Photo by Andy Ford

ジャズピアニストでメタラーの西山瞳さんによるメタル連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。第88回で取り上げるのは西山さんが心酔する新鋭バンド、スリープ・トークンです。リリースされたばかりのニューアルバム『Even In Arcadia』はメタルファンの間だけでなく音楽シーン全体で大きな話題になっており、全米・全英チャートで1位を獲得。そんなスリープ・トークンの魅力とは? 西山さんならではの視点で綴ります。 *Mikiki編集部

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SLEEP TOKEN 『Even In Arcadia』 RCA/ソニー(2025)

 

2014年に「Jazz The New Chapter」というムック本が発売され、日本のジャズシーンに大きな影響を与えました。

それまで歴史を追ったガイドブックが主流だった中、年代ごとではなく水平に越境しつつ広がる現代ジャズを網羅的に紹介した本で、特に若いリスナーへアプローチし、ジャズ=1940〜1960年代のモダンジャズの固定観念から脱却し、ジャズ観を広げる役割を果たしました。

それを踏まえて、「Metal The New Chapter」があるとすれば、その代表格であろうバンドが、スリープ・トークンだと考えています。

 

これがヘヴィメタルであるかと問われれば、なんとも返答し難い。しかし、このバンドの音楽の重要な部分は、明らかにメタル。ジャンル区分が意味をなさないほど、スリープ・トークンの音楽は多方面に開かれており、私はこのバンドの可能性と、このバンドが起こす未来を想像して、とてもわくわくしています。

そして、そのスリープ・トークンのニューアルバム『Even In Arcadia』が、5月9日にリリースされ、世界的にチャートを席巻しています。日本盤の発売は6月25日です。

 

そのスリープ・トークンとは。

2023年のアルバム『Take Me Back To Eden』は、2023年のベストアルバムの一つに入れました。

メンバーは覆面姿、ボーカルのみヴェッセルという名前がありますが、ドラムの名前がII、ベースがIII、ギターがIV、3人の女性コーラスがエスペラと、徹底して匿名です。

『Take Me Back To Eden』が素晴らしかった上、匿名性とビジュアルが謎めいているのが気になって、SNSをフォローし、遡って過去作を聴くようになりました。

メタル方面からは明らかにメシュガー以降のジェントの流れもあり、ドゥームのようなアプローチもあるのですが、ボーカルはR&B的な歌い方をするし、ヒップホップの要素もあり、ゴスペルの匂いもする。ピアノやサックスなどアコースティック楽器の使い方も、非常に巧い。スケールの大きな音作りで、とにかく非常に重層的。メタルとは括れない多ジャンル音楽のミックスした複雑な音楽なのですが、とてもポップ。

 

“Nazareth”で顕著に思ったのですが、スリープ・トークンを聴いていると、時折コンテンポラリーゴスペルのバンドのサポートをしていた時の感覚を思い出すんです。

当時、カーク・フランクリン、カート・カー&ザ・カート・カー・シンガーズなどの曲を演奏していて、強いグルーヴの中でフィジカルに感じる感動があり、それとは別に、何か内面に入り込んでくる不思議な力、音楽と心身ともに合体する歓びがあったのですが、表面的にはあまり関係ないのに、不思議とその感覚を思い出すのですね。

 

このバンドの音楽のほとんどが、ミドル〜スローテンポなのも特徴的で、最初から轟音という曲はほとんどありません。

最初は静かにアコースティックな音がメインで、徐々に高めていき、さながら悲しみや痛み、エモーションの高まりの爆発として轟音がやってくる。ダイナミックレンジがとても広く、くるぞくるぞ……というところでドーン!と轟音がやってくるので、より衝撃が大きいです。

