ジャズ・ピアニストでありながらメタル・ファン(そして大のBABYMETALファン)としても知られる西山瞳さんによる連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。第36回目となる今回は、5人組ロック・バンドBring Me The Horizonについてです。BABYMETALも参加している最新EP『POST HUMAN: SURVIVAL HORROR』国内盤CDは本日1月27日にリリース。西山さん、よろしくお願いします! *Mikiki編集部

★西山瞳の“鋼鉄のジャズ女”記事一覧

 


ブリング・ミー・ザ・ホライズン(Bring Me The Horizon、以下BMTH)の新譜『POST HUMAN: SURVIVAL HORROR』の国内盤CDが1月27日にリリースされました。

実は、私がBMTHをしっかりと意識したのは、このMikikiの記事でした。

 

レディオヘッド(Radiohead)と並べて、〈ロックの解体/再構築を促すアルバムとなりうるのか〉と、多彩なアプローチを取り入れた前作『amo』(2019年)の拡張されたサウンドについて書かれていて、非常に興味を持ちました。

私は高校の頃にハードロック・ヘヴィメタル漬けの時期がありましたが、その最後の頃にレディオヘッドの『OK Computer』(97年)が大ヒットになって、MTVでずっと“Paranoid Android”のミュージック・ビデオが流れていました。もちろん私もアルバムは持っていたし聴いていたのですが、この諦観と手触りが〈私の好きなロックはもう終わったのかも〉と思わせると同時に、ロックを聴くモチヴェーションがかなり下がったんですね。

 

その後、メタルもロックも聴かず生活がジャズ一色になってしまってから、ブラッド・メルドー(Brad Mehldau、ピアノ)の演奏する“Exit Music”でレディオヘッドと衝撃的な再会。当時、周りのジャズ・ミュージシャンは皆、メルドーのライブ盤『Art Of The Trio Vol.4』を興奮して聴きまくっていましたが、私もご多分に漏れず狂ったようにこのアルバムを聴いており、このライブ盤のラストでたどり着いた“Exit Music”の美しさたるや、本当に官能的で破滅的な美しさがありました。ジャズファンでない方にも、ぜひ聴いて頂きたい演奏です。

歴史的に、ジャズ・ミュージシャンは時代時代の流行歌を取り上げてスタンダードにしてきましたが、現在流行しているものが年月に耐えうるかどうか、スタンダードになっていくのかどうか、現在ではわかりません。しかし、あれから20年経ち、レディオヘッドはスタンダードになる非常にストロングなものだったことが証明されています。当時の性格がこじれた高校生メタラーから見て、〈こんなのロックじゃない〉と思っていたものは、時代やジャンルを超える力を持っていました。時代を乗り越える力があるものは、その時の自分の印象だけでは判断できないなと、強く感じた一件でした。

 

さて、Mikiki記事で紹介されていたBMTHの「ロック・シーンとの繋がりを感じられない」というインタビュー、レディオヘッドのトム・ヨークの「ロックなんてゴミ音楽だ」という発言と並べて書かれているのを見て、もしかしてまた何かを打ち破り、乗り越えるものが出てきたのかなと思って、興味を持って記事を読んでいました。『amo』もチラッと聴いてはいたのですが、その時は〈わりとポップだな〉〈ロックっていうよりEDMみの方が強いね〉と思っただけで、あまり引っ掛からなかったんですね。

その後、同じ年にBABYMETALのゲストとしてパフォーマンスした公演を埼玉で2回、大阪で1回の合計3回見たのですが、初日からノックアウトされ、これはすごい、ポップだと舐めていた!と思いました。目が離せない強烈なアート性と暴力性、根底はヘヴィロックだけどインテリジェンスがあって、でもとてもポップで、圧倒的に格好良いのにいつでもしっかりオーディエンスの心の傍にいる。毎公演の現場現場で状況を見ながらしっかりオーディエンスとコミュニケーションして、ステージを作っていく、ステージ運びの巧さとハッピーさ。これは皆好きになっちゃうわーと思いました。このバンドをライブで体感できたって、後々自慢できることになるんじゃないかな?とすら思いました。とにかく感心して、一気に虜になったんですね。〈CDはライブ・パフォーマンスの最低ライン〉と常々思っていますが、それどころか、ライブが数百倍良かったんですよね。

ライブに限らず映画や芸術全般は、非現実世界のために高いチケット代を払うわけですが、映像演出も非現実世界へぶっ飛ぶ装置として最大限に有効利用していて、次のBABYMETALのステージが目当てで来た全くBMTHに興味がなかった人もその時間全部持っていっちゃう、完璧なステージだったと思います。

