらいよね〉って。似た感じのバンドがあまりいないし、〈容姿とか音楽性がどことなら合うんだろう〉って思うみたいで。でもそれは俺ら自身にもあって、どのバンドが近しい界隈なのか分かってなくて、こないだのツアーでBREIMENとDinoJr.と回った時に〈あ、このバンドとは一緒にやっていけるな〉って思ったんですよね」
内田「でも常にアウェーでいたいですね。いかに誰もやってないことをやるかっていうことだと思ってるんで、あんまり周りは気にしてないです」
――じゃあ、ああいう風になりたいっていう先輩とかは。
関「何だろう……それも目標と一緒で、ああいう風になりたいというよりかは唯一無二になりたいですね」
内田「何だろうね……レディ・ガガかな」
一同「(爆笑)」
関「初めて聞いたけど超いいね(笑)!」
内田「この前考えたんだけど、Kroiの目標さ、ハーフタイム・ショーに出たくない?」
益田「それは超出たい!」
関「なるほどね、じゃあハーフタイムショーに出てる面々になりたいってことだ」
内田「アメフトかNBAのハーフタイム・ショーね。決めた。ハーフタイム・ショー出たいです(笑)」
――(笑)。例えばアシッド・ジャズを取り入れたSuchmosが2015~17年にブレイクして、クラシックを学んでR&Bとかジャズの要素も取り入れたKing Gnuが2019年に来て、じゃあ次にKroiが来るとしたら、Kroiらしさって何だと思います?
関「目指すところとしては、俺らの音楽を聴いてくれた人たちが〈ブラック・ミュージックっぽいのがいいね〉って言ってくれるんじゃなくて、ブラック・ミュージックの本質まで聴きに行ってくれたらいいなと思ってます。俺らからさかのぼって70'sの、どファンクのバンドまで聴くようになって、その良さまで理解してくれるリスナーがどんどん増えてくれたらなって。自分たちもそうだけど、リスナーの音楽に対するリテラシーを上げていきたいんです。どうしても日本のリスナーが聴く音楽ってポップスが圧倒的な強さを持っているから、そこ以外にも面白い音楽があるよって気付いてもらえるような、そんな機会を与えられるのがKroiらしさなんじゃないかなって思います」
――過去のインタビューでも〈邦楽全体を盛り上げたい〉みたいなことを仰っていて、今の言葉に通ずるのかなと思いました。その一方で、邦楽と洋楽って接近しながらも絶対的に違うものだとも思っていて、日本でウケる曲と海外でウケる曲って違いますよね。
関「そうですね。でもそれも〈今はそうだけど〉であってほしいんです。最近だとBTSなんて世界中で共通の評価をされていて本当すごいと思うんです。そういう風に、日本のアーティストが1アーティストとしてグローバルに聴かれるようになればいいなって思ってます。〈このバンドは日本のバンドだよね〉って分けて考えられるんじゃなくて、世界中のアーティストの一連の中のひとつとして聴かれるようになること。それが最終目標かもしれないですね」
内田「BTS、こないだ〈タイニー・デスク〉(Tiny Desk Concerts)にも出てたよ」
一同「おお~」
内田「〈タイニー・デスク〉出たいよね」
千葉「出たいよ!」
――日本の人には世界中の音楽の要素を取り込んでその良さを伝えてほしいし、海外の人には邦楽の良さを伝えてほしいし、そういう存在になれたらいいですよね。
益田「そういうところを混ぜるっていうのは結構意識してますね。あんまり〈洋楽っぽくしよう〉ってやってもテンション上がらないし、日本のポップスを聴いてる人にも届くようにしたいし、そこにいかに自分たちの好きな音楽のエッセンスを混ぜるかっていうことに気を使って制作してますね」
関「もちろん言語の壁はありますけど、例えば〈サウス・バイ〉(SXSW)とか〈コーチェラ〉とかに、日本から来たゲスト枠じゃなく、普通にタイムテーブルに日本のバンドが載ってるようになったらむちゃくちゃいいですよね」
――いやさっきから聞いてて本当その通りなんですけど、超絶難しいことに挑戦しようとしてますよね。
千葉「いっぱい練習しないといけないよ?」
一同「(笑)」
内田「でもそれが難しいことは分かり切っているんで、俺らが出来なくても――いや、やるんですけど――〈その困難な道をここまでは掘り進めたよ〉っていうのを示せたらいいなって思いますね」
関「今後も1年2年でどんどん新しいバンドが出てくるわけで、彼らにそのマインドを継いでもらえるような存在になるのが理想ですね。まあ、俺らの代で叶えるけどな!」
益田「もう後継者の話してるよ(笑)」
内田「だってさ、そのうちめっちゃかっけえ若いバンドをプロデュースしてるかもしんないよ(笑)?」
一同「(笑)」