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“眩しい朝日”が牽引する前向きで力強い新作『Newestrong』

――そんな中、新作『Newestrong』が出ます。タイトルは、どういう意図で付けたんですか?

「集まった5曲をアルバムにするにあたって、まず全ての曲に通ずる要素を探したんです。その結果、全曲テーマは違っていても、前へ向かっていく強さを持っているという点で共通しているなと思って、それで〈strong〉というワードが頭に浮かびました。

あと、このアルバムが自分にとっての最新作だったので、ふと〈最新って英語でどう言うんだろう?〉と思って調べたら〈Newest〉で。ちょうど〈st〉が被っているから、これをつなげたらいいタイトルになるんじゃないかと思って〈Newestrong〉にしました。語呂もいいし、ちゃんと〈最新の強さ〉という風に意味も成立しているので、気に入ってます」

――本作は初の全国流通盤となりますが、どんな風に制作に取り組みましたか?

「いままではライブ会場でアルバムを販売するという目標が最初にあって、そこに向けて動くという流れだったんですけど、今回はアルバムを作るという目標が先にあったわけではないんですよ。

関西の情報番組『おはよう朝日です』のテーマ曲として“眩しい朝日”がオーディションで選ばれたのをきっかけに、その曲を収めたCDをリリースしようということになり、そこから過去にリリースした曲も一緒に収録したらいいんじゃないか……という感じで、だんだんアルバムを制作する方向へと固まっていったんです。なのでやはり、制作のきっかけである“眩しい朝日”という曲がアルバム全体のトーンを決定づけているような気がします」

『Newestrong』収録曲“眩しい朝日”
 

――そうだったんですね。では、“眩しい朝日”以外の収録曲の制作時期は結構バラバラですか?

「“ハートレス人間”と“ノスタルジーラムネ”は去年配信リリースしたものなんですが、“escape”と“勇者”はもっと前の作品です。特に“escape”は、学生時代に書いて最初のミニ・アルバムに入れたくらいの、古くからある曲で。ただ、昔の曲はこれを機にリアレンジして、新たに録音しました」

 

アレンジャーとの信頼関係から生まれた広がりのあるアレンジ

――アレンジと言えば、本作には乃木坂46“僕は僕を好きになる”などの編曲を手掛けた石原剛志さんがアレンジャーとして参加しています。過去にもシングル“開花”(2019年)などで一緒にやられていますが、優利香さんから見た石原サウンドの魅力って何でしょう?

「壮大さ、ですかね。ストリングスの使い方がすごく特徴的で。アレンジをお願いするときは弾き語りのデモ音源を渡して〈こんな感じにしたい〉というイメージを伝えるんですけど、いつも自分の想像の遥か上を行くような広がりのあるアレンジにしてくださるんです」

2019年のシングル“開花”。アレンジは石原剛志
 

――いつも意図を汲んで仕上げてくれる石原さんとの間に、いまでは確固たる信頼関係があるかと思いますが、最初アレンジを依頼するにあたって、曲が持っていた素朴な魅力が損なわれてしまうかもしれないという不安はなかったですか?

「以前は、バンド・サウンドで録られたスタジオ録音曲を弾き語りでやるというライブ・スタイルだったので、もとの音源とのギャップがライブのお客さんにどう受け止められるのかが不安やったんですけど、曲をアレンジされるということ自体への不安はあまりなかったですね。

もともとバンドが好きというのもあって、自分以外の人のセンスが加わることで曲がさらに華やかになってくれたらいいなっていう思いが強かったからですかね。そういう意味で、私のシンガー・ソングライターとしてのアイデンティティーは、〈アコースティックな音楽性〉というところではなくて、〈曲を書く人〉というところにあるのかもしれないです」

 

最新曲で始まり原点となった曲で終わる構成

――曲の並び順や全体の構成はどんな風に決めたんですか?

「一番届けたい“眩しい朝日”を一曲目に持ってくるというのは最初から決まってたんですけど、それ以降の流れはライブのセットリストを組むような気持ちで決めました。アレンジの方向性やテンポの早さなどを考慮しながら、こんな流れだったら心地よいなっていうのを考えて。

あと、“escape”は自分にとって原点とも言うべき曲だったので、それをあえて最後に持ってくることで〈最新曲で始まり原点となった曲で終わる〉という構成にしたら、現在から過去へ遡っていくような感じになって面白いかもと思って、そうしました」

――実は“escape”という曲に関して訊きたかったことがあって。〈escape〉は〈逃げる〉という意味で、そこには少なからず否定的なニュアンスがあると思うんですが、この曲の歌詞は逃避を肯定的に捉えて表現しているように感じられて、そこがいいなと思いました。曲を作る上で、その意識はありましたか?

