The Best Damn Thing
近年のUKでもっともブレイクしたロック・バンドとされるマンチェスターのペール・ウェイヴスが、ロックダウン期間を経て待望のセカンド・アルバムを完成。そこに表れてきた大きな変化はバンドの今後を大きく占うもののようで……

 抜き差しと緩急のある構成でエモーショナルなフックの爆発力を蓄えた“Change”や“Easy”など先行カットの大きな変化から予想できたように、まるで『Let Go』オマージュのようなジャケに包まれた中身は、ヘザー・バロン・グレイシー(ヴォーカル/ギター)が敬愛するアヴリル・ラヴィーンらの影響をストレートに反映したもの。BBCの〈Sound Of 2018〉に選出され、1975のメンバーも関与した初作『My Mind Makes Noises』(18年)の成功によって新世代UKシーンのホープとして大きく脚光を浴びたペール・ウェイヴスだけに、待望のセカンド・アルバム『Who A m I?』が示す大きな変容に戸惑いを感じるインディー・ロック・ファンも多いだろう。全曲を彼女とキアラ・ドラン(ドラムス/シンセサイザー)が共作してキアラの80s趣味を投影した前作に対し、今回ふたりの共作はわずか。全体を覆う空気は90年代のアラニス・モリセットやホール、リズ・フェアーから、アヴリル、パラモアの登場ぐらいまでの、オルタナやパンクがメインストリームの様式として定着した00年代の風情で、それはヘザーが聴き親しんできたものであり、いずれにせよ〈女声版1975〉とも評された雰囲気は大幅に後退した。制作はリッチ・コスティ(ミューズ他)をプロデューサーに迎えてLAで行われ、ロックダウンが始まるタイミングでヒューゴ・シルヴァーニ(ギター)とチャーリー・ウッド(ベース)は帰国したものの、ヘザーとキアラはLAに留まってそのままリモートで完成させたという。00年代メインストリームのノリをリアルタイムで知る人なら恐らくヒラリー・ダフやケリー・クラークソンらの歌声が脳裏をよぎるんじゃないと思うが、ヘザーは大半の楽曲をソングライターのサム・ド・ジョングとコライトしていて、往年のマトリックスやリンダ・ペリー仕事を連想させるプロダクション主導型のバンド・サウンドに似たテイストなのも大いに頷ける。

 自身の意志を優先したヘザーの正直さは、恋愛や心の闇、固定観念や無理解への怒りなどを綴った各曲のテーマにも明らかだ。なかでもヘザーが自身のセクシャリティーを包み隠さず表現した“She's My Religion”は彼女がガールフレンドに宛てたラヴレターでもあるそうで、ラストの“Who Am I?”は疎外感を抱えた人に向けられた真摯な逸曲。悩める若者に等身大で寄り添い、〈他人の期待に応えようと振る舞う必要はない〉と歌いかける頼もしい姿勢は、このアルバムの作風に二重の意味で反映されている。