ボーカルのヴェッセルの力は本当に凄まじく、低音域から高音域のファルセットまでグラデーションのように美しく声が変化し、ライブ映像を見ていると、スクリームも自分でやっている。(IVがしている時もあるみたい)これを一人で両立させているのが、本当に不思議。R&Bシンガー的なビブラートも特徴的ですが、拍に対して突っ込まず、一拍が広くゆったり聴こえるタイムで歌うのは、ヘヴィメタルにはあまり見られなかったことで、とても気持ちがいいです。

このボーカルの圧倒的な牽引力に加え、ドラマーのIIの力も凄い。

このバンドの音楽を引っ張る第二の主役は、ギターではなくドラムです。

ドローンのように長い音が鳴る時間にも、強力に耳を惹くドラムが入ってきて、ドラマーの引き出しの豊かさとテクニック、それだけではなく、しっかり大きなビジョンを持っているドラミングは、バンドのイメージを大きく広げています。

親切にもプレイを見せてくれている動画が沢山あるのですが、私はドラマーではないですけど、面白くて一通り見ました。

 

ニューアルバム『Even In Arcadia』は、5月9日に配信されて以来、もう何周も聴いています。

とにかく、アルバム全体をマスクする肌触りがこれまでで一番優しくて、心地よい。

ミュージシャンとして興味深い部分や発見も沢山ありますが、詳細に音楽の内容について言及するのも、野暮な気がしてきました。そういうことを考えずに肌触りのみを楽しむ、また、聞き流せるアルバムでもあるのが凄いところだと、心から思います。この、ヘヴィメタルを踏まえ様々な要素が結実した新しいポップスは、未来の音楽を聴いている感覚すらあります。

 

そして、『Even In Arcadia』は、私にとってブラッド・メルドーの『Largo』と同じく、世界が変わって見えるアルバムになりました。

〈イヤホンで聴きながら街を歩いていると、世界が変わって見えるアルバム〉って、ありませんか?

人々が歩く姿が映画のように見え、道端に咲く花や芽吹く雑草も美しく見えたり、建物がどこか退廃的に見えたり、それぞれにストーリーがあることが立ち上ってくる。あるとないとでは世界が変わって見える、イコール、この音楽が私の世界を見る目を変えてくれる、そんなアルバムだと感じ、何度も繰り返し聴いているところです。

(シンバルみたいな金色のレコードを買うか迷っています。こんな素敵なもの、買っても針は落とせない……!)

 

これまで何度か〈救済感〉や寄り添うメタル、ヒーロー不在の音楽ということについて、書いてきました。

ブリング・ミー・ザ・ホライズンの『amo』以降と認識していますが、この、メタルやハードコアが轟音のままポップに近付いていき、等身大で赤裸々に感情表現をする流れには、どこか〈解放〉を感じており、自分がかつて好きだったメタルとは全然違いますが、メタルが成長して次の世代に繋がっていった結果なのだろうなと感じています。

スリープ・トークンの最近のライブ映像を見ると、完全にアリーナクラスのアーティストであり、とても幻想的な照明使いと没入感のあるステージ、まるで宗教儀式のようです。

しかし、パフォーマンス映像やヴェッセルの顔を見ていると、なんだか不思議な気持ちになります。そもそも全員記号で覆面なので、何者かもわからないし、その救済感も本当かどうかわからない。

救世主か破壊者かわからない。けれど、いつの間にか心酔していく自分がいる……。

早くこの目でパフォーマンスを見たくて仕方ありません。

 

実は、昨年の〈政則十番勝負〉のプロモーション動画で、スリープ・トークンのシャツを着ていたのですが、誰にも指摘されなかった(笑)。

6月にはソニーミュージックから国内盤がリリースされるので、日本ではこれまでと違う大きな動きになるでしょう。いずれ来日が実現することを、切望しています!