「私は〈escape〉という単語を〈逃げる〉というより、むしろ〈脱出する〉という意味で捉えていたんです。それで、いまの不甲斐ない自分から脱出するんだ、という思いを込めて書きました」

 

日々の断片が物語を連れてきてくれる

――なるほど、納得しました! ところで曲を作るときはメロディーと歌詞、どちらが先ですか?

「基本的に歌詞が先ですね」

――詞先だと自由に書ける反面、制約がないからこそ難しい部分もあるかと思いますが、その辺りはいかがですか?

「今回のアルバムもそうですけど、曲の長さが全体的に長くなってしまうんですよね(笑)。書きたいことを全部書こうとすると、どうしてもそうなってしまって……」

――そもそも制約がない中で、何をとっかかりにして書きはじめるんですか?

「日頃から感じたことや思いついたことなどをスマホのメモ帳に書き残すようにしているんですけど、よし曲を作るぞ!という段階で溜まったメモを見直して、そこに書いてある断片的なフレーズを繋げたり広げたり、あるいは並べ替えたりしながら書くことが多いですね」

――〈こういう曲にしよう〉みたいなコンセプトありきというよりは、日頃からストックしている断片からインスピレーションを受けながら書くという感じなんですね。断片はそれ自体ではバラバラなものだと思いますが、それをどうやって一つの物語、歌詞世界に編み上げていくのでしょう?

「もちろん一曲を書くのに断片を全部使うわけではないので、たくさんある断片の中からある一つを選び出したとして、今度は残りの断片の中からそれと本質的に通ずるテーマを持っていそうなものを選び出したり、あるいはその断片からの連想で新しく言葉を紡いだりして、書いていきますね。その過程で、ある物語や世界がだんだん出来てくるというか」

 

ごく個人的な体験が作り出す普遍的な歌

――それにしても、どの曲も鮮やかに物語が浮かび上がっていますよね。たとえば“ノスタルジーラムネ”では、〈ラムネ〉というモチーフの位置づけ・扱われ方が曲の進行と共に少しずつ変わっていくじゃないですか。1番では手が届きそうで届かないものの象徴としてのラムネのビー玉にフォーカスしていたのが、2番では切なさの象徴としてのラムネの甘酸っぱい味にフォーカスしていく。その辺りが絶妙だと思います。

「ありがとうございます! 書いている中で歌詞の世界に没入して、主人公に感情移入していくと、無意識のうちにそういうことをやってるんですよね。なのでそういう風に同じモチーフの意味合いを変化させていくということは、実はあまり意識していないんです。

でももしかしたら、サビで同じ言葉を繰り返さずに展開していく歌詞構成が好きというのが、関係しているかもしれないです。聴き手としても〈1番は前向きやけど、2番はめっちゃ後ろ向き〉みたいに、歌詞の内容やトーンが変化していく曲が好きで」

『Newestrong』収録曲“ノスタルジーラムネ”
 

――引き続き“ノスタルジーラムネ”についてなんですが、歌詞に出てくるドッジボールの描写を聴いていると、情景がリアルに頭に浮かんできます。これは優利香さんの実体験に基づいているんですか?

「はい。実家近くの空地で、小さい頃に友達とドッジボールをよくやっていました。私、ドッジボールが本当に下手くそでよくボールを当てられていたんで、そういう経験がこの曲には反映されていますね(笑)。この曲に限らず全ての曲に関して言えることなんですけど、こういう情景描写以外の部分も、基本的に実体験に基づいて書いています」

――そうなんですね。結構ネガティヴなことも包み隠さずに書いていますが、中でも“ハートレス人間”の最初のサビに出てくる〈くだらない くだらない〉というリフレインが印象的でした。ネガティヴな言葉をメロディーの盛り上がりのピークに持ってくるというのは結構珍しいかなと思うんですが、これはあえてですか?

「基本的にいつも歌詞を書いてからメロディーを作っていくんですけど、この曲のこの部分に関してはギターを弾いて歌いながら歌詞を作っていて、気付いたら〈くだらない くだらない〉と歌っていたんですよね。なので何か作為があったわけではなく、メロディーと言葉がほぼ同時に口をついて出てきたという感じです」