ポスト・ロックとジャム・バンドが浸透した時代のさらにその先にあるインストゥルメンタル表現とは?――京都の4人組バンド、jizueはその道標となる作品を作るべく、4枚目となるニュー・アルバム『shiori』のレコーディングに臨んだという。
「好きなバンドもたくさんいるんですけど、ポスト・ロックは〈ポスト〉と付いている時点ですでに2番手、みたいな感じがするし(笑)、ジャム・バンドも自分たちのルーツにはないので、どちらもしっくりこないんですよね。jizueのライヴにおけるインプロヴィゼーションも、自分たちとしてはジャズに近いものだと思っているので」(粉川心、ドラムス)。
jizueにあって歌に相当するメロディックな部分を担うのは、ウェス・モンゴメリーやパット・メセニーの影響が滲む井上典政のギターと、クラシックや現代音楽を学んできた片木希依のピアノ。その緻密な絡みを活かしながら、エモーショナルかつプログレッシヴに構築する彼らのバンド・アンサンブルは、高い技術と理論に裏打ちされたものだ。
「自分たちにとって、セッションから生まれる曲は完成度という点で物足りなく感じてしまうんですね。だから、曲作りはコンピューター上で徹底的に詰めてるんです。そのうえで、今回はライヴを想定して、余白を残すことができるようになったのは、過去の経験を踏まえた成長の証ですね」(井上)。
「ただ、演奏で遊び倒していても、メロディーは歌えるものであってほしいですし、井上くんからは〈もっとグッとくるものにならへん?〉て、よく言われますね(笑)。あと、以前は夜中のスタジオに集まって制作していたのに対して、今回は淡路島で合宿しながら、太陽が差し込むなかで曲を作っていたこともあって、グッとくる感じがもっと爽やかというか。今回、カヴァーしたカーペンターズ“Rainy Days And Mondays”もメロウな原曲から一転して、ハッピーなアレンジになりましたからね」(片木)。
そして、本作にはゲストに同郷の女性バンド、tricotよりヴォーカルの中嶋イッキュウを迎えた“photograph”とShing02をフィーチャーした“真黒”という2曲を収録。特にループするリズムに感情を凝縮した後者は、ヒップホップのビート感覚を内包したクリス・デイヴのような、現代的なドラマーを愛する粉川たっての希望で実現した共演曲だ。
「今回、Shing02さんから〈いままでやったことがないことをやりたい〉っていうリクエストがあって。“真黒”は何曲か作ったなかでも尖っているというか、トラックとして成立しつつ、ライヴのような荒々しさも感じられるエッジーな曲だと思います」(粉川)。
そうした意欲的なトライアルが伝えるバンド内の充実は、ジャズ・オリエンテッドなクロスオーヴァー感覚を押し進め、楽曲の豊かなヴァリエーションへと直結。持ち前の叙情的な旋律や演奏のダイナミズムと相まって、本作はグッとくる瞬間が何度となく訪れる。
「演奏するために曲を作っていた以前までの流れを経て、今回、初めてアルバムのために曲を作ったんですね。もちろん、作品を聴いてライヴにも来てほしいんですけど、現場以外で聴かれることを念頭に入れて作ったこのアルバムをまずは聴いてほしいですね」(井上)。 *小野田雄
▼関連作品
左から、SHING02+DJ $HINの2013年作『1200 WAYS』(Turntable Troopers/ウルトラヴァイヴ)、8月6日にリリースされるtricotのニュー・シングル“Break”(BAKURETSU)
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▼文中に登場したアーティスト関連の作品
上から、ウェス・モンゴメリーの62年作『Full House』(Riverside)、カーペンターズの71年作『Carpenters』(A&M)、クリス・デイヴが参加したロバート・グラスパー・エクスペリメントの2012年作『Black Radio』(Blue Note)
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ここではjizue関連の作品を一部紹介します。2010年に初アルバム『Bookshelf』(NEUTRAL NINE)でCDデビューした彼らは、翌年のシングル『Chaser/Sun』からNabowaらを擁するbudへ移籍。2012年には初の歌モノ“kotonoha”も披露した2作目『novel』(bud)を発表します。同年には人気ゲームのトリビュート盤『FINAL FANTASY TRIBUTE ~THANKS~』(スクウェア・エニックス)にも参加して知名度を高めると、2013年にはYeYeやサッコン(韻シスト)を迎えたヴォーカル曲も含む3作目『journal』(bud)をリリース。なお、片木は景山奏(Nabowa)のソロ・ユニットによるセルフ・タイトル作『THE BED ROOM TAPE』(AWDR/LR2)やeiji(Dachambo)のアルバムなど、昨年は外仕事でも腕を振るいました。 *bounce編集部
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