 


■SLEEP TOKEN
RELEASE INFORMATION

SLEEP TOKEN 『Even In Arcadia』 RCA/ソニー(2025)

■輸入盤、デジタル・アルバム
リリース日:2025年5月9日(金)
配信リンク:https://sleeptokenjp.lnk.to/EIA

TRACKLIST
1. Look To Windward
2. Emergence
3. Past Self
4. Dangerous
5. Caramel
6. Even In Arcadia
7. Provider
8. Damocles
9. Gethsemane
10. Infinite Baths

■日本盤CD
リリース日:2025年6月25日(水)
品番:SICP-6703
価格:2,860円(税込)
解説・和訳歌詞付

TRACKLIST
1. ルック・トゥ・ウインドワード
2. イマージェンス
3. パスト・セルフ
4. デンジャラス
5. キャラメル
6. イーヴン・イン・アーケイディア
7. プロヴァイダー
8. ダモクレス
9. ゲッセマネ
10. インフィニット・バス
11. イマージェンス(インストゥルメンタル)*
12. イーヴン・イン・アーケイディア(ピアノ・ヴァージョン)*
*日本盤のみ、ボーナス・トラック

 

■西山 瞳
LIVE INFORMATION
Enrico Pieranunzi & more
2025年5月21日(水)東京・池袋 Apple Jump
開場/開演:19:00/19:30 ※2 sets
出演:西山瞳(ピアノ)、小美濃悠太(ベース)
ミュージックチャージ:3,000円
TEL:03-5950-0689
オフィシャルサイト:https://applejump.net/

2025年5月24日(土)神奈川・横浜 上町63
開場/開演:15:00 ※2 sets
出演:西山瞳(ピアノ)、小牧良平(ベース)、則武諒(ドラムス)
ミュージックチャージ:3,300円 ※学割あり
TEL:045-662-7322
オフィシャルサイト:http://jmsu.web.fc2.com/63/

西山瞳piano × 牧山純子violin Duo Tour
2025年6月4日(水)大阪・北新地 Jazz club GALLON
2025年6月5日(木)愛知・名古屋 Mr.Kenny’s
2025年6月6日(金)岐阜・高山 茶房 蔵茂
2025年6月7日(土)長野・松本 Storyhouse Cafe & Bar
詳細:http://blog.livedoor.jp/hitomipf79/archives/52580044.html

2025年6月14日(土)神奈川・横浜 上町63
開場/開演:15:00 ※2 sets
出演:西山瞳(ピアノ)
ミュージックチャージ:3,300円 ※学割あり
TEL:045-662-7322
オフィシャルサイト:http://jmsu.web.fc2.com/63/

2025年6月20日(金)東京・池袋 Apple Jump
開場/開演:19:00/19:30 ※2 sets
出演:西山瞳トリオ 西山瞳(ピアノ)、西嶋徹(ベース)、則武諒(ドラムス)
ミュージックチャージ:3,500円
TEL:03-5950-0689
オフィシャルサイト:https://applejump.net/

2025年6月21日(土)東京・三鷹 Natural
開場/開演:14:00/14:30 ※2 sets
出演:西山瞳 × 橋本一子 ピアノデュオ
料金:ミュージックチャージ 4,000円+テーブルチャージ 800円+ご飲食代+消費税
ご予約はウェブサイトの予約フォーム、あるいは電話(18:30以降)
TEL:0422-56-8291
オフィシャルサイト:https://musicsalon-natural.jp/

★詳細やその他のライブについては西山瞳のオフィシャルサイトへ

 

RELEASE INFORMATION
西山瞳率いるメタルカバープロジェクトNHORHMの1stと2ndアルバムがリマスタリング&紙ジャケ仕様にてリリース!!

NHORHM 『New Heritage Of Real Heavy Metal』 APOLLO SOUNDS(2024)

リリース日:2024年12月4日(水)
品番:APLS1510R
価格:2,750円(税込)

TRACKLIST(曲名 / オリジナルアーティスト)
1. In the Dead of Night / U.K.
2. Walk / Pantera
3. Man On the Silver Mountain / Rainbow
4. Skin Oʼ My Teeth / Megadeth
5. Fear of the Dark / Iron Maden
6. Upper Levels / ANGRA
7. 悪夢の輪舞曲 / BABYMETAL
8. Demonʼs Eye / Deep Purple
9. The Halfway to Babylon / 西山瞳
10. Green-Tinted Sixties Mind / Mr. Big

■メンバー
西山瞳 piano
織原良次 fretless bass
橋本学 drums

■ゲストミュージシャン
小田朋美 vocal track 4
馬場孝喜 a. guitar track 5
市原ひかり trumpet track 8
橋爪亮督 sax track 10

 

NHORHM 『New Heritage Of Real Heavy Metal II』 APOLLO SOUNDS(2024)

リリース日:2024年12月4日(水)
品番:APLS1612R
価格:2,750円(税込)

TRACKLIST(曲名 / オリジナルアーティスト)
1. Kings Of Metal / Manowar
2. Speed / Loudness
3. All Over The Nations / Helloween
4. Decadence Dance / Extreme
5. Beyond The Realms Of Death / Judas Priest
6. Iron Man / Black Sabbath
7. Mystery Of Babylon / 西山瞳
8. Over The Hills And Far Away / Gary Moore
9. The Gift Of Music / Dream Theater
10. THE ONE -Live Version- / BABYMETAL (Bonus Track)

■メンバー
西山瞳 piano
織原良次 fretless bass
橋本学 drums

■ゲストミュージシャン
田中充 trumpet track 4
宮崎隆睦 a. sax  track 4
橋爪亮督 t. sax track 4
池田雅明 trombone track 4

冠徹弥(from THE 冠)vocal   track 4

 

西山瞳 『Echo』 MEANTONE(2024)

リリース日:2024年10月2日(水)
品番:MT-13
価格:3,190円(税込)

TRACKLIST(全曲 西山瞳作曲)
1. Echo エコー
2. West World ウエスト・ワールド
3. Ants アンツ
4. Arrakis アラキス
5. Raindrops レインドロップス
6. Cobalt Blue コバルト・ブルー
7. River リバー

■メンバー
西山瞳 ピアノ、作曲 Hitomi Nishiyama piano, compose
西嶋徹 ベース Toru Nishijima bass
則武諒 ドラムス Ryo Noritake drums
鈴木孝紀 クラリネット Takanori Suzuki clarinet (except 5)
橋爪亮督 テナーサクソフォン、フルート Ryosuke Hashizume tenor saxophone, flute (except 5)
maiko バイオリン maiko violin (except 5)

2023年7月12-14日 群馬県高崎市TAGO STUDIO TAKASAKIにて録音
録音・ミックス・マスタリング:松下真也(Piccolo Audio Works)
FAZIOLI F278使用 ピアノ技術:越智晃(Fazioli Japan Co., Ltd.)
写真:和田高広(ライトアンドプレイス湿板写真館)

 


PROFILE: 西山 瞳 

1979年11月17日生まれ。6歳よりクラシックピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコース・ジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I’m Missing You』を発表。ヨーロッパジャズファンを中心に話題を呼び、5か月後には全国発売となる。2005年、〈横濱JAZZ PROMENADE ジャズ・コンペティション〉において、自身のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をSpice of Life(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めて〈ストックホルム・ジャズ・フェスティバル〉に招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『Parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、〈インターナショナル・ソングライティング・コンペティション〉(アメリカ)で、全世界約15,000のエントリーのなかから自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコードのジャズ総合チャートで1位、HMVの総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自身のレギュラートリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『Shift』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカバーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、ヤング・ギター誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズの両面から話題になり、すべての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。同作は『II』(2016年)、『III』(2019年)と3部作としてシリーズ化。2019年4月には『extra edition』(2019年)もリリース。自身のプロジェクトの他に、東かおる(ボーカル)とのボーカルプロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグバンドへの作品提供など、幅広く活動。〈横濱JAZZ PROMENADE〉をはじめ、全国のジャズフェスティバルやイベント、ライブハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさが共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。