 

その後で過去作も遡って聴いてみたら、『amo』が特殊だったというか、BMTHのロックから拡張していく一つの到達点の作品だったのだなとわかりました。だからあのMikikiの記事があったのか、と。

ライブで“The House Of Wolves”(2013年作『Sempiternal』収録)が始まった時に、明らかに会場の空気が変わったので、以前からのBMTHファンが求めてガン上がりするのはここか、と、ライブを踏まえてバンドの辿ってきた音楽性を遡るのは、非常に面白かったです。

そのBring Me The Horizonの新譜『POST HUMAN: SURVIVAL HORROR』が、フィジカルで発売となりました。

BRING ME THE HORIZON 『POST HUMAN: SURVIVAL HORROR』 RCA/ソニー(2020)

こちらは2020年10月に先行配信されており、配信開始当日に聴いていました。ロックってこうだよなと思わざるを得ない会心の一撃であり、また、時代を一緒に乗り越える優しさを含めた強さを感じる、まさに今聴いてもらいたい傑作だと思います。

 

前作『amo』が非常にポップで聴きやすくEDM色強め、自分の内面の愛と向き合う作品だったのが、今作では直情的で、情熱や怒り、不安やフラストレーションを惜しげもなく放出する〈ロックにガチで戻ってきた〉という印象。でも、一周回って初期作品に戻ってきたのではなくて、『amo』を踏まえて愛を包摂し、新たなステージに立って怒りを放出しているような、足場のしっかりしたエネルギーの爆発を感じます。

 

そして、今作で特に感じるのが、個人の感情と社会や政治とのリンク。それは決して歌詞で直接的に言っているわけではないのですが、どうやったって、このCOVID-19の世界的流行や分断と呼ばれる時代と照らし合わせて聴かずにおれず、歌われる個人の内面と社会や政治は直結しているということを考えてしまいます。自分の置かれた時代と対照して聴くという行為は今ならではのものかもしれないけど、時代性やローカル性こそが時代を飛び越えて残るものかもしれないと、聴き手に想像させる余地がいくらでもあるスリリングな作品でした。

ヘヴィなロックのサウンドと、トリップするデジタルなサウンドで迫ってくるので、聴きながら〈我々は今この時代をsurviveしないといけないのだな〉と、改めて考えてしまいます。怒りを爆発させたロックとはいえ、ミックスは『amo』のサウンドを踏襲しており、非常に近未来的。以前のデスコアとは音の世界観や広がる世界のスケールも随分違います。

 

冒頭1曲目“Dear Diary,”で、ロックダウン下で我々が溜め込んだ怒りを、我々の代わりに大爆発。

2曲目“Parasite Eve”は、最初こそ終末感も感じさせるブルガリアン・ヴォイスで始まりますが、サブスクでイヤホンで聴く現代仕様のロック。インタビューなどを見ると、コロナ禍より前に書かれた曲ということだそうですが、非常に暗示的な内容になっていて、すごい時代に我々は生きているのだなあと思いますね。

私は3曲目“Teardrops”のメロディーが好きで、最初に聴いた時からNHORHMでカヴァーする機会があるなら、まずはこの曲かなあと思って聴いていました。自身もドラッグ中毒を克服した経験のあるオリー(オリヴァー・サイクス)の体験談的なMVは、現代のロック・シンボルはただ強くカッコいいだけではなくて、痛みを共有できることもロック・シンボルとしての強さなのだろうなと思います。

4曲目“Obey with Yungblud”。〈Obey〉といえば、私は真っ先に映画「ゼイリブ」が出てきます。実は秘密のサングラスをかけたら、広告には〈Obey〉(従え!)って書いてあって、実は洗脳されていて支配層に隷従してしまっている、というやつですね。ですがしかし、BMTHはそこで終わらない。MVが最高なので見てください。このオチのつく、やさしい世界を。

5曲目“Itch for the Cure (When Will We Be Free?)”の序章に続く6曲目“Kingslayer feat. BABYMETAL”は、日本のファンが待っていた待望のBABYMETALとのコラボ。BMTHとBABYMETALはこれまで何かと接点がありましたが、満を辞してBMTHのアルバムの方にゲストとして迎えられるのは、BABYMETALファンの私としても感慨深いものがありました。そして、世界観がバッチリすぎる良い曲に当ててもらえましたね……! 一気にファンタジーの世界にぶっ飛んでいく異世界感は、BABYMETALというヘヴィメタルの異物だからこそ出せたものですね。

