何かしらの振る舞いのために試聴生活をがんばって雑食的にしたり、単純にシェア分析そのものを好むような人ならさておき、本来は各々が本当に好きなものを聴いて楽しめばいいと思うだけなのだが、だとしてもこの十何年かのロックを取り巻く状況にはなかなか辛いものがあったようだ。ただ、当然のように時々は良い季節が巡ってくるもので、ブリストルのアイドルズやロンドンのシェイム、ブラック・ミディあたりのフレッシュなアップカマーが熱視線を集めてきた昨今、彼らと並んで新しい息吹を届けてきたのがフォンテインズD.C.である。その鮮烈な存在を何かの救世主のように扱ってしまうのも古臭い慣習に違いないが、つい手放しで何かを口走りたくなってしまう気持ちもよくわかるぐらい、彼らはストレートにかっこいいバンドなのだ。

 地元のダブリン・シティーをその名に刻んだ彼らは、2017年に結成されたアイルランドの5人組。シャープでミニマルなポスト・パンクの情緒と鋭角的なギター・サウンドは、ロックンロール・リヴァイヴァルの括りで世に出てきた頃のストロークスも引き合いに出されるもの。クールな文学性を孕んだ無愛想なヴォーカル、エッジーで攻撃的なリフ、ロックンロールの根源的なグルーヴを備えたタイトなバンド・サウンドからは、往年のジョイ・ディヴィジョンやフォールといった先達のように知的な雰囲気と凍てつくような熱さが発散される。振る舞いの上手さや失敗しないセンスを今日的なアーティストのインテリジェンスと見なすなら、彼らに感じる知性はあくまでも詩世界や音のイメージに端を発する古めかしいものだが、それこそが彼ら最大の魅力でもあるのではないだろうか。

 2019年のファースト・アルバム『Dogrel』は各メディアからも大絶賛され、マーキュリー・プライズにもノミネートされるなど高評価を獲得したが、そうした状況の変化とそれに伴うツアー生活によってメンバーたちは疲弊していたそうで、このたび完成したセカンド・アルバム『A Hero's Death』にもそのムードは大いに投影されることとなった。

FONTAINES D.C. 『A Hero’s Death』 Partisan/BIG NOTHING(2020)

 前作に続いてプロデュースを担当したのはダン・キャリー。彼のロンドンのスタジオでレコーディング作業は行われ、資料によるとスーサイドやビーチ・ボーイズ、レナード・コーエン、ビーチ・ハウス、ブロードキャスト、リー・ヘイゼルウッドらの影響を反映しながら進行していったという。確かに先行シングル“A Hero's Death”はビーチ・ボーイズ風味もある幻惑的なハーモニーを備えた新境地を見せていたり、それぞれの収録曲からもシンプルな初期衝動や持ち味の成熟に止まらない音楽的な枝葉の広がりが感じられる。冒頭の“I Don't Belong”が痛切な響きでスケールアップしたバンドの現在形を伝える一方、ひたすら真顔でシャープに攻める“Televised Mind”のような楽曲も引き続き用意されており、葛藤の中で大きく成長した彼らの魅力が多彩に披露されている。

 なお、アートワークにあしらわれたクー・フーリンの像はダブリンに建つアイルランドの神話の戦士だそうで、そんなアイデンティティーと故郷への誇りが彼らの世界を強固に支えているのは想像に難くない。参加が発表されていた〈フジロック〉の中止で初来日が先延ばしになったのは非常に残念だが、『A Hero's Death』の詩情豊かなサウンドから5人の新たな挑戦を感じることができるはずだ

 


フォンテインズD.C.
カルロス・オコンネル(ギター)、コナー・カーレイ(ギター)、コナー・ディーガン3世(ベース)、グリアン・チャッテン(ヴォーカル)、トム・コール(ドラムス)から成る、アイルランドのポスト・パンク・バンド。ダブリンの音楽学校で出会い、2017年に結成。同年5月に最初のシングル“Liberty Belle”を自主リリースし、以降もシングルを重ねていく。2018年にNYのパルチザンと契約。2019年のファースト・アルバム『Dogrel』は全英9位にチャートインし、マーキュリー・プライズにノミネートされるなど高い評価を獲得する。今年に入ってから“A Hero's Death”などのシングルも話題を集めるなか、セカンド・アルバム『A Hero's Death』(Partisan/BIG NOTHING)を7月31日にリリースする。