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野宮真貴の贅沢な使い方

――〈ムーン期〉の1曲目でもある“Memories Of Moonage Nightlife feat. Maki Nomiya”は2020年6月にリリースされていて、連続リリース・プロジェクトの実質1曲目でもありますよね。この曲に野宮さんが参加したのにはどんな経緯があったのでしょうか?

「シンセをいじりながら曲が出来上がったとき、〈あれ、これ野宮真貴さんの声が聴こえるぞ〉と、本当にふと閃いたんですよね。野宮さんの声で〈Moonage Nightlife〉と脳内再生されて」

2020年のシングル“Memories Of Moonage Nightlife feat. Maki Nomiya”
 

――思春期には〈僕が聴いちゃいけない音楽〉だった渋谷系を代表するPIZZICATO FIVEの歌声が、そのとき突然流れ出したんですね。

「そうなんです(笑)。当時はたしかにそう思ってたんですけど、考えてみれば、上京したあと、そのころ流行っていた〈渋谷系元ネタ探し〉なんかには興味を持っていて。それがアズテック・カメラみたいなネオアコだったり、スタイル・カウンシルなどのブルーアイド・ソウル、カーティス・メイフィールドとかのブラック・ミュージックを後追いするきっかけになりました。

そうして元ネタを知っていく過程で〈あぁ、こういうことだったのか〉と30歳を越えたくらいで、ようやく良さがわかるようになってきたんです。それで、いまならお願いする資格があるのかな、と……。10代のころに魅力に気づいていれば、また違ったふうにできていたんだろうなと思うんですけどね」

――それにしても、野宮さんが歌っているのが〈Moonage Nightlife〉のワン・フレーズだけというのは贅沢ですね。

「歌ものでお願いすることもできたのかもしれないんですけど、コロナ禍でがっつり録音というのもどうなのかな?と思って。せっかく野宮さんにお願いしたのに、歌っていただいたのがワン・フレーズというのが、逆にラグジュアリーな感じを出せてかっこよかったのかもしれない。ラジオに出演したときも、贅沢だとすごく言われましたね(笑)」

――そして今回、最新楽曲としてリリースされたのが“Memories Of Moonage Nightlife feat. Maki Nomiya (2021 Tokyo Lounge Mix)”。“Memories Of Moonage Nightlife”に〈Tokyo〉と〈Lounge〉が加わったセルフ・リミックスですね。

“Memories Of Moonage Nightlife feat. Maki Nomiya (2021 Tokyo Lounge Mix)”
 

「ラウンジ・テイストにアップデートしたのには2つ理由があります。1つは、サンダーキャットのニュー・アルバム『It Is What It Is』(2020年)にラウンジの要素が強く入っていて、印象深かったんですよね。飛行機のアナウンスを取り入れた曲とかもあって。インパクトはジャケ含めて前のアルバム(2017年作『Drunk』)のほうがあったと思うけど、今回は前の作品より全然聴きやすくなってたんです。

そこで思い出したのが、2000年代前半ごろに、FPM(Fantastic Plastic Machine)さんや砂原良徳さんが作っていたラウンジ・テイストのある音楽がすごく流行っていたこと。そのころに自分が持っていたそうしたサウンドへの憧れを、いまの自分なりに落とし込んでみたくて。実際に、ボサノヴァっぽいリズムは砂原さんの『TAKE OFF AND LANDING』(98年)の曲を意識しています。メロトロンもFPMの“BEAUTIFUL DAYS”(2002年)から着想していて」

Fantastic Plastic Machineの2002年作『beautiful.』収録曲“BEAUTIFUL DAYS”
 

――あのころは、橋本徹さん監修のカフェ・アプレミディのコンピなんかも一世を風靡してましたね。

「カーミンスキー・エクスペリエンスのコンピや、二コラ・コンテのようなクラブ・ジャズなどいろいろ流行ってましたね。お洒落なレコード・ショップにはだいたいイルマのコンピなんかが置いてあって。いまとはまた違ったテイストでラウンジが推されていた記憶が残ってます。90年代後半には〈グランジからラウンジへ〉なんてフレーズもあったり。僕は学生だったこともあり、記憶に焼き付いてるのもあって。局地的にでも、またラウンジが盛り上がったらいいなと」

――野宮さんをフィーチャーしたことにも、原曲とはまた違った意味合いが出てきそうですね。ラウンジ・ミュージックのアイコンとしての野宮真貴というか。

「やっぱり野宮さんは渋谷系を代表する方で、ラウンジ・ミュージックのイメージもある。去年原曲をリリースしたときはいま以上に自分の存在が知られていなかったし、そのころに比べればリスナーも増えてきたので、いま一度野宮さんがくれた声をフィーチャーしたいなという気持ちもあります」