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コラム

STR4TA『Aspects』ジャイルス・ピーターソンとブルーイが追求した現在進行形のブリット・ファンクとは?

©Casey Moore

 詳細が明かされないまま昨年リリースされた“Aspects”の12インチが即ソールドアウトとなり、ジャズ・シーンやクラブDJたちの間で話題となっていたストラータ。その同名アルバム『Aspects』の完成と同時に明らかになったのは、このプロジェクトがジャイルズ・ピーターソンとブルーイ(インコグニート/シトラス・サン他)のタッグであるということだった。インコグニートが〈匿名〉を意味することを思えばおもしろいが、かつてジャイルズが主宰したトーキン・ラウドにインコグニートが在籍し、共にアシッド・ジャズのムーヴメントを推進してきた両者の間柄については言うまでもないだろう。そんな二人が掲げるテーマは〈ブリット・ファンク〉。オフィシャル・インタヴューにおいてジャイルズはこう説明している。

 「僕の感覚として、みんながまたブリット・ファンクを求めているような気がしてたんだ。最近の音楽を聴いたりしていてね。僕のレーベルのブラウンズウッドからユセフ・カマールが出したアルバムもブリット・ファンクっぽいんだ。評価も高かった。若い子たちがそういうサウンドを求めてるんだね。それでブルーイに〈ファンク・アルバムにしよう〉って言ったんだ」。

 ここで彼が言うところのブリット・ファンクとは、70年代末から80年代初頭にかけての〈ニューウェイヴ・ジャズ・ファンク〉とも括られたバンド――ライト・オブ・ザ・ワールド(LOTW)、フリーズ、アトモスフィア、インコグニートらを育んだエネルギッシュなシーンのことであり、まさにブルーイはその中核にいたひとりだった。彼は78年にロンドンでピーター・ハインズらとLOTWを結成するもデビューに前後して脱退。フリーズへの加入~脱退を経て、改めてハインズらとインコグニートを結成している。当時の界隈では人脈が横断しており、ハインズも在籍したアトモスフィアがメジャー・デビューする傍ら、フリーズやLOTWも形を変えながら一定の成功を収め、さらにはシャカタクやレヴェル42、セントラル・ライン、ハイ・テンションら国外で名を馳せる面々も出てきた。

 後にフリーズの“Southern Freeez”をソンゼイラにカヴァーさせたこともあるジャイルズが、若き日にそうしたシーンの熱に魅了されていたのは想像に難くないが、当時は成功を逃したブルーイが数年後にインコグニートを再興したタイミングでトーキン・ラウドと契約するに至る。そのように付き合いの長い両者ながら、今回のストラータでは純粋にメンバー同士としてクリエイティヴに向き合ったそうだ。

 「ブルーイのスタジオにいろんなレコードを持って行って、〈こういう感じでいこう〉って作戦会議をした。僕がアルバムを作るにあたっていちばん気にするのは〈クリーンになりすぎない〉ようにすることなんだ。その点ブリット・ファンクは、アメリカン・ジャズやジャパニーズ・ジャズ・ファンクみたいに滑らかすぎず、もっと荒々しい。それが好きなんだ。なんていうか、ちょっと脆い感じの音にしたい。今回のアルバムは、そういうイメージから始まったんだ」。

STR4TA 『Aspects』 Brownswood/BEAT(2021)

 『Aspects』のレコーディングには、現インコグニート~シトラス・サンを支えるフランシス・ヒルトン(ベース)とマット・ クーパー(キーボード/ドラムス)をはじめ、リチャード・ブルや先述のピーター・ハインズ、ランディ・ホープ・テイラーといった新旧ブルーイ軍団の面々が参加。言うまでもなくブルーイは各ユニットやソロ名義も交えた作品をコンスタントに送り出し、多作ななかで洗練を極めてきたアーティストである。それでも洗練より粗削りな往時のスタイルを望むジャイルズとのコラボは、原点を顧みるフレッシュな挑戦となったようだ。

 先行シングルとなった表題曲は、90年代にハウス方面で再評価されたアトモスフィア“Dancing In Outer Space”を連想させるグルーヴィーな疾走チューン。そのスペイシーなドライヴ感は続く“Rhythm In Your Mind”にも流れ込む。ソウル的な歌唱よりもプレイヤー陣のミュージシャンシップを重視したフュージョンに近い楽曲性はまさに往年のブリット・ファンクそのものだろう。幻想的な鍵盤の踊る“Dance Desire”やアップリフティングな“Steppers Crusade”も演奏陣のクールな熱気が伝わる出来映え。一方では歌モノとしての快感を備えたブギーな“Give In To What Is Real”もあれば、クール&ザ・ギャング味も渦巻くホーンズ入りのアフロ・ファンク“Kinshasa FC”もあり、終幕はブラジリアン・ハウスのようなフュージョン“Vision 9”で幕を下ろす。他プロジェクトとはまた異なるストラータならではの爽快な昂揚感が彩り豊かに表現された快作と言っていいのではないだろうか。

 余談ながら、昨年にはハイ・テンションやLOTWのメンバーから成るブリット・ファンク・アソシエーション(ハインズも参加)が『Lifted』を発表し、LOTWが21年ぶりのアルバム『Jazz Funk Power』を放ったのも記憶に新しい。一方ではパリのシュワナガのようにDJ目線で往年の楽曲を再定義する流れもあり、つまりブリット・ファンクは二重の意味で現在進行形というわけだ。その両方の意味合いを兼備したストラータが鮮烈な『Aspects』を届けたのも、確かに時代が要請した必然なのかもしれない。

 


ストラータ
インコグニートなどを率いるブルーイことジャン・ポール・モーニックと、ブラウンズウッドを主宰するジャイルズ・ピーターソンによるプロジェクト。もともと70年代末から複数のバンドで活動していた頃のブルーイとジャイルズが出会い、その後インコグニートがトーキング・ラウドに在籍していた90年代に縁を深めた両者が、〈ブリット・ファンク〉をテーマにしてプロジェクトを開始する。秘密裏に楽曲制作とレコーディングを進め、詳細を明かさないまま2020年9月に初音源となる“Aspects”を12インチ・シングルと配信でリリース。その後に素性を明かして両者のプロジェクトであることを公表し、このたびファースト・アルバム『Aspects』(Brownswood/BEAT)をリリースしたばかり。

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