7曲目“1X1 Feat. Nova Twins”。このコラボ、すごく格好良いです。フィーチャーするゲストに女性アーティストが多いのがまた今の時代らしく、それぞれの個性の良いところをフルで聴かせてくれる見事なコラボでした。

8曲目“Ludens”は、PS4®用ゲーム「DEATH STRANDING」のために書かれた曲。前述した2019年10月のBABYMETALとのライブで初めて聴いたのですが、そんなに要素の多い楽曲ではないのに、どこか映画的というか、世界の広がりを感じる、スケールの大きさやエネルギーを感じる不思議な曲です。中毒性が高い。

最終曲“One Day the Only Butterflies Left Will Be in Your Chest As You March Towards Your Death Feat. Amy Lee”に、まるで母のようなエイミー・リー(エヴェネッセンス)を持ってくるのも、BMTHは優しさがあるから強いのだなと思っちゃいます。ここまで聴いてあっという間。

日本盤ボーナストラックには、2019年のライヴ音源3曲が入っています。中でも“Ludens”は毎回最初に演奏していたので、現場で聴いた時の興奮を思い出しますね。「今からすごいものが始まる!」という予感を追体験できるのは、本当に嬉しいです。

 

BMTHは、これを起点に4枚のEPをリリースするとのこと。1枚のアルバムをじっくり作るのではなく、わざわざ4枚にするということは、必ずや急激に変化していく世界と向き合った内容になるだろうし、BMTHの持つ時代の切っ先となるエネルギーと、優しさがあるからこその強さを、長く待たなくても聴けるということですね。時代の立会人になっているのだという自覚とともに、次の作品も待ちたいと思います。

 


Bring Me The Horizon INFORMATION

●ブリング・ミー・ザ・ホライズン超応援店11店舗によるパネル展開催&パネルプレゼント企画!
2019年の来日公演(8月単独公演@新木場スタジオコースト、11月BABYMETAL 〈METAL GALAXY WORLD TOUR〉@さいたまスーパーアリーナ公演スペシャル・ゲスト出演)より貴重な写真を展示! 実施店舗、期間はコチラから

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西山瞳LIVE INFORMATION

1月31日(日・昼)
YouTubeチャンネルにてライブ配信予定
開始:13:00
https://www.youtube.com/user/hnofficialm

2月28日(日・昼)埼玉・蕨Our Delight(電話048-446-6680)
西山瞳トリオ(西山瞳、佐藤ハチ恭彦(ベース)、池長一美(ドラムス))
開場/開演:13:30/14:00
料金:3,600円
http://ourdelight.blog.jp/

詳細はhttp://hitominishiyama.net/

 

RELEASE INFORMATION

東かおる、西山瞳『フェイシス』発売中!
2013年作『Travels』に続く、東かおる(ヴォーカル)・西山瞳(ピアノ)共同名義作品の2作目がリリース決定。前作同様、市野元彦(ギター)、橋爪亮督(サックス)、西嶋徹(ベース)という、日本のコンテンポラリー・ジャズ・シーンの最重要メンバーで録音。詳細はこちら

東かおる,西山瞳 『フェイシス』 MEANTONE RECORDS(2020)

東かおる、西山瞳『フェイシス』トレイラー動画
 

PROFILE:西山瞳

1979年11月17日生まれ。6歳よりクラシック・ピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコース・ジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I'm Missing You』を発表。ヨーロッパ・ジャズ・ファンを中心に話題を呼び、5か月後には全国発売となる。2005年、横濱ジャズ・プロムナード・ジャズ・コンペティションにおいて、自己のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をSpice Of Life(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めてストックホルム・ジャズ・フェスティバルに招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。

以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、インターナショナル・ソングライティング・コンペティション(アメリカ)で、全世界約15,000エントリーの中から自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコード・ジャズ総合チャート1位、HMV総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自己のレギュラー・トリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『シフト』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカヴァーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、YOUNG GUITAR誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズ両面から話題になり、すべての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。同作は『II』(2016年)、『III』(2019年)と3部作としてシリーズ化。2019年4月には『extra edition』(2019年)もリリース。

自己のプロジェクトの他に、東かおる(ヴォーカル)とのヴォーカル・プロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグ・バンドへの作品提供など、幅広く活動。横濱ジャズ・プロムナードをはじめ、全国のジャズ・フェスティヴァルやイヴェント、ライヴハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさの共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。