ジャイルス・ピーターソンとインコグニートのブルーイによるニュー・プロジェクト、STR4TA(ストラータ)。アルバム『Aspects』でデビューを飾った彼らのサウンドは、70年代後半から80年代前半のイギリスで巻き起こったブリット・ファンクに影響を受けたものだ。
ファンクやソウルとジャズ/フュージョンが結びつき、さらにディスコやニューウェイヴなどのエッセンスも取り入れたのがブリット・ファンクで、シャカタクやレヴェル42をはじめ、フリーズ、アトモスフィア、ライト・オブ・ザ・ワールドなど様々なグループが活躍していた。当時はニュー・ロマンティックなどによって第2次ブリティッシュ・インヴェイジョンが世界的に巻き起こり、ブリット・ファンクもその一翼を担うムーヴメントであった。そして、80年代後半から90年代前半のアシッド・ジャズにおけるブラン・ニュー・ヘヴィーズ、ジャミロクワイなどにもその音楽性は引き継がれていった。
ブリット・ファンク・バンドとしてデビューし、後にアシッド・ジャズの旗手としてワールドワイドに活躍していくインコグニート。そんなインコグニートのリーダーであるブルーイだからこそなしえたのがSTR4TAであり、そこへジャイルスの時代の先を読むDJ的な嗅覚、エッジ感のあるダンス・ミュージックのセンスを注入して『Aspects』は完成した。
既に昨年よりプロモ12インチが話題を呼んでいたが、今回はアルバム・リリースを記念してDJの松浦俊夫、須永辰緒両氏の対談という形で、STR4TAの魅力について探っていく。ジャイルスたちと親交があり、90年代から2000年代、そして現在にいたるクラブ・ジャズ・シーンで活躍してきた両氏の話は、ブリット・ファンクが出てきた頃の話からクラブ・シーンとの交わり、さらにアシッド・ジャズ時代のことや現在の新しい世代に向けてなど、広がりを見せていく。
松浦俊夫が〈やられた!〉と思ったSTR4TA
――STR4TAのアルバムのご感想をいただければと思います。
松浦俊夫「結構早い段階でアルバム全体のデータをもらっていたので、去年の夏頃には全部聴いていたんです。聴いて、〈あっ、やられたな!〉というのが正直なところですね」
――松浦さんもこんなことをやりたいと考えられていたんですか?
松浦「アイデアのひとつとしてあったというか。数年前にロブ・ギャラガー(元ガリアーノ、トゥー・バンクス・オブ・フォー)の結婚式がロンドンであって、そのときに昔懐かしいメンツというか、DJだったりミュージシャンだったり、ロブの周りにいた人たちが一斉に集まったんです。そのときにジャイルスとロブとブルーイが一緒にいて、記念写真を撮ったりしたんですが、そこで〈こういうことができたらいいのに〉という話になって。
もちろんブルーイのインコグニートでの活動は知っているんですけど、インコグニートとしてではなくて、こういう音楽をやったらどうなるのかなと、そのときふと思ったんですね。で、それからブルーイにも〈一緒にやれたらいいよね〉という話をして……。それから3年ほど経った去年に、〈STR4TAをやったんだ〉とジャイルスから聞いたとき、〈ああ、やられた!〉って思ったのが最初のシンプルな感想でした」
――辰緒さんはいかがですか?
須永辰緒「去年出た正体不明の12インチが話題になって、僕はそれで知りました。あれはSTR4TAの“Aspects”の12インチだったわけですけど、それを聴いて思い出したのが2016年だったかな、松浦くんと一緒に出させてもらった南フランスのセットの〈Worldwide Festival※〉で、ジャイルスがフリーズの“Southern Freeez”(81年)をエディットしたヴァージョンをかけたんですよ。一種のディスコ・リエディット的なヴァージョンだったと思いますけど、〈これがいま、いちばん好きなんだ〉と言っていて。
僕はディスコ自体にはあまりいい思い出はないんです。DJの駆け出しの頃に自分ではあまりかけたくなかったディスコをすごくかけさせられた経験があって。でも、その中でも“Southern Freeez”はすごく好きだったんですよね。
あとディスコじゃないけど、レヴェル42を知ったのもディスコの文脈からだったし。その〈ポスト・ディスコ〉というか、ファンク/フュージョンからオブスキュアないまのハウスに繋がるラインがSTR4TAのアルバムを聴いてすっと浮かんできて、一本の線で繋がった感じはありますね」
――フリーズにはニューウェイヴやニュー・ロマンティックも入っていますよね。
須永「そうですね。だから、ポスト・ディスコっていう位置づけではあるけれど、いわゆるUSの黒人音楽的な流れの中のブギーやディスコとは少し違って、UK発の白人が作ったディスコやファンク、アヴェレージ・ホワイト・バンドとかのノリを継承している。それがポスト・パンクやニューウェイヴを通過した感